第7話 変なお店?




 メイシアとの狩りは楽しく、気がつけば現実世界で夜の22時となっていた。流石にこの時間で解散となり、ドロップを山分けして別れたボクはそのまま宿を取る。

 一泊150Gと格安で泊まれる。宿屋はヒットポイントとマジックポイントを瞬間回復させてくれる。それ以外にも普通に泊まれるようだ。なので個室を利用すれば簡易的な工房にできる。

 まずは購入しておいた布と綿を人形制作を使ってぬいぐるみを作る。大きさは小さくして数を作る。レベル上げにはこれが一番いいだろう。

 しかし、できれば壊したくない。だから、戦闘は基本的に格闘戦をメインにしつつ、ぬいぐるをサポートしよう。防御力を高くして高い回復力で持久戦を挑む。でも、攻撃力もやっぱり欲しい。そうなると肉体の強度をあげるほかない。硬さ=攻撃力とかにならないかと思う。現実だとなるんだけどね。


 さて、ぬいぐるみだ。ウルフの皮をメインにして、間接の部分にはアントの殻を使う事で強度を上げておく。狼型のぬいぐるみと、うさぎのぬいぐるみを作る。狼型は垂れさせて肩や頭に乗せられるようにしよう。うさぎはそのまま手に持つタイプにする。



 ※※※



 数時間後、数を作ったぬいぐるみはアイテムボックスへと入れて街に出る。外は既に真っ暗で街は静まり返っており、時折コツコツと石畳の床を靴の底が叩く音と共に水のせせらぎが聞こえてくる。

 時刻は深夜2時となっているので、ノンプレイヤーキャラクター……NPC達は家などに帰っているのだろう。残っているのはプレイヤーか酒場や道具屋などプレイに必要な場所だけが開いているようだ。

 上を見上げれば綺麗な星空が見え、夜空に輝く赤色の月が街や水路を怪しく照らしている。普通は金色なのに赤色とはこれいかに。まあ、雰囲気はあるけどね。

 そんな中を頭に狼のぬいぐるみを乗せて、てくてくと東門へと歩いていく。目指すのは東門の先の草原だ。

 その道中、直感に従って道を変えると面白そうな店を見つけた。そこは暗い裏路地にあるお店で、周りに溶け込んで店という感じがしないひっそりとした佇まいだ。本の看板が申し訳程度に飾られているだけだ。


「面白そう」


 店の中に入ると、本の匂いがするほど大量の本棚に収められた本が視界に広がった。店の奥の方に視線をやればカウンターがあり、その向こう側には魔女の姿をしたお婆さんがランプに灯りをつけて読書をしている。


「おや、こんな時間にお客様かい。それも珍しい子だねえ」

「こんばんは」

「はい、こんばんは。竜族のお嬢ちゃんが何の用だい?」

「ボクは男だよ……」

「でも、姫様だからお嬢ちゃんで間違って無いねぇ」

「はっ、反論できない……」

「かっかっか」


 項垂れるボクをお婆さんが笑い飛ばしてくる。まあ、女の子に間違われるなんてしょっちゅうあるからおいておこう。


「ところで、ここはどんなお店なの?」

「ここは魔法やスキルを扱っている本屋だよ」

「じゃあ、スキルブックとかも?」

「それは売ってないねぇ」

「え?」

「ここは何を習得するか決まっているスキルスクロールの販売やスキルブックの制作を請け負っている場所なんだよ。スキルブックが欲しけりゃ魔導紙片を100枚集める事だね」


 つまり、自由に選んで習得する事ができるスキルブックは入手困難なんだね。それ以外のスクロールなら手に入るのかな?


「とりあえず、見せてもらってもいい?」

「ああ、いいよ。リストかい? それとも普通に読むかい?」

「ん~とりあえずリストを見てから普通に読んでみるよ」

「そうかい。じゃあ、リストはこれだよ」


 渡されたリストを見てみる。


【販売スクロールリスト】

 1.ヒール:汎用回復魔法 200/200 40,000G

 2.ファイアボール:火属性攻撃魔法 100/100 20,000G

 3.アースシールド:土属性防御魔法 100/100 15,000G

 4.エンチャント・○○:属性付与魔法 100/100 60,000G

 5.ウィンドアクセル:風属性付与魔法 100/100 25,000G

 6.○属性魔法:属性魔法全般 ∞ 500,000G

 7.ダブルアタック:連続攻撃スキル 100/100 20,000G

 8.体術:肉体系スキル 100/100 20,000G

 9.コンセントレイト:肉体系スキル 100/100 20,000G

 10.ドロップ率10%上昇 10/10 1,000,000G

 11.ドロップ自動収集 ∞ 10,000G

 ・

 ・

 ・

 ・


 色々と有ったけれど、一つ言いたい。


「習得ミスちゃった!」


 つい、両手を床についてORZのポーズを取ってしまう。


「おや、どうしたんだい?」

「スキルブックで体術とっちゃたぁ……」

「おやおや、それは残念だったねえ。でも、スキルブックでの習得は特典もあるからあながち無駄とはいえないよ」

「そうなの?」

「補正が他より高くなる上に上位スキルに成長しやすいから問題ないさね」

「そっか。なら、無駄じゃなかったんだ。良かった……」

「まあ、勿体無いっちゃあ、勿体無いんだけどね。レアスキルとかも手に入れられるんだから」

「あうっ!?」

「んで、どれか買うかい?」

「えっと、じゃあ……」


 顎に手をやって考えてみる。まず、ドロップ率上昇は欲しい。けれどもお金が届かない。今の全財産は今日、昨日? どっちでもいいや。とりあえず、売って入ったお金を合わせて32300G。届かない。

