第27話 現実でのお話2


 依頼の品物はフランス人形をはじめとした、球体関節人形などフィギュアの制作依頼もきていた。フィギュアはもととなるデザインがあるので、そちらは資料をもらう。商売としてなので著作権があるキャラクターはできない。許可証があれば作っている。

 他には完全オリジナルでペットの毛を作ったぬいぐるみや、3Dプリンターで作ったりもする。おばあちゃんが色々と手を出していたので機材は充分にある。

 さて、本日作り上げたフィギュアに色を塗り終えた。企業から依頼された等身大フィギュアなのでかなりのお値段となっている。一品物であり、全パーツ着脱可能なうえに人間と同じ可動部を持つ。あと、大事な部分もしっかりと作った。メイシアのを見たからこそできた。


「本当はいたないんだろうけど、やっぱり仕事で作る人形に妥協はできないしね……」


 ちなみに作ったのはとある魔法少女アニメのキャラクターで、映画化した三人組+一人の奴だ。予備を含めて一組三体は作ってある。色付けに失敗したら、より濃い色で塗りつぶして別バージョンとするためだ。パーツつけて誤魔化したりもする。

 もちろん、会社側から許可をもらっているし、予備に関しても会場に飾ったり、会社に飾ったりするらしい。まあ、行きつく先はオークションなんだけどね。


「残りの仕事は……」


 タオルで汗を拭いながら、壁にかけてあるカレンダーを確認する。ここ一週間で仕事を詰め込んでほぼ終わらせていた。本当はもっと時間がかかるけれど、睡眠時間を削って終わらせたので大丈夫。実は、ちょっと裏技も使った。原初の世界ワールド・オブ・オリジンのゲームは訓練所だと時間の流れが違う。なので、そこでデザインから設計図を起こすまでやって、現実で作ったのだ。服も同じ方法でやったら、時間効率がすごくよくなった。

 ただ、問題は原初の世界ワールド・オブ・オリジンで服を作る裁縫を手に入れるために苦労したぐらい。パタンナーのクラスはないけれど、人形の服を作ったりもしているので現実の技術で問題なし。作った型紙の数値をスクリーンショットで取って現実で見ながら作ればいい。


「ん~急ぎの仕事は終わりか」


 声に出して確認し、納品の最終チェックを行う。それが終われば乾くまで乾燥部屋で固定して放置する。ほどよく疲れたのでリビングに移動し、ソファーで座ってお茶を飲む。

 テレビをつけてチャンネルをぽちぽちやると、原初の世界ワールド・オブ・オリジンのことについてやっていた。それによると、かなり人気がでてきているようで増産されて販売が開始されるみたい。


原初の世界ワールド・オブ・オリジンはプレイヤーが撮った動画も公開されています。それがランキング一位になったりしており……』


 テレビでは原初の世界ワールド・オブ・オリジンで撮られたであろう映像が流れている。弓使いの人が木々の上を飛び跳ねながら矢で射抜いた映像や少女が空を飛んで魔法を撃ったりしている。空中戦のドッグファイトとか、本当にすごい。


「あ、お兄様」

「怜奈、どうしたの?」

「お仕事、終わりましたか?」

「いまのところは終わったよ」

「でしたら、一つお願いがあるのですが……」

「なに?」

原初の世界ワールド・オブ・オリジンで使っているお兄様のアバター、あれのぬいぐるみやフィギュアが欲しいのです」

「そんなのいるの?」

「とっても欲しいです! それとは別に原初の世界ワールド・オブ・オリジンをやっているリアルの友達がいるんですが……彼女、誕生日が近いので誕生日プレゼントとして、彼女のアバターのぬいぐるみやフィギュアを欲しいのです。お願いできませんか?」

「いいけど、画像はある? あと、転売は禁止だからね。損害賠償でかなり取られるから」

「もちろんです。画像はこちらです」


 もらった携帯端末で確認すると、薄い紫色をした長い髪の毛に紫色の大きな瞳をした可愛らしい女の子が映っていた。彼女の頭にば黒色のリボンがついた紫色のベレー帽に同じ紫色で首元を完全に隠すようなローブの服。なんというか、紫色一色だ。いや、ローブには魔法陣みたいな絵柄が書かれているんだけどね。身長に関しては二人よりも小さく、小学生のようにも感じる。


「友達?」

「小さいですが、同い年です。今は同じ学校じゃありませんが、あちらでの友達です。あと、引きこもりです」

「そうだんだ……」

原初の世界ワールド・オブ・オリジンで廃人してますよ。ただ、家でプログラミングの勉強をしているらしくて、お兄様と種類は違えど気が合うと思います」

「ボクとおんなじか」


 ボクも引きこもって人形ばかり作ってたし。彼女は代わりにプログラミングを勉強していたのだろう。プログラミングか。ボクも教えて欲しいし、伝手を作るのはいいかもしれない。


