第36話 金竜争奪戦への参加
そこはオリジンに存在してる精霊が支配するとされる大陸の中央部。遠くに聳え立つ山脈より流れ出る大河によって作られた豊穣の大地は非常に広い範囲にわたって生い茂る大森林を形成しています。まさにそこは直物や妖精、虫達など様々な生物の楽園。
楽園の管理は精霊が司り、精霊達は中央にある密林の周りに自らの属性を象徴する街をつくり様々な人を集めました。そんな精霊達が管理している楽園には秘密があります。それは死後の世界である幽界へ道があることです。
とりあえず、翼で滑空しながら周りを把握してから地面に降りてみた。木々の隙間から差し込む太陽の光がまるでオーロラや天使の階段のようでとっても綺麗。そして、沢山の木々や土、花の匂い。ぽかぽかな陽気も合わさってとても眠くなってくる。
「う~」
思わず眠くなってきたので、木陰に身体を預けて休憩する。すると――
「んにゅ? 眠って――」
――頬っぺたにドロッとした物がかかって、それを猫のように手で拭いながら目をあける。
「え”」
目の前は真っ暗で、周りがドロドロした液体が上から降ってくる。暗視の効果が働くとそこはまるで風船の中みたいな感じで、天井には円形のギザギザの口があった。
慌てて身体を動かそうとすると、ボクの上半身が飲み込まれているようで、腰もギザギザの歯で挟まれて齧られていたけど金色に光ってるので大丈夫。幸い、竜麟で削減されて魔竜の心臓で回復するのでダメージはないみたいだけど、ものっすごい甘い匂いがする。
その匂いで頭がクラクラしてくる。それにだんだんとどろどろの液体に浸かっていると気持ちがよくて、また眠りそうになってくる。気が付けば袖が肩まで溶けていて、上半身のほとんどが溶けている。
「って、どう見ても捕食されてるぅぅぅっ!?」
慌てて両手を振り下ろす!
「うわぁっ!?」
でも、ぷよんというような弾力で跳ね返された。何度も全力で竜麟を纏わせた闘竜技で殴ってみるけれど、感触は同じでダメージが入っている気がしない。そもそもバグかなにかは知らないけれど、相手の名前もヒットポイントゲージも表示されない。結論。打撃系が有効じゃないみたい
「どうしよう、どうしようっ!」
慌てていると、こちらが起きたことに気付いたようでドロドロの液体がいっぱい追加されて顎の辺りまで上がってくる。それでまたパニックになってしまう。
『お兄様、どこにいますか? 実はイベントのことで大変な……』
「たっ、たすっ、わぷっ、おぼれっ」
『お兄様っ、しょ、しょぉ……』
声が聞こえなくなった。接続エラー。シグナルロスト。
「メイシアっ、怜奈っ、恵那っ、たすけっ!」
【現在、エリアは召喚、通信などあらゆる通信手段が禁止されています】
あっ、これ駄目な奴――
ぱっくりと飲み込まれ、ドロドロの粘液に満たされたボクはそのまま食べられ……なんてことはなく、溺死……なんてこともない。普通に上半身どころか全身を飲み込まれて液体漬けにして全装備が壊されただけ。許すまじ。
よくよく考えたら金竜って呼吸が必要なはずもない。自然から力を吸い取って生きているわけで、溺死とかありえない。そんな軟な身体じゃない。
とりあえず、落ち着いたのでこのドロドロの液体をアイテムストレージに仕舞ってみる。
【ドロドロした白濁液:正体不明。装備や服が溶かされていることから、酸性だと思われる】
こんな頼りないデータしかでてこない。しかし、採取はできるようなので採取してみる。1スタックが埋まるまで取ったけど、まだまだいっぱいある。ここで全部とってしまうのも……と思ってたら一つ試してみることにした。
パニックになってたからわからなかったけれど、甘くていい匂いがするので飲んでみる。うん、これうっすいうっすいイチゴシロップだ。美味しい。飲んじゃえ。使えそうなので回収。
しばらくすると粘液がなくなったので歌を歌いながら、魔法を構築する。イチゴシロップだから、多分植物だし燃やしちゃえば大丈夫。きっと多分。
