空が茜色に染まるころ

作者 如月芳美

貴方は水谷君なのでしょう?

  • ★★★ Excellent!!!


 ある演歌歌手が言っていた話だ。
 切ない歌を歌う時。身振り手振りを添え、感情を込めながら歌う事で、聴衆を泣かせようとした。だが、どんなに頑張ってもいまいち手応えがない。やがて疲れてしまい、無感情のまま淡々と歌う事にした。すると、会場にはすすり泣く声が響き始めたそうだ。
 その歌手は、歌自体が持っている力を信じることが、歌手には求められるのだろうと締めくくっていたと思う。

 十人十色と言われる人間の個性は、各々の感情にも当てはまる。どれほど仲の良い二人の心を同じように弾いてみても、全く同じ音を返すことなどありはしないのだろう。
 歌手が身の内で膨らませた世界をそのまま押しつけても、観客の同情は引けなかった、私にはそんな話に聞こえた。

 言葉が想像をかき立てる。
 文字とは無味乾燥な記号であるが、不思議と想像を喚起させる力を持っている。小説家はその力をいかに上手く振るえるかが、腕の見せ所になるだろう。
 世界の全てを書き表すことはできない。だから、読者に想像で補ってもらうのだ。
 事細かく書こうとすれば読者の想像世界を狭めることになり、また、読者の想像した世界と異なる箇所が見えてしまえば、作品の途中で興ざめさせてしまうことになる。
 一方、世界の情報を絞りすぎれば、読者が世界を構築できず、作品が追いかけようとする読者を振り払って疾走を始めてしまう。何が面白いのかわからないまま終わっていた。そんな作品になるだろう。
 そのさじ加減は作者によって大きく異なる。

 この作品は世界を書いていない方だろう。
 こんな事があり、こんな会話が交された。出来事を書き表した文章を主にし、硬めに構築されている。三人称の視点で書かれているため、人物の感情の発露による地の文の侵食があまりみられない。文の音が静か、とでも言おうか。
 だが、作品の響かせる音が質素かと言えば、そうではない。
 話の主題自体が非常に激しい音を持ち、また、幅広い知識に裏付けされた話題や専門用語が、言葉自らの持つ音で作品に熱を与えているのだ。音を奏でるための言葉を用いるのではなく、単語が発する音を正確に捉えて、作品に組み込んでいく。
 言葉に頼る手法。

 作者が望む音を自分で一から作り上げて、演奏する。これも一つの手法だが、言葉が持つ音を頼り、作品に配置していく。これは、選び抜くための判断力と勘を問われる。
 先に述べたように、言葉から連想し、浮かび上がる感情は人それぞれ違う。並べても作者が答えを示さないことで、読者が思い思いの感情を当てはめて読むことができるのが魅力だ。
 もちろん、読者の自由な想像に耐えられるだけの作品でなければ成り立たないわけだが。そのあたりは見事。

 書かれていない心がある。
 これはすなわち、人物の描写が不完全なことを示す。

 少数派を用いた作品である。
 これが今までの経験から解答を導き出すことを困難とさせている。

 不完全であり不理解ゆえに、言葉から補おうとする。
 これを想像するという。

 この作品は想像させるのだ。想像することが同情へと繋がる。
 不完全なために同調はできない。
 だが、この不完全さが同情を生み始める。

 私たちは眺めているのだ。
 この作品を。
 登場人物が必死に生きようとしているのを、彼らになりきることなく眺めているのだ。
 客観的に眺めるからこそ、零れる涙もあるのだろう。
 わき上がる怒りもあるのだろう。
 望む願いも産まれるのだろう。