 となると、使えそうなのはエンチャント系かな。メイシアに使ってもらって凄く便利だったし。まあ、こっちもお金が足りないんだよね。


「どうだい?」

「駄目。お金が足りないよ」

「かっかっか。それなら諦めな」

「うん。とりあえず、読んでみていいのが無いか探してみるよ」

「好きにしな」


 本を見ながら本棚の間を歩いていく。すると隅っこに積まれて誇りが被っている本の中から、何となく気になった本が有ったので手に取って読んでみる。

 内容は魔力の扱い方や魔法の使い方が書が懇切丁寧に詳しく書かれていた。



 ※※※



 集中して読んでいくと分厚い本がどんどん進み、最後のページを読み終えるとボクの身体が光輝いて風が巻き起こった。


【魔力操作Lv.1を習得しました。種族により、魔力操作Lv.1は竜脈操作Lv.1に変更されました】


 その言葉と同時に身体の中を巡っている何かがはっきりとわかるようになった。それは心臓から血液のように身体の隅々まで行き渡っているけれど、一定の流れじゃなくてぐちゃぐちゃした乱雑な動きだ。至る所で渦巻いて逆流したりしている。血液だったら、これは非常に不味いけれど、そのような事にはなっていないので血液ではない別の何かだ。

 そして、それは同時に役目を果たしたとでもいうように持っていた本は光の粒子となって崩れていく。


「おやおや、やってくれたねえ。勝手に読んでるんじゃないよ、全く」

「っ⁉」


 ギギギギというような感じで後ろを向くと、お婆さんが立っていた。


「えぇっ!? お婆さんが勝手に読んでいいって言ったのに!?」

「好きにしなとは言ったけれど、読んでいいとは言ってないさね」

「そういえばそうだった! でも、好きにしたらいいなら……駄目?」

「駄目さね。きっちりと代金を支払って貰うよ。そうさねぇ……ざっと487,000Gってところさね」

「無理無理! そんなお金持ってないよ!」

「じゃあ、身体で払ってもらうしかないさね」

「あうあう……エッチな事や痛いのは駄目だからね!」

「阿保か! そんな趣味もないし、竜族の姫様にそんな事をしたら他の竜族の奴等にこっちが徹底的に虐殺されてしまうさね!」


 今だけは姫のスキルに感謝!


「そうさね、部屋の片付けと整理をしてもらおうかねえ……」


【キャラクターサブクエスト・魔女メアリー①:本屋の掃除。乱雑する本を整理し、埃や塵などを綺麗に片付けよう。綺麗に片付ければ片付けるほど良く、メアリーの心象によって報酬は変化する。達成報酬:不明。依頼を引き受けますか? “Yes”“No”】


 こんなクエストが出た。これはもう受けるしかない。犯罪者になるのなんて御免だし。ただでさえ狙われる要素があるのに、賞金首とかになったらやばすぎるよ。それに……やっぱり、お兄ちゃんとしてはちゃんとした人でありたいからね。


「請けるよ。掃除すればいいんだね」

「ああ、そうだよ。それとこの服を着てもらおうかね」

「え゛⁉」


 渡された服はボクに変な声を出させるには十分だった。



 ※※※



 三時間後、部屋の掃除は綺麗に終わって、ボクは額の汗を拭う。ボクの回りにいるぬいぐるみ達も同じ動作をした。彼等にも手伝ってもらったお蔭で手早く終わった。人海戦術ならぬ、ぬいぐるみ戦術だ。


「埃も全部取ったし、水拭きも乾拭きもしたし大丈夫だよね?」


 ぬいぐるみがこくこくと頷いてくれる。そんなぬいぐるみ達を労った後、ウエストバックに仕舞っていく。それからお婆さんを探して移動していくと、綺麗に磨かれた大きな鏡が目に入った。そこに写るのはゴシックワンピースの服を着た長い金色の髪の毛をした綺麗な美少女。肩は完全に出ていて、腕にはベルトで固定したアームカバーがあって袖は一応ある。下はミニスカートになっていて、ベルトで固定されたニーソックスも有る。

 頭には黒色の猫耳っぽい髪飾りが有り、長い髪の毛をツインテールにしている。何処からどう見ても完全な美少女であって、男の要素など一切ない。これを着て掃除する事が条件と出され、報酬に目がくらんで受けてしまった。何故なら報酬はボクにはとても必要なものだったから。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る