歌っていると、急に三つの縦筋が入って光が入ってきた。ボクは思わずあの歌を歌ってしまった。
「ある日、食竜植物の中、熊さんにでああった~」
斬り裂かれた場所を両手を使って大きく開いたのは凶悪な顔を持つ熊さん。デフォルメなんてされておらず、ガチ目のいかつい奴。しかも片目が刀傷かなんかでやられている隻眼の熊さん。
そんな熊さんと瞳と瞳をあわせると、そのまま顔を入れてきて口付けを――なんてこはとはなく普通に大口を開けて噛みついてきた。熊さんの大きさ、やばい。
慌てて口の中に向かって腕を突き出して火属性魔法Lv.3、ファイアボールを放つ。至近距離で爆発したせいで互いに吹き飛ばされ、火の粉がボクを捕らえていたなにかに引火して燃えていく。
自爆も考えたけれど、そのままでも大丈夫そうだ。直感も何も反応していないしね。少しその場所で待機していると植物が燃え尽きていき、外に出れた。見れば植物はウツボカズラみたいな姿で、外側がイチゴみたいな蕾だった。それが周りにも地面の中から沢山でてきている。どうやら、擬態能力があるみたいで、花にばけていたみたい。
「うわぁ、べたべた……」
視界に色が戻ると、改めて自分の姿をみると下着だけになって、全身が白濁液塗れ。当然、身体中から甘いいい匂いを放出している。
熊さんの方をみると、あちらは地面を引き摺りながら耐えたようで、少し離れた場所にいた。2メートルくらいで思ったよりも大きくない。どうやら口が無茶苦茶開くみたいで、口から煙を出している。そんな状態でも四つん這いになってクラウチングスタートみたいな体勢を取ってる。
これは準備している時間なんてない。即座に人形操作で身体を操って駆け抜ける。先手必勝。相手が行動する前に出鼻を挫く。
足に竜麟を集めて爆発させて加速。飛ぶように移動しながら駆け抜けるけど、翼のせいで速度が落ちる。
相手が突撃して速度が乗るくる前に頭に拳を突き付ける。その前に大きく口を開けられてパックンと噛みつかれる。痛みは苦痛耐性で軽減しているけど、しっかりとダメージが入っているのでそのまま噛みつかれた腕を持ち上げてハンマーとして植物のモンスターに叩き付ける。
「お前が離すか、ボクが諦めるか、勝負だよ」
「クゥンッ!?」
腕一本ぐらいくれてやる。今は武器ができるほうがありがたい。相手に打撃耐性があっても弾き飛ばして、地面から離したらいい。実際に根が千切れて結構なダメージが入ってると思う。
でも、相手も鶴を伸ばしてこちらを縛ってこようとする。その程度の抵抗なんて無意味。身体全体に火属性魔法Lv.3のヒートウエポンを使って触れる物は全て燃やす。どうせ服はもう溶けているからね。ただ、傍から見れば光で守られてる下着姿の男の子が、熊さんを噛みつかせてハンマーとして戦っている感じだね。
「えいっ! えいっ! えいやぁっ!」
ハンマーとしてイチゴシロップを叩き潰ししていたら、熊さんもドロドロになって、諦めたのか腕を外してきた。ボクのヒットポイントゲージは噛まれた場所、右腕の耐久値が9割も減っていた。もうすぐ千切れてたかもしれない。相手は答えた感じではないし、このまま防御に守ったら負ける。いくら再生するとはいえ……ボクって生産型魔法使いだしね。きっと多分。
「クガァッ!」
クレーターを作って加速し、今度は翼を使って前から後ろに空気を吹き飛ばすことで加速して左回し蹴りを放つ。すると相手は右腕を上げてそのまま防ぐ。命中の瞬間に竜麟を爆発させて距離を取る。煙まで発生する。
相手の右腕を取ったつまりだったけれど、煙が張れるとそこには鋼鉄化して大きくなった腕と爪があった。まるで身体に装甲を纏ったかのような感じだね。これ、全身にされると厄介すぎるよ。またこちらから突撃して、今度は爆発させずに足を瞬間強化して蹴る。金属みたいなものがぶつかるような音がする。そのまま後ろに倒れるようにしてもう片方の足で股間を思いっきり蹴る。その反動で頭から地面につくので、その前に両手で地面を押して熊さんを蹴り飛ばす。
