第5話 メイシアと共に



 始まりの街、アクアリードに戻ったボク達はレアアイテム以外のドロップ品を道具屋で売り払ってお金を手に入れた。それから、報酬を別けるために蘇生場所のカフェへと向かった。メイシアは始め、受け取るつもりがないようだったけれど、ヒットポイントを半分も削ったのは彼女なので折半することを納得してもらた。

 そんなわけでボク達は復活の場所にあるカフェでお茶をしながらお金を別ける。ボク達がいるのはチュートリアル専用のフィールドなので開いているカフェはここしかない。すくなくとも、ボクはまだ知らない。


「えっと、お金が4800Gで、俊足のブーツが7個、プルルの指輪が5個だね」

「そうですね。レアアイテムはどうしますか?」


 カフェで向かい合って座ってお茶を飲みながら会話をする。相手は可愛い女の子なので少し緊張する。


「ボクは持ってるしいらないよ。いる?」

「できれば……ですが、本当によろしいのですか?」

「うん。どうせ売るのも勿体無いしね」


 なんと、レアアイテムの癖して売値が10Gとか、凄くふざけた値段なんだよね。これだったら、プレイヤーに売った方がいい。


「では、ありがたく頂戴します」

「うん。それで問題はこっちだね……」

「プルル・ジョゴスのドロップですね。ショゴスという事はクトゥルフ神話の生物なのでしょうか?」

「ごめん、神話とか詳しくないから……」

「そうでしたか。それは失礼しました」

「ううん、こっちこそごめんね。それでアイテムなんだけど……」


 巨大プルルことプルル・ジョゴスのドロップは“怪しい粘液”“CP結晶(100)”“物理軽減のスクロール”。それに宝箱が一つだった。


「とりあえず、宝箱を開けたらどうですか? それはユーリが手に入れた物ですから、どうぞお好きになさってください。できたら、何が出たかを見せて欲しいです」

「わかったよ。じゃあ……えいっ!」


 宝箱を一気に開ける。すると中から光が溢れ出して視界を一瞬だけ真っ白に染めた。視界が回復してから宝箱の中をみると、グローブが入っていた。

 名前は飢餓のアクアグローブ。水属性の魔法の効果を10%上昇させる。デメリットとして空腹度の減り具合が大きくなるとの事。


「食費が掛かりそうですね」

「だね。でも、回復の効果が上がるのは使えるかな」

「それはそうですね。どうしますか?」

「いる?」

「いえ、いりません」

「じゃあ、これをあげる」


 お金を2400Gと物理軽減のスクロールを渡す。


「いいんですか? 凄く使えそうですけど……」

「うん。もう一度出せばいいだけだしね」

「戦うつもりなんですね」

「もちろん! それに竜麟っていう物理攻撃を軽減するスキルはすでに持っているから、たぶん使えないと思うんだよね」

「それならいただきますね。ありがとうございます」

「その代わりと言ってはなんだけど、綿とかどうやって手に入れたらいいかわからない?」

「β時代だと採取で手に入りましたね。ここでもできるはずです。後は売っている場所もあります。場所は……」

「そっか、ありがとう」


 売っている場所は服屋さんみたいだ。そこで全部手に入るみたい。


「いえ、こちらこそ助かりました。それで、これからどうしますか?」

「ボクは一旦ログアウトして、ご飯を食べてからまた挑戦かな」

「では、ご一緒しませんか?」

「いいよ。今が……」


 視界の片隅にある二つの時間のうち、現実の方の時間を見る。ゲーム内の時間とリアルの時間はまた別だからね。こちらの方が流れる時間が速い。


「19時10分だから20時くらいかな」

「そうですね。かしこまりました。では、また後で」

「うん」


 ログアウトプロセスを起動する。10秒くらいしてからログアウトが始まった。



 ※※※



 ログアウトしたボクは寝転がっていた身体を起こして、軽くストレッチを行う。現実の身体に感覚を合わせる為にした方がいいらしい。ストレッチが終われば部屋を出て、怜奈と恵那の部屋に向かう。二人は一緒の部屋で生活しているので、ノックをする。しかし、反応が無いので開けてみると、ベッドに寝転がったままゲーム機を装着している。


