あの頃、世界の全ては


 子供の頃って、みんなが自分の世界を持っていたと思うんだ。
 目に見えるだけの大きさから作られる世界だから、そんなに大きくはないよね。
 友達と一緒に居るいつまでも浸っていたい世界や、家族と過ごす当たり前だと思っている世界。学校という大勢が生活しているけど、人が多すぎてちょっとだけ薄い感じのする世界。そして、好きな人を見つめている時のとても大切な世界。
 本当の『世界』で起こっている事なんか、全然眼中になくて、世界の外から押しつけられる『誰かの世界』にも興味なんて無かった。


 その世界は、大人から見たらすごく狭いのかも知れない。子供心の自分勝手な世界と言うのかも知れない。でも、そんな事を言う大人だって、きっと子供の頃は自分の世界を楽しんでいたんだと思うなぁ。

 そのままでも可愛らしいのに、もっと魅力的な女性になりたいと願う律子さんも。
 格好良くて強い引力を持っているけど、内面はちょっと怖がりな蒼さんも。
 二人とも、子供の頃だけ住む事ができる大切な自分の世界を一生懸命生きて、大人になろうとしている。

 誰かと、好きな人と世界を分かち合いたい。僅かでいいから繋げてみたい。でも、たくさん繋げちゃうのは少し怖くて……
 世界の中心には、乙女らしい恋心が隠されてる。作品の色が淡いのはそのせい。濃くしたら大人になっちゃうもの。香りが強いけど薄くてお砂糖を二つ、ちょんちょんと落としたぐらいがちょうどいいんだ。僕は好き。

 一途に思ってるからこそ視野がちょっと狭くて、でもいっぱいいっぱい情を動かされる二人の世界。
 僕たちはその中にこっそりお邪魔して、静かに彼女たちを見守るんだよ。急いで読んだらだめだよ? 世界は彼女たちのもので、読者のものじゃ無いんだから、急いで歩き回ったら色んな物が見えなくなっちゃう。乙女の時間は大人にとっては短いんだ。

 すっごく楽しそう。
 ワクワクするね。
 よしよし、頑張ったね。
 ちょっと泣けちゃうかな。

 彼女たちの世界では何気ないのかもしれない。でも、大人になってしまった僕たちの世界には無いもの。
 そして、少しだけ教えてくれた感情に、同調できる喜び。
 このお話は同調しやすいよね。きっと、みんながどこかで触れた感情だからかな。


 作者の言葉選びが面白いんだ。
 感性で綴られる言葉がちりばめられてるから。
 わかるようでわからない、わからないから想像したくなる。こんな気分かな? もっと違う色に見えてるのかな?
 女の子の感性は彩り豊か。
 作者がちょっと意地悪心なとんがりしっぽを振って、その色を詳しく教えてくれなかったりするの。わかるようでわからない? でも何となくわかるぞーっていう感じ。きっと、想像しながら読んでる僕たちを、作者は優しい眼差しで見守ってくれているんじゃないかな。うんうん頷きながらね。
 どうしてわかるのかって? だって、登場人物を見守る作者の視線がそんな感じだもの。すっごく温かいんだ。
 誰にも真似できない日だまりの庭を描き出す言葉たち。


 この作品には深みがあるんだ。
 律子さんと蒼さんが繊細な心を垣間見せてくれるとき、自分の目で世界を見ながら情景を言葉として浮かばせるとき。
 すうっと深い奥行きが見える。
 ちょっとドキッとしない?
 彼女たちがどんな大人になろうとしてるのか、未来の選択肢の幅が広い分だけ深い奥行きとなって僕たちに届くのかも知れない。
 こういったら本人達に失礼かもしれないけど、興味深いんだ。


 好きな人を、ただただ真っ直ぐ瞳と心で見つめていた夏。
 広がったり狭まったりする自分の世界の中で、大切なものを見つめようとしていた秋。

 冬はどうなるんだろう?
 寒い冬になるのかな。それとも暖かい冬を過ごせるのかな。
 冬の二人もちょっとだけ教えて欲しいなー。


 コラボ作品だから、共鳴し合ったりぶつかったりする事もあると思うけど、ゆっくりでいいから頑張って最後まで書いてみてほしいです。
 最後まで書いたとき始めて、二人はキャラクターとして独り立ちするんだと思うから。


 真冬
 

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