原初の世界ワールド・オブ・オリジンであえるかな?」

「お兄様?」

「プログラミング、教えて欲しいんだよね」

「確か、AIも自前で組んでるらしいですから、教えてもらうといいですね」

「なにそれ、最高じゃないか!」

「お兄様は……いえ、いいです。ただ、お願いするのは難しいかもしれません」

「どうして?」

「いえ、人見知りですし、ゲーム内でも魔法の作成依頼とか結構、受けていたんですが……βでトラブルが起きてストーカーや監禁されかけたこともあって……」


 監禁ってかなりやばいけど、違反行為だよね?


「監禁っていっても、ログアウトもできますので厳密には違います。数人で見張って依頼を受けて仕事を終えるまで粘着して逃がさないようにブロックするんです。ハラスメントコードを使った方法で、今は証拠のSSや通報を受けたらすぐにGMコールができるようになっています」


 前はGMコールってやり方がすごく面倒だったらしい。メニュー画面を開いてヘルプの場所にある一番下を押さないといけなかったらしい。今は設定次第だと音声認識で、【起動・GMコール】って言えばすぐにできるらしい。このシステム、ゲーム内で作ってから運営会社に彼女が叩き送ったみたい。それが今は実装されているらしい。


「こんなことがあったので、基本的に依頼は受けませんし、人見知りが悪化しています。なんとか私達と遊ぶために原初の世界ワールド・オブ・オリジンだけは続けてくれています。本人も好きですし、人がいるところだと光学迷彩みたいなのを使って隠れていますからね」

「徹底しているね」

「お兄様なら、私達が紹介したら話したり、合うことは大丈夫ですが、依頼は受けないと思います。ただ、物々交換か、戦いは結構好きなので勝てば作ってくれるかもしれません」

「好戦的なの?」

「いえ、自分が作った魔法を使って実験したいだけです。えげつない魔法とかも普通に作って使ってきます。確か、水蒸気爆発とか起こしてモンスターを一掃する動画をみせてもらいましたよ。これです」


 見せてもらったのは15メートル以内にいたモンスターが吹き飛んだ、えげつない威力の魔法だった。彼女はモンスターハウスの中心部に結界で小さな球体を作成。そこに水と火を投入して水蒸気を発生。水蒸気を発生させ続けると結界の限界と同時に爆発した。


「魔法って同時に使えるの?」

「普通は無理ですが、彼女……アステルはAIを組み込んだ武器や防具を複数持つことでそちらに魔法を使わせています。お兄様の人形と同じ感じですね」

「そっか。聞いた感じだと魔法使いさん?」

「そうです。恵那……アナと同じ魔法特化タイプです。ただ、アナは一応、近接戦闘もできますが彼女はできないタイプです。魔法に全てをかけてひたすら強化していく感じです」

「じゃあ、すぐに作るよ。どうせだから、ディーナ達のも作るね」

「お願いします」

「任せて」


 二人の友達のためだし、頑張って仕上げるか。それにこれはお金になる可能性がある。そのためにはまずはサンプルとして作らせてもらおう。




 ※※※





 原初の世界ワールド・オブ・オリジンにログインする。目覚めたボクの視界に映ったのは宿屋の余り見覚えのない天井。左右をみると、洋服をかけるスタンドが見えた。そこには女の子用の服がかけられている。他にも色々とあって、アナ達の荷物も置かれている。どこからどう見ても女の子の部屋といった感じになっていた。

 宿屋の部屋に荷物が置かれているのは、ここを長期で契約しているからだ。アイテムストレージの容量には限界がある。枠がかなり少ないのだ。基本的に回復アイテムなどの消耗品と予備の装備、野営道具と食料などを常備する。そこにドロップが入ってくるのでどうしても容量が超えてくる。ダンジョンや籠る人の中にはバックパックを購入して持っていったり、馬車を借りたりする人もいる。そんなわけでどうしても安全な宿に荷物を置いてスペースを開けるようにした方が良い。

 

「ん~~」


 身体を起こしてベッドから出て立ち上がり、背伸びをする。現実でベッドに寝たのに、すぐに起き上がるという不思議な感覚がする。それに身体の感覚がまだズレているので、軽く動かしながら調整する。

 改めて周りを見るけれど、ボクが起きたらすぐにやってくるアイリがいない。彼女がいないということはメイシアか誰かと一緒にいるのだろう。


「フレンドリスト、オープン」


 音声認識でフレンドリストを起動し、そこからメイシアの名前を探す。といっても、お気に入り登録してあるので一番上のアナスタシアとディーナの次に表示されている。まあ、そもそも友達なんて家族以外だとグレンさん達しかいないんだけどね。