 想像が感情を動かすのだ。



 純佳










 だーーーーーーーーーーーー!!!!
 ざっけんなあ!!!!
 誰だこんなもん書いたのは!
 俺はBLが苦手なんだよ だけどそれはいい まだいい 作品の趣味や好みは自由だし、言いたいことがあるなら書いた方がいい それはいいんだ
 でもな、デスエンドとかありえねーだろ! 
 は? ラストを書いたらネタバレだって? 一話に書いてるっつーの!
 くっそ、なまじっか読ませる手法を使ってきやがって おかげで最後まで読んじまったじゃねーか 最初にエンディングの形を示すとか、そいつはなんの気遣いだぁ? 読者のショックを和らげるための手法ってか? どっちにしたって、ショックは大きいんだよ!
 ちょくちょく差込まれた「この先不幸注意」みたいなのも、上手いし。そんで読んでみたら、大したエグいわけでもねーし そう、たいしたことなかったんだよ、なぜか
 これ、やべーだろ とか、止めろよ? やめてくれよ? みたいな所も意外とすんなり乗り切ってるし  おう、そうだよ、途中でグロい描写が入ったら、ブラバしてたわ だけどそんなシーンは入らなかったんだよ その辺りの加減もいやらしいし だから読んでいっても大丈夫じゃね? とか思っちまったじゃねーか
 結局これか
 妙に雰囲気よく書かれているのも腹が立つし、二人の関係が初々しい甘さに富んだ味つけにされてるのも腹が立つしよー
 どう接していいのかわかんなくて、一歩進んだり下がったりするくせに、肝心なところでずっこける斉木がどうしようもねーし  色んな物抱え込んで、どれも一人で下ろせなくなってるくせに自分でなんとかしようとする坂田が可愛いし
 ここまで書いたら幸せにしようって考えになるだろ? 普通はよー
 作者はドSなんじゃねーか? とか思うわけよ てかもう間違いないな 確定
 え? オススメしろ? あー、やる気が起きないときとか読んだら良いんじゃねーの? 怒りパワーで仕事もサクサク進むようになるだろうさ レースゲームとかするのオススメ ベタ踏み爆走して、ネット動画サイトに上げられるぐらい見事なクラッシュができるだろ、マジで コースアウトから空中飛行だって夢じゃねーわ
 FPSとかいいかもな 孤立して囲まれた仲間を坂田だと思えば、どんな死地にだって助けにいけるだろ 背中を預けた仲間を斉木だと思えば、相手が5人だろうが10人だろうが突破できるってもんよ

 つか、おのれ作者め
 うあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(*`Д´*)ノ┳┳・゚・┻┻・゚・ふざけんなーーーーーーーーーーーーーー
 うわーーーーーーーーーー


 深麓ハ消失シマシタ












 何だかエッチな文章を書く人だなって思ったんだ。
 えっとね、色っぽいっていうよりも、生々しい感じかな。読みやすさに重点を置いて淡々と書かれてるから、じっくり読まなくても、ポンって頭の中に情景が浮かぶの。
 それで、ちょっとエッチな単語が出てくるでしょ? 文章に書かれていないところまで想像しちゃう。それが、気分をもり立てるって言うか。多分才能だね~。
 わかりやすく書かれてるって言ったけど、ちょこっと難しい言葉も出てくるよ。でも、普段から小説を読む人なら、わかる言葉だと思う。その辺は作者さんが上手く選んでるから、安心してね。
 でも、専門用語はやっぱり難しいかも~ わからない事が多かったから、前後の雰囲気からなんとなく想像して読み込んじゃった。こんな音楽かな~ こういう楽器かも?
 そんな読み方ができるのは、そういう読み方ができるように書かれているから。知らない言葉を無理なく読ませられるのは、作者さんの隠された配慮だね。
 専門用語を使う時って、作者が理解していない言葉を書こうとすると、読者にバレちゃうんだ。説明や文章がうろうろするもん。
 この作品ではそんな事は無かったよ。いっぱい調べたんだろうなー。僕なら調べたことを自慢するように、情報をいっぱい書き込んじゃうんだけど、この作者さんは大人だからさらっと使いこなしてる。すごい! 見習わなきゃ。
 配慮といえば一話の文字数もすごく整えられているよね。10万文字って言う重さを感じなく読み進められたよ。

 バッドエンド。
 僕はそう読んだんだ。人によっては違うかもしれないけどね。
 物語の見えるところを狭くしてる。だから、登場人物に寄り添いやすい。
 でも、絶対に触れる事は出来なかったんだ。
 見守ることさえできずに。
 悲しいよね。
 僕たちの中の人はね、次元の壁を越えてでもハッピーエンドにしてやんよって言ってたけど、この作品は堅固に構築された現実世界を舞台にしていて、ファンタジー要素がこれっぽっちも入っていないの。これじゃあ、次元をいじることも、獄を描き出すことも、ヒーローを登場させることも、妖怪を顕現させることすらできない。
 悲しい舞台。

