心を持った生き物たちへ。成長するものたちへ。
- ★★★ Excellent!!!
友達何人できるかな?
知らない場所や知らない人と関わるのって、不安があるよね。不安を楽しめる人もいるんだけど、そういう人だって何度も何度も新しい出会いを経験して、始めて面白さに気がつけるんだと思う。最初はみんな「これからどうなるんだろう?」「何が起こるんだろう?」って姿のない心の重たさを感じるものなんじゃないかな。どう?
仲良しの輪を作ってる人達って、不思議と同じような雰囲気を持っているように見えるんだ。輪の外から、中に入ってもいいのかなって考えちゃうのは、きっとその雰囲気を自分が持っているのかどうかわかんないから。
でもね、それは相手だって同じなんだと思う。相手だって君の事を知らない。だから、どんな雰囲気を持っているのかわからなくて、近づきにくいって思ってる。きっと、強い弱いはあるけど、みんな一緒。
自分から進んで友達の輪を作るのは難しいかもしれない。でも、相手が近づいてきてくれたら、ちゃんと向き合ってお互いの不安を無くしてあげると、仲良くなりやすいのかもしれないよ?
だからね、最初にできた友達って特別だったりするんだ。
知らない人から認めてもらえる嬉しさや、相手を認めてあげられる心を持っているって自覚する強さ。居心地の良い空気感と、安心感。友達からは色んな物を学べる。
ちょっと内気なちょびた君には、ちっちゃなちっちゃなお友達ができたね。二人は全然違う種族なんだけど、お互いを理解する事で距離が縮まったんだ。
相手の怖いところはすぐに見つかるけど、いいところを見つけて認められる。どっちも強いなって思った。
この作品の最初の章は、小学校低学年の子に宛てて書かれた作品なんだって。その子が読めるように、ほとんどひらがなで書かれているし、難しい言葉も出てこない。
そして、興味と刺激を与えるように工夫も欠かしていないね。こういう配慮はすごく時間が掛かったんじゃないかな? 読者を思う気持ちが、丁寧な文章綴りと、気配りを生んだんだね。相手への思いやりから生まれるパワーは、ぬくもりがあって優しい。作者が相手の子をどう思っているのかが、よく伝わってくる作品。
優しい時間に浸れるよ。
まふゆ
中盤は、小学校中学年を意識して書いたんだってさ。だから、漢字や内容も少しだけ難しい。いやー、この調整の頑張りは凄いな。
前半が、身体や種族の違いから生まれるすれ違いが気持ちや心の在り方で良い方向へと変わっていったお話なら、こっからは気持ちや考え方の違いが生んだすれ違いを扱った内容になってるな。
考え方や、思想はみんな違うもんだ。個体が違うからこればっかりはどうしても起こってしまう。そんで、自分勝手な子供の心では、この手の問題はなかなか解決できない。
それならどうするか。大人が見本を見せて上げなきゃな。
この作品で唯一の大人である、くま先生が上手に解決する……かと思いきや、精神年齢の高い子が、みんなを諭すように面白いお話を始めたんだ。
これがまた、おもしろ怖いお話になってるぞ。
色んな種族が集まって生活する森の学校は、人間の学校とは目的がちょっと違うみたいだ。人間の学校は、どっちかと言えば、みんなが同じことをできるように教育していくことを目的としてるよな。テストでは同じ点数を取れるように、体育では同じ事が出来るように。みんなで平均点以上を目指しましょうって。平均点以上では褒められるけど、以下だと怒られる。追試があったりするしさ。
でも、森の学校は違うみたいだ。
個人個人で何ができて何ができないのかを、みんなで理解することを目的にしてるみたいなんだよ。そんな風に感じたなー。
種族が違えばもちろんできることが違う。手足を持っている子もいるし、細長い身体を持っている子もいて、小さな身体を持っている子もいる。高い身長の子もいれば、空を飛べる子もいる。みんなできることは違うんだ。それを理解して仲良くするにはどうすれば良いのか。そんな事をゆっくり考えていく学校みたいなんだよ。
これが作者の理想の形なんだろうか? 俺は好きだな。
そんで種族問わず、生き物の最大の違いが中盤最後のテーマになってるぞ。
ああそうか、この時、相手との違いを理解して一緒に協力できるようにするのも学校の目的なのかも? 深いね~
深麓!