 メイシアはログインしているマークスがあるので、スクリーンででてきたフレンドリストをタッチする。すぐにメールフォームが開き、そちらにメッセージを打ち込んでいく。

 内容は訓練所にいるので時間があれば来て欲しいと書く。送信ボタンを押すと、純白の鳥が現れて手紙を咥えて飛び立つ。けれど、窓の前に留まって空中を旋回し、恨めしそうにこちらをみる。


「ごめんね。今開けるよ」


 窓を開けると純白の鳥はすぐに飛び立っていった。ボクは窓枠に手をついて乗り出しながら鳥さんを見送る。続いてアナスタシアとディーナにもスクリーンショットを取ってボクのパソコンに送信しておくように伝える。これで連絡は終わり。

 次は訓練所に移動しておじいちゃんの場所へと移動する。



 おじいちゃんがいる場所に到着したら、あちらもボクに気付いたみたいでこちらにやってくる。


「まだクエストは達成しておらぬようじゃな」

「アースでの要件があったからね」

「なるほどのう。それで何の用じゃ? 儂としては遊びにきてくれただけでも嬉しいんじゃがのぉ~」

「えっとね、遊びにきたわけじゃないんだ」

「では、何を死にきたのじゃ? 言っておくが、後はひたすら実践じゃぞ」

「わかってるよ。要件はボクの身体の保存だよ。素材確保と強化のためにこれからいっぱい死ぬからね」

「お主は……狂っとるのか」


 すっごい心配そうな表情で聞かれたけれど、これは仕方ない。どう考えても現実だと絶対にやらない方法だからね。


「キリング・マンティス、どうしても倒したいの」

「アレを倒すのは今のお主達では無理なのじゃが……」

「うん。だから、狂った方法でも頑張るの」

「やれやれ……好きにせい」

「とめないの?」


 不思議に思って小首をかしげて聞いてみる。普通なら止めると思うんだけどね。


「これが甦らぬのなら、なんとしても止めるわい。しかし、来訪者であるユーリは力が下がる程度じゃしな。ただ、やるのならここでやるのじゃ。さもないと、力がどんどん衰えることになるわい」

「ありがとう。それで毒とかある?」

「毒か……あるぞ。ただ、竜族に効く毒となると希少すぎるの」

「普通の毒は効かない?」

「純粋な竜族は特化した毒以外は効かないの」


 まあ、流石は物理最強と名高い竜族。生半可な毒じゃ弾かれちゃうね。まあ、毒がいいならいいや。自傷はできるからボクが頑張ればいいだけだ。


「保存庫を用意する。そこで好きな用にするといい。儂は別のところにおるでの」

「うん、ありがとう」


 保管庫に移動したボクは欲しい物を考える。まず、できれば無傷な綺麗な身体が欲しい。でも、これは正直言って毒が使えないとすっごく難しい。首を絞めても無駄だろうしね。

 というわけで、次点で欲しいのは竜種の力の結晶、竜核。つまり、心臓。正直、死体は魔力を生み出さないのでボクが魔力を使うことになる。消費も大きいので竜核で増幅できればいい。

 苦痛耐性を発動してから自分の手と爪に力を集める。そして、自分の胸を貫いて金色と黒色の心臓を引き抜く。心臓を抜くと流石の竜族も死亡した。

 復活したら、戻って散らばっている死体と心臓を確認する。すでに細胞の壊死は始まっているので、心臓から竜核を回収する。ボクの竜核は黄金のような金色と漆黒のような黒色が合わさった菱形の結晶体だった。二色が綺麗に表と裏で別れている。

 竜核は竜族の力の結晶。これを取り込めばボクは更なる力を手に入れられる。取り込む方法はわからないので食べてみる。身体の中から力が湧いて……いっ、痛いっ! 痛いっ、痛いぃぃぃぃっ!?




 ※※※




 苦痛耐性が仕事をしなかった。ストライキされちゃった。いや、レベルアップしていたので、苦痛耐性を超えてきただけだと思うよ。

 さて、神殿から保管庫に戻った。そこには苦しみもがいて死んだであろうボクの身体がある。うん、死亡しました。ログを確認する限り、なんと融合失敗したとのことです。間違っていたのかはわからないので、こちらも実験するしかない。でも、力自体は湧いてきていたので、成功すればいいだけだと思う。