相手は身体の一部を装甲に変えてしまっている。硬い。厄介。
まあ、倒す方法はあるけどね。その辺りもしっかりと教えてもらっている。1年の特訓は伊達ではないのだよ。
というわけで接近して相手の内部の気をボクの気と混ぜて内部で爆発させる。防御力無視の高難易度だけどできる。これ以外にも接触した部分から金属操作を発動して脆くしたり、材質を変えたり、重くしたり、軽くしたりと色々とやれる。
まあ、今やるのはこっちだ。接近してお腹を何度も突いてから離れる。これをひたすら繰り返す。
「お前はもう……し――」
タイミングがずれて倒れちゃった。やったことは某拳法の人と同じじゃない。本当は相手が金属化した手から身体の内側に金属操作で針みたいにして内部から脳を破壊させただけ。
「ふっふっふっ、ボクに勝ちたければ生身で挑んでくるがいいよ。魔法は勘弁だけどっ!」
勝利宣言をして周りをみると、まあ轟々と燃えている。消火しないといけないので水属性魔法Lv.3、ウォーターボールを撃って火を消す。ついでにドロドロしたのも洗い流す。これ、つけてたら嫌予感がすごくするし。
消火したら倒した熊さんがアイテムストレージに回収されているかどうか確認する。ボク達のストレージは共有されているので、ディーナ達の服を借りることができる。嫌だけど、背に腹は代えられない。流石に下着姿でウロウロする変態じゃないし。
そう思ったのだけど、何故か共有状態が解除されていた。それに運営からメールが来ていた。開いてみるとイベントの参加要請だった。
【現在、貴方様はイベント限定のシステム制限が施されています。イベントに参加しない場合は解除され、近くの街へと強制転移されます。その後、イベント終了までしばらく隔離エリアでひたすらソロプレイしてもらうか、ログアウトしておいてもらう必要があります。
このようなことになったのは……】
説明が乗っていたけれど、読んだ限りだとボクが封鎖されていたルートを強引にこじ開けてこっちに来たのが原因みたい。岩盤をぶち抜くのは想定外だったらしい。入る手段がなくなったのでそのまま進むかチュートリアルフィールドで生産しているかと思ってたみたいだ。
そこをボクは上空から超高速回転したドリル型隕石を落として穴を開けた。本当ならこれでも開けられないみたいだけど、そこの自然を操作する竜の力と空間魔法の力が合わさってぶっ壊したみたい。
そんな強引にぶち破って幽界と呼ばれているチュートリアルフィールドからでてきちゃったせいで、金竜の幼姫のことが世界中に知られてしまったみたい。そうなるとボクを狙って各勢力が動いてくる。NPCをある程度誘導はできても、完全な操作は余程のことがない限りできないのでイベントとして扱うことにしたとのこと。
やっちゃったよね。どう考えてもボクのせいだし。
以上の理由から、イベントに参加するかどうかを聞かれてる。参加しない場合は分身が作られてAIが操作するらしい。ボクの身体をボク以外が使うのは嫌なので参加させてもらう。
運営からは縛りプレイをしろと強要されてしまった。ボクはこれから、召喚やアイテムストレージの共有など全部解除される。アイテムストレージに関しては解除という扱いではなく、もう一個個人用としてくれるらしいのでお得だ。このアイテムストレージは最後まで生き残れたら報酬の一つとしてもらえるとのこと。やったね。
ログアウトも基本的に一定時間ごとに現在地を公開するので、その時間だけはログインしていて欲しいとのこと。その時間はこちらで決められ、スケジュールが発表される。
しかし、これってアイテム補給も装備の耐久力回復も無理という超ハードを越えた戦いだと思う。ボクが格闘型魔法タイプだからできるけど。
その代わり、報酬は色々と美味しい。運営さんは鬼畜でボクが一度も死なず、誰にも捕まらずに逃げ切ったら、賞金1000万GとEXランク確定ガチャチケット。巨人族に捕まったらアウト。報酬なし。ペナルティーあり。竜族に捕まったらお姫様としての権力。プレイヤーに捕まってもどちらか。死んだけど最後まで逃げ切ったら、死んだ回数によってランクが下がっていくガチャチケットとお金。
