空が茜色に染まるころ

作者 如月芳美

86

31人が評価しました

★で称える

レビューを書く

★★★ Excellent!!!

見知らぬ土地ではじめる高校生活。
ひとつ前の席にいた級友と、みょうにウマが合ってしまう。
これは恋心なのだろうか?
彼が奏でるサックスに心臓は鷲づみにされ、彼が弾くピアノに魂が揺さぶられる。
自由奔放な彼に惹きつけられ、おのれを曝す坂田だったが、ふたりが歩む道程はまるでジャズのようにときに重々しくときに快活に、けっして平坦な道のりではなかった――

自らの性別に悩む坂田と、ありのままに彼を愛する斉木。
ふたりが選びとる道は、均されてなどいない剥き出しのままの岩肌。何度も傷つくふたりに、読んでいて涙が溢れました。
そして日本を飛びだし、パリでの事件。けれでも、最期は恨みではなく親友への感謝の言葉を送った斉木はもちろん、パリで笑顔につつまれていた坂田も。きっとその人生で1番幸せな時間だったのだろうなと涙をぬぐいました。
遺された親友たちの気持ちの変遷を想い、逝ってしまった彼らの心を推し量り……心にとてもつき刺さる物語でした。

★★★ Excellent!!!

人が人を想う気持ちの重さが君にわかるか?
この生き辛さ、という重しが君にわかるか?

こうした問いを、私は感じました。
そしてそこから、目が離せなくなったし、逸らしてはいけないとも思いました。


ここかもしれない、と思えていた居場所を追われ、追い込まれ追い詰められ、そして選択肢も狭められていく。

それでも人は、己の生きる道を探しにゆく。
それでも人は、己が生きられる道を、探す。
それでも人は――。


いつか、いつかもし叶うなら、坂田さんと斉木さんと水谷さんと、色々なことを語り合ってみたいと願う。
コーヒーのカップを両の手で包みながら。

その時、最初に感じた問いに対する答えを、3人に伝えられたらと、そう思っています。


ありがとうございました。
こちらの作品に出合えたことをとても、落涙しつつ感謝しております。






★★★ Excellent!!!

全て読み終わってから、「ここからが本当のスタートなのかもしれない」と思わせるような、重厚かつ圧倒的な迫力がある作品でした。

LGBT、性的マイノリティの非常にデリケートなテーマに「恐れ」でなく「畏れ」を以って真正面から向かい、そして書き切った作者に敬服の念を抱かずにはいられません。

1話目と2話目、そして最後(最期)の時を迎えるまで、まるで細くて脆い1本の線の上を歩いているかのような緊張感を伴います。

斉木と坂田は、はたして何を手に入れ、何を失ったんでしょうか。

いや、きっと「0(ゼロ)」に戻った、還ったんでしょう。
足す事も引く事も、そして掛ける事もないゼロ。
人の物差し、色眼鏡、差別から解放されるゼロ・・・

ゼロは無であり、全て。

ゼロになる事が、もしかしたら本当に2人が望んだ事なのかもしれない。
ゼロこそが、2人が手に入れた「安息」だったのかもしれない・・・

★★★ Excellent!!!

 己のアイデンティティは精神に因る部分が大きい。
 だが、他人は、とりあえずは肉体でしか他人の性を判別することができない。

 男女間だから動物的だとか、ゲイやレズのほうが人間的だとか、
 どちらが正解というような二元論では語れない問題だとぼくは思う。

 誰を好きになろうと、人間同士気持ちよく付き合えるのが望ましいけれど、
 どうしても受け入れ難ければ無理する必要はない。

 ひとは区別をするものだ。

 相手が誰であろうと愛せるなんていうのは悪平等だろう。
 他人の妻を自分の妻と同じように愛せなんて普通は誰も言わないはずだ。

 一歩間違えれば差別だと言われるかもしれないけれど、
 『何が何でも認めろ』というのは、方向性が違うだけで
 『何が何でも認めない』と言っているのと同じくらい暴力的ではないか。

 悲しいけれど、ひとは基本的に分かり合えない生き物であり、ときどき分かった気になるだけである。
 それでも、理解しようと努力することはできる。話し合うことはできる。

 平和的に、うまく住み分けできればいいなと願うばかりである。

★★★ Excellent!!!

週間ノベルス様のレビューから、本作を知りました。
LGBTを扱っただけではなく、様々なメッセージが詰め込まれている深い作品です。

LGBTとわかると、アパート等の契約も断られることもあるのだとか。少しずつ世の中にも理解が広まってはいるものの、考えられないような差別が未だあることをメディア等で知り、驚きました。
芸術関連の本を読んでいて感じましたが、本作でも語られていたように、芸術家の中には、多少多く見受けられるのかも知れません。だからこそ、表現したい、訴えたい想いが、独特の感性と共に届けられるのでしょう。

複雑な事情を一人で抱える坂田くん、何があってもその人らしさを認めようとする、人としての器が大きい斉木くん、二人の良き理解者であり、恐ろしく頭の回る水谷くん。
まだ高校生という、大人になりかけてはいても未熟な彼らが、精一杯考えて、自立しようとする姿には胸を打たれ、誰もが応援したくなります。

LGBTを通して、男女を超えた愛だけではなく、作者様は「命」を描いていると思いました。
命の重さ、人それぞれの幸せとは……? 読み進むごとに考えさせられます。

こう書くと重い話かと受け取られそうですが、取っ掛かりやすく読みやすい文体で、時に艶かしくもあり、「キツい表現」だという箇所にも、読み手への配慮が感じられます。個人的には音楽シーンでもわくわくとしながら、一気にスルスルと読めてしまいました。

LGBTに理解がある方もない方にも、多くの人に知ってもらいたい物語です。
是非、ご一読を!