「とりあえず、ご飯を用意しておこうかな」


 簡単にできるという事で冷麺を用意する。卵焼きと焼き豚、胡瓜を切ればいいだけだしね。茹でるのは二人が勝手にするだろう。それに茹でておいた麺は不味いしね。

 食事が終われば怜奈と恵那の親であるおばさんに電話をいれる。流石に若い男のボクに二人を預けているんだから、心配しているだろうしね。もちろん、お母さんやおばさん達も予定が開けば来てくれたり、こっちが行ったりする。けど、おばさん達は仕事で海外出張を行っている。その為、簡単には会えない。


「もしもし、悠里だけど」

『悠里君、娘達は元気?』

「元気にゲームしているよ」

『そう。夏休みには一週間くらい帰れるから』

「わかりました。今は二人共、でれないんですが……」

『いいわよ、別に。どうせ元気でしょう』

「いいのかなぁ? 男に娘を預けてるのに」

『悠里君ならいいわよ。っと、そろそろ仕事にいかなきゃ。また連絡してね』

「はい」


 電話を終えたので軽くシャワーを浴びて書き置きを残してから、ゲームにログインする。



 ※※※



 ログインしたボクは周りを見渡す。メイシアはまだ来ていないみたいだし、今の間に買い物を済ませておこう。干し肉を沢山買っておく。それと布と綿を買いにいく。そんな事をしていたら20時になっていた。慌てて待ち合わせの場所に向かうと、そこでメイシアが待っていた。


「ごめん、お待たせ」

「いえ、今来たばかりですから」

「ごめんね」

「いえいえ、本当に今来たばかりですからね。それよりも行きましょう」

「うん」


 メイシアと二人で並んで街を歩いていく。身長はほぼ変わらない……いや、微かにボクの方が勝っている。


「そう言えばチュートリアルクエストは何処までいきましたか?」

「んー、④が終わったから、次が⑤かな」


 チュートリアルクエストの⑤は採取についてだった。フィールドには有用なアイテムが隠されているので見つけて手に入れよう。との事だった。


「ちなみにスキルがないと手に入れる確率がかなり低いですから」

「持ってない……」

「でしたら、これをどうぞ」


 そう言って、メイシアが草や葉っぱを渡してくれる。すると、草や葉っぱが消えてチュートリアルクエスト⑤が達成になった。達成報酬は初級マジックポイントポーション20個だった。


「消えちゃった。ごめんね」

「別に構いませんよ」


 次のチュートリアルクエスト⑥は女神フェイトに会いに行こう。必要レベル10と書かれていた。


「あぅ」

「どうしました?」

「レベル10だって……」

「そうですね。ここで上げて行かないと駄目ですわ。でも、直ぐに上がりますけれど」

「そ、そうだね」


 何匹狩らないと駄目なんだろうか?


「では、討伐クエスト請けて倒しに行きましょう」

「討伐クエスト?」

「はい。普通は酒場や門の横にあるボードなどに張られています。ここでは門の横ですね」


 東門の横にボードが設置されていて、そこには沢山の討伐依頼が出ていた。ウルフ10体倒すと経験値100と50Gが貰えるとかね。


「とりあえず、片っ端から請けようか」

「ですね」


 依頼を請けたボク達はモンスターを狩りに街の外に出る。



 ※※※



 外に出たら早速、沢山のモンスターがボク目掛けてわらわらと集まってくる。


「これは……何か変なスキルでも持ってますか?」

「うん。持ってる。モンスターを吸い寄せる奴」

「なるほど。便利ですわね。発動、戦乙女ワルキューレ


 メイシアが唱えると同時に身体が軽くなる。視界のログには攻撃力、防御力、移動速度が上昇したと書かれていた。


「じゃあ、行きましょうか」

「そうだね」


 メイシアが槍を構えて突撃する。突き刺して斬り払う。かなり大きな槍を小さな身長で使っている彼女は最小限の動きで飛びかかって来たウルフを突き倒し、横から襲い掛かってくるモンスターに身体を回転させてそのまま切り払う。


「強いね」

「ありがとうございます」

「ボクも負けてられないね」


 ぬいぐるみが無いし、格闘技術の無いボクができる簡単で効率的な戦い方。自分を人形として人形操作を使うこと。普通に他人をコントロールするのは無理だろうけど、自分自身なら受け入れているから問題ないみたいだ。これで映画やゲーム、アニメみたいな変な動きができる。

 プルルを魔法で潰しつつ、殴って蹴ってアントを排除する。互いに背中を守るように敵を倒していく。これで背後を取られる事なく戦えるから、本当に効率よく倒せる。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る