「運営は絶対に捕まるなって言ってるね。いいよ、いいよ。やってあげる。そっちの方が面白いしね」
とういわけで、まず方針としては死なずに逃げ切る。最悪でも竜族に保護される。これはよくよく考えられている。ボクが本当になにもしらない金竜の幼姫だったら、何を考えているかなんてわからないし、どっちも怖いだろう。そうなると逃げ隠れするので、ボクがそれに合わせてロールプレイする感じになる。ちなみに録画されて後で公開するとのことなので、早く服を用意しないといけない。まあ、イベントに参加するボタンを先に押そう。
【イベントに参加して頂き、ありがとうございます。破壊されても大事な部分が絶対に隠れる衣装を転送しました。こちらでお過ごしください】
その言葉と同時にボクの服装と髪型が変わった。白いブラウスに白色に桃色が入ったジャケット。赤いチェックのフレアスカート。首にはピンク色のリボン。腰にも白いおおきなリボンがある。ジャケットとフレアスカートの裾はピンクでフリルがついている。髪形は肩の下まであるツインテールで、動けば項がみえる。ツインテールにしている髪飾りは大きな鈴が2個。靴はブーツで白いニーソックスもある。
「どこからどう見ても女の子……」
ステータス画面に表示されたアバターをくるくる回していろんな角度かみる。下着も女性物に変えられている上にスパッツを装備。サービスで人化させられている。
これはどう考えても運営の悪意を感じる。絶対に嫌がらせだよね?
そんなにフィールド壊されたのを怒ってるの?
激おこだと思う。ボクだったら丹精込めた人形を壊されたら許さないし。まあ、商売としてなら妥協するけどね。ゲームだってぬいぐるみをドラゴンブレスを使って破棄するのは嫌だけど、仕方ないことだと思ってる。なにせ、彼等は戦闘用として作り出されたのだから、戦闘で消えていくのは本望だと思う。生まれてきた役割を果たせているのだからね。ボクの役割は当然、意思ある人形を作ること。これだけだ。いや、後継者を作ることも忘れたら駄目だね。
っと、今は考えている暇はない。やることをやらないと。逃げるためには手段を択ばない。だったら、アレしかないよね。ボクには似合わないだろうけど、女の子の姿をしたこの子なら別だ。
【協力者は用意しまたし。今から出すので敵対行動をするかどうかはお任せします】
「?」
ボクの目の前にビクビクと震えている可愛い緑髪をした女の子が現れた。彼女は頭に赤い花を乗せていて、小さい女の子は恐怖の感情を向けてきている。
「あ、あなたが金竜様……ですか……?」
「そうだよ」
「せ、精霊様の命令でお、お助けするように言われ、ました……ドライアド、です……」
「えっと、何をしてくれるのかな?」
「か、回復、してあげます……ポイントは、探してください……」
「セーフティーエリアかな? わかったよ」
「じゃあ、これ。2回まで、です」
渡されたのは種とジョウロで召喚用のアイテムみたいだ。使用回数が2/5になっていた。何故かすでに使用されている。
「なんで回数がもう減ってるの?」
「……嫌い、だからです……」
「あ~そっか。ごめんね?」
「謝っても、許さない……精霊様の命令じゃなかったら……」
「で、できる限り被害は出さないように頑張るからね……」
「……ぷい……」
ドライアドは消えちゃった。まあ、嫌われるのは堪えるけど仕方ない。大自然を蹂躙しちゃった人だもんね。ドライアドからしたら天敵だからね。どうにもならないことは置いておいて、今はぬいぐるみを作ろう。ボクは人形師。人形師は人形師らしい戦い方がある。まずはアイテムストレージの確認から――――
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