★★★ Excellent!!!


 ある演歌歌手が言っていた話だ。
 切ない歌を歌う時。身振り手振りを添え、感情を込めながら歌う事で、聴衆を泣かせようとした。だが、どんなに頑張ってもいまいち手応えがない。やがて疲れてしまい、無感情のまま淡々と歌う事にした。すると、会場にはすすり泣く声が響き始めたそうだ。
 その歌手は、歌自体が持っている力を信じることが、歌手には求められるのだろうと締めくくっていたと思う。

 十人十色と言われる人間の個性は、各々の感情にも当てはまる。どれほど仲の良い二人の心を同じように弾いてみても、全く同じ音を返すことなどありはしないのだろう。
 歌手が身の内で膨らませた世界をそのまま押しつけても、観客の同情は引けなかった、私にはそんな話に聞こえた。

 言葉が想像をかき立てる。
 文字とは無味乾燥な記号であるが、不思議と想像を喚起させる力を持っている。小説家はその力をいかに上手く振るえるかが、腕の見せ所になるだろう。
 世界の全てを書き表すことはできない。だから、読者に想像で補ってもらうのだ。
 事細かく書こうとすれば読者の想像世界を狭めることになり、また、読者の想像した世界と異なる箇所が見えてしまえば、作品の途中で興ざめさせてしまうことになる。
 一方、世界の情報を絞りすぎれば、読者が世界を構築できず、作品が追いかけようとする読者を振り払って疾走を始めてしまう。何が面白いのかわからないまま終わっていた。そんな作品になるだろう。
 そのさじ加減は作者によって大きく異なる。

 この作品は世界を書いていない方だろう。
 こんな事があり、こんな会話が交された。出来事を書き表した文章を主にし、硬めに構築されている。三人称の視点で書かれているため、人物の感情の発露による地の文の侵食があまりみられない。文の音が静か、とでも言おうか。
 だが、作品の響かせる音が質素かと言えば、そうではない。
 … 続きを読む

★★★ Excellent!!!

マイノリティな話題を扱った深い内容で、心が揺さぶられます。主人公達の悲劇ともいえる内容ですが、まわりの人達との関わり合いや絆を深く感じることができ、意味のない人生はないと感じました。
しかし単なる重いストーリーではなく、魅力的なキャラクターや緩急のある展開、また音楽的な描写も素晴らしく、まるで映画を見ている様に情景がイメージでき、最後まで読まずにはいられません。

★★★ Excellent!!!

痛々しいほどに 自分の背中の羽を織り込んで 紡がれた ストーリー。
時に 自分を傷つけることを 恐れず
敢えて 苦しい表現を貫き通して 完結に至ったことは
この作家にとって、必ず血肉になっていくだろう。

それでも 私は この話に 絶望よりも 希望を見い出す。
誰かの記憶の中に 深く深く潜り込んで
ほんの時折 水面に顔を出すだけであったとしても。
ラストシーンで 語られた 二人を懐かしむ 会話の中に。

自分は 了見が狭い人間だから、どこかで
身体の関係が 男と女であったことに 安堵してしまった。
それがまた 悲劇を生み出すにも 拘らず。

それでも 大切な人が お互いの人生に 存在したことに
やはり、どうしても 強く 想いを馳せてしまうのだ。

本当は 向き合いたくなどない。
でも、誰もが いずれ 命に向き合う作品を 書くことになる。
そんな 気がして、覚悟をしてみた。

★★★ Excellent!!!

辛い展開が待っていると分かっていても、先に読み進めたくなる。
恐々ページをめくると、苦難の中に一筋の光が見えた。
このお話をどう捉えるかは読者次第だと感じた。
私には、自由な愛の、ひとつの物語だった。
天国できっと、愛らしい小さな人と3人で笑顔で居てくれると信じて☆を置いて行きたい。

偶然にも、作者の別作品が書籍化発表された前後に本作を読ませて頂き、多彩で見事な才能を見せつけたれた思いだが、できることならこの先、本当に書きたいものだけを自由に書いて行って欲しいと心から思った。作者の筆から生まれるすべての物語を追い掛けていけたら、それもまた読者としての幸せだ。

★★★ Excellent!!!

LGBTに正面から向き合い、人を好きになるとはどういうことかという普遍的なテーマを描く、とても深い作品です。

主人公のひとりには、周囲にひた隠しにしてきた秘密があります。一見、読み手の私には無関係のように思えるその事情は、しかし、決して特殊ではありません。私は偶然その事情を抱えずに生まれ育ち、彼は偶然その事情を抱えることになった、というだけの違いなのです。

誰しもが抱える可能性のある事情でありながら、この社会はまだ、当事者を受け入れる寛容さを持ち合わせていない。現実の問題を、二人の主人公の生きざまが、頭脳明晰な彼らの親友が、見事に炙りだしていきます。

冒頭に示される悲劇的結末へと突き進むストーリーの中、唯一の救いは、互いを想い合う二人の主人公のピュアな心です。それ自体が彼らを悲しいラストへと導いてしまうのは、なんともやるせないところですが…。
男だからでもなく、女だからでもなく、ただ、個人として相手を愛しく想う。究極に進化した恋の形であろうと思います。

一生忘れられない物語です。