クローズド
クローズド1 クローズドサークルの区別
さて、ついに本講義の話題も三つ目である。密室について一応、話すべき基礎的なことは話したので満足している(当然追加はありうるが)。そして密室について話したということは、当然(?)次の話題はクローズドサークルということになる。というのも、このクローズドサークル、非常に密室と混同されやすいのである。そこで密室について基礎的なことを話したならば、クローズドサークルについて説明を加え周辺を補強する方が適切であろうと感じた次第である。
いったい、クローズドサークルとは何か。イメージしてもらいたいのは『嵐の孤島』や『吹雪の山荘』というものである。つまり、何らかの要因によって外界との通信と交通を遮断された空間を指すのである。この『要因』には嵐や吹雪、あるいは地震や山火事といった自然災害から、(多くは犯人による)電話線の切断、アンテナの破壊、移動手段や移動経路の破壊など様々な可能性がある。
なぜクローズドサークルを発生させるのか。無論、犯人と作家の両方に利点があってこそなのだが、それについては次稿に譲るとしよう。有栖川有栖『月光ゲーム』では火山を噴火させてまでクローズドサークルを構築したが、それほど大仰に仕掛けるくらいにはメリットのある状況設定なのである。そのためここで筆を費やすと収集がつかなくなる。ここではあくまで、密室とクローズドサークルという混同しやすいふたつの区別について述べよう。
誰が言ったか知らないが、密室とクローズドサークルを区別する極めて端的な言葉がある。曰く、「密室は死者を閉じ込めるもので、クローズドサークルは生者を閉じ込めるもの」。
あくまで原則であるという点を補足すればこれで本稿を閉じても構わないくらいだが、さすがにそれでは味気ないのでいくつか書き足そう。すなわち密室とクローズドサークルが区別されるのは(犯人がどちらも主体的に構築したという前提で語るなら)「殺人の結果として空間が密閉される」のか「殺人の下準備として空間が密閉されるのか」の違いであるといえる。
ただし、留意しなければならないのは下準備といっても発覚のタイミングは必ず「クローズドサークル」→「密室」とはならないということである。むしろ逆の場合が多いのではないだろうか。
言ってしまえば目的意識の違いである。前述の通りクローズドサークルは閉じ込めるのが目的であるのに対し、密室は殺害および捜査の攪乱が目的である。ゆえにクローズドサークル内には犯人がターゲットとしない人間も含まれうるし、密室内には犯人が殺害を意図した人間しか基本的には存在しないと言えるだろう。
それではなぜクローズドサークルは構築されるのか、次稿はそこを語るとしよう。
人殺しの作法 紅藍 @akaai5555
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