 二人の歯車が狂い始めた、なんて書かれているけど、多分狂ったのは最後だけ。
 離れた所でくるくる回ってる小さな歯車があったんだ。その歯車が奏でる微かな音に惹かれた大きな歯車が、みんなの輪から外れて近づいていくんだ。
 ひとりぼっちの小さな歯車は一生懸命回ってた。誰の力も受け取れず、誰にも力を与えられずに、みんなから見えないところで力の限りぎゅんぎゅん回転してたんだ。
 大きな歯車は音に惹かれてやってきたんだけど、その姿を見てびっくりしたんだ。だって、このままじゃ壊れちゃいそうだったんだから。
 何とかしなきゃ!
 回転速度が違いすぎて、正面から抱き合ったらお互いの歯車が欠けちゃう。
 大きな歯車は側に寄って、身体を少しずつこすり合わせて、減速させた。ちょっと削れちゃったけど、大丈夫!
 速度を合わせたら、正面から触れていくの。方向を合わせて、そっと触れて。力を伝え合うようにね。
 ようやく、二つが噛み合ったんだ。
 幸せな音が鳴り始めるよ。
 誰にも理解されなくても、誰の耳にも届かなくても、二人だけで幸せを感じられる。そんな音。
 理解し合える自由な音楽。高く低く、好きに奏でられるハーモニー。
 二人きりがいいのなら、それでもいいんじゃないかな。このまま両手で囲ってしま





 バン!




 わかっていたのにね。


 まふゆ。















 貴方は水谷君なのでしょう?

 主人公であるはずのお二人の感情に、うっすらと霞が掛かっていたのです。そのために、同情しやすく、結末を知っていても幸せを願わずにはいられませんでした。
 この感情を、君も等しく抱えていたのだと強く思います。
 そう、水谷君には同調できるのですよ。
 はっきりと浮かび上がる心の動き。彼の事を書くときだけ、感情の選択肢を狭める文章になっているみたいで。それはきっと、深く理解して書いているから。同調したまま書いているから。
 二人の関係も背景もある程度知っていて、彼らの味方になりたいと願い、穏やかな世界を求めました。でも、わたしたちにその役目は降ってきませんでした。それは水谷君の立ち位置にとても似ていますね。
 近くに居ると思っていたのに、二人の世界の外から手を貸して上げられると思っていたのに。
 全て叶わぬ願いでした。

 二人だけの世界はやがて小さな幸せで満たされ、誰の手も触れられないまま、破裂させられてしまったのです。
 何もできないまま終わっていました。
 まだまだ、道は続いていたはずなのに。
 そんな絶望を彼も同じく味わったのではないでしょうか。
 そして。
 そして作者。貴方もまた、止めることはできなかった。違いますか?
 物語は思考よりも速く加速を始めてしまい、追い始めたタイピングよりも速く結末を迎えてしまったように思えます。
 作者の考えはわかりませんから、ただの戯れ言ですよ。

 人間とは誰もが不完全なもの。出来損なったもの。
 誰もが欠けた部分を隠しながら、生を歩んでいくのです。
 不完全だから、自分には無い部分を持っている人に惹かれるのでしょう。歩いて行く途中で誰かを好きになり、心を打ち明け、隠していた部分を見せ合って、足りない部分をくっつけあう。
 相手から形を奪うことなどできませんから、一緒に居るときだけ、くっつけ合っているときだけ満たされるのです。完全になるのです。
 これが愛なのでしょう。
 完全にしてあげたい。
 この感情を恋と呼ぶのかもしれませんね。
 二人でいるのなら、補い合えるはず。それなのに、同じ部屋に居ながら自分は出来損ないだと言われれば、確かに腹が立つのかもしれません。気を付けましょう、みなさん。

 二人がいなくなってしまったので、お話は終わってしまいました。
 でも、世界は続いていくのです。誰が消えても止まらないところに、わたしは世界という大きな生き物の恐ろしさを感じてしまいます。
 そう、世界はまだ、私たちの知らない所で続いているのでしょう。

 もしその世界でお話が生まれたのなら。
 主人公の名前はきっと――

 
 ...〆舞

 

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