後半だ。
冒頭から少し難しい言葉で綴られた風景描写が連なっていて、小説の面白さを感じられる文章になっている。今までとは趣が大きく異なっているのだ。もちろん、内容もそれに準じて複雑になっている。
世界には様々な問題があるが、そのどれもが綺麗に解決できるとは限らない。大人の世界の問題は更に複雑で、そもそも答えなんてない問題も少なからずあるのだ。建て前と本音の違いや、場面毎に答えが変わってしまう問題。時間が経つにつれて刻一刻と答えが変わってしまう問題、答えを出してはいけない問題すらある。
この物語後半の問題は、世界中でたった一人しか答えを知らない、極めて難しい問題を扱っている。主人公ちょびた君にとって最大の試練と言えるだろう。
そして作者は、この物語を一番書きたかったのではないだろうかと考えた。
ちょびた君は狼だ。狼は本来強固な絆で結ばれた群れを成して生活する動物。その狼が一人はぐれて、他の種族と暮らしているのだから、いつかはこうなる定めだったのだろう。
自分はどう生きていくのか。何者として生きていくのか。まだ幼いちょびた君には少し酷だろうその問いに、答えを出さなければならない時が迫っていた。
私がこの後半の物語で素晴らしいと思ったのは、狼の扱い方である。
本編の中で語られているが、狼は、古今東西様々な物語で悪者として扱われてきた。さも、良い狼は存在しないかのように。
それが正しいのか間違っているのかは難しい問題なのだろうが、この作品では生き物の違いをお互いに認めて生きていくことが一つのテーマになっている。そう、狼とて立派な生き物の一種なのだ。ただ、他の種族との生き方の違いから、仲良くして生きていくことが難しいだけで。
その辺りを上手に描き出して、狼には狼の生き方があるのだと説いている。そして、それを受け入れる必要は無いが、理解して欲しいと作品の中で説いているのだ。
きっと、読んだ人に狼を嫌いになって欲しくないという作者の気持ちなのだろう。
世の中には狼のような生き物もいるが、彼らには彼らの考え方があるのだとまず理解して欲しいという心を感じる。
そして、同じ狼の群れにも、ちょびた君のような考え方を持つ者もいるのだとわかって欲しい。そんな訴えが見えてくるようだ。
ちょびた君の選択が正しいのかどうか、私にはわからない。もしかしたら本人にもわかっていないのかもしれない。
だが、私は思うのだ。
正しいのかどうなのかより、幸せなのかどうか。そっちの方が余程重要なのではないだろうかと。
純佳
どんな人でも、一人きりで成長することはできないのでしょう。
誰かと交わることで、教え合ったり刺激し合ったり、時にはぶつかって色々なことを学んでいくのです。もしかしたら、それは動物の世界でも一緒なのかもしれません。
成長の過程をわかりやすく、でも答えを示さないように注意深く書かれた作品のように感じました。ちょびた君の周りで起こる色んな物語は、一応は収束するものの、それが唯一の答えだとは感じられないですし、強要もしていないみたいです。
読者に、自分の答えを大事にして欲しい、そして、どんな答えを導き出したとしても、それは間違いじゃないんだと感じてもらいたい。そんな成長を願う作者の気持ちが感じられます。思いやりと自立、二つの大切な心を学べるお話になっていますね。
みんな一人一人違います。それは世界の常識で、尊重しなければならないものとされていますね。
ですが、学校ではみんな同じことを学び、同じ事が出来るように教育を受けます。一定の成果を上げられなかった者は落伍者として処理されてしまうのです。協調性が大事と良いながらも、能力のある人が持たない人に手を貸す方法などを学ぶ機会は無くて、更なる能力の向上のみを競わせる場所。
最近ではグループでの教育が見直されているみたいですけどね。
生き物としてみるのなら、強い種を残そうとするのは必然なのかもしれませんけど、今の世の中で強い条件で真っ先に思い浮かべるのは、お金を生み出せるかどうか。
教育とは、お金を生み出せる人間に成長させるもの。それでは少し寂しいです。
森の学校からは、もっと大切な事を学べそうな気がしますね。
種族が違っても、同じ心を持つことはできるみたいです。そして、種族が同じでも心が違う事だってあるのですね。
このグループだから、こんな考えを持っているはずだ。こんな外見だから、こんな性格に違いない。そんなふうに決めつけることのなく、一人一人違う考え方を持っているのが生き物なんだと再確認していきたいなと思いました。
そして、もし同じグループからはみ出す人がいても、その人の意思は尊重して上げたいなと思います。もしかしたら自分だって同じ事をするかもしれない。答えの定まっていない問題だってあるのですからね。
大人でも色んな事を考えさせられる、子供向けに作られたお話です。
作者さんの努力にありがとうを伝えたいです。
あ、それと物語の間に挟んである『あとがき』、ぜひ読んでみて下さいね。作者さんがあんまり見せない顔を見られますよ。
...〆舞