 死体の方は保存機にいれてアイテムストレージに仕舞う。ちなみに劣化していたので残念。前の死体も回収してもう一度同じことをする。


 死んで蘇って、死体をアイテムストレージに回収。竜核を引き抜いて食べる。融合に失敗して戻るを繰り返す。そして気付いた。部屋が真っ赤だ。もったいない。次から大きな水槽の中で行う。ただ、これ……その、ボクのアレとかもでちゃう。死んでるから仕方ないけど、使うのは問題あるかもしれない。まあ、ご飯とか食べてないし、飲んでもいないので最初の以外は大丈夫だと思う。そうしておく。

 成功するまで死ぬトラ・イアンド・デスを繰り返す。これも一種のゾンビアタックや死に覚えだと思う。ただひたすら融合できるまで頑張る。


 25回目のトライで融合ができた。自分の力が拡張されていく感じがする。体力と魔力がかなり増えた。それに龍脈から集める力の量も増えている。他には自分の体内に感じる心臓か竜核っぽいものが倍になっているし、幼竜の隣に☆が現れたのでどこまでいけるか試してみる。

 幸運もあるし、もっと頑張ってみよう。それに幸運もLv.3からLv.4に上がった。これで更に確率が上がるかもしれない。


「頑張ろう」




 ※※※




 デスマラソン359回。☆は5までたまり、6回目からは★になった。最終的に★★★★★が限界みたい。つまり、幼竜では10段階強化ができる。

 効果としてはHPとMPが☆×1000で10000の強化。それに竜系統のスキルがのけなみLv.2の効果アップ。ただし、魔法などの習得はなく、単純に威力などがあがるだけ。

 最初のガチャより、人形のためだと思ったら余裕だった。幸運もレベルアップしたおかげかもしれない。それに素材がいっぱいだ。ただ、竜核がないのでデスマラソンは継続。

 次は喉を潰していこうかと思ったけど、死ななかったので竜脈を操作して膨大な量の力を脳に集めてわざと破壊させる。これで死ぬ時と脳死状態になることで生き残る時があった。その場合は自決システムが起動した。このシステムは死ぬか生きるかを選択できる上に死体を残すか残さないかも選択できるのでとっても便利。26回ほどこの方法で脳死した。脳死が一番綺麗に身体が残る。





 最初の分も含めて死んだ回数を調整して450回。幼竜だけど、金竜の素材を大量ゲット。ただ、ここから整理の問題がでる。明らかに収まりきらない数だからだ。

 課金してアイテムストレージの数を増やし、1種類の上限数も増やした。それでも足りない。というか、よくよく眼えたらアイテムストレージが共有項目になってるわけで、ボクの死体が大量に入っていることになる。これはいろんな意味でやばい。

 課金で100枠、同じ種類のアイテムを1枠で100まで入れられるコンテナがリアルマネー1万円で売っている。そちらを購入して、収納する。オプションで時間停止もある。倍の値段で合計2万円だけど仕方ない。

 さて、死体をコンテナに回収したら疲れたのでそのまま眠る。




 ※※※




 起きたら目の前にメイシアの顔が見えた。どうやら、頭の後ろから感じる完食からして膝枕をしてくれているみたい。デスマラソンが終わってからきてくれた。これは時間の経過が違うからだと思う。たぶんセーフ、きっと。


「おはようございます、ユーリ」

「おはよう」


 少し頭をあげると、ボクのお腹の上にアイリが頭を乗せて寝ていた。メイシアはボクとアイリの頭を撫でてくれていたようだ。


「お仕事は終わったんですか?」

「うん。一応、やらないといけないのは終わったよ。ただ、ディーナ達から、友達の誕生日プレゼントにアバターのフィギュアを作って欲しいって頼まれたんだよ。それでメイシア達の分も一緒に作るから、資料としてSSが欲しいんだけど……いい?」

「あの、それって私も貰えるんですか?」

「うん。住所さえ教えてくれたら送るよ。ただ、非売品だから売らないでね。嫌なら別にいいし、ボクに知られたくないのなら、ディーナ達に教えてくれればいいから」

「大丈夫です。ユーリなら悪用しないと思いますから。アイちゃんのも作ってくれますか?」

「もちろん。家族5人のを作る予定だよ。それとディーナ達のお友達さんのも含めると6体かな」

「じゃあ、よろしくお願いします」

「うん。ボクのSSも欲しいから、互いに撮り合おう」

「わかりました」


 ボクのは別にSSはいらない。さっき手に入れた綺麗な身体があるから。けれど、有った方がいいと思うのでメイシアにもお願いする。互いの写真を作ってから、許可をもらってステータス画面からメイシア達の身長や体重、スリーサイズを調べる。これがないと身体のバランスが変になるから仕方ない。




 ログアウトしてから手に入れた情報と資料をもとにして3Dプリンターでパーツを作成。削って微調整を繰り返してから組み立てて色を塗っていく。

 裸の素体が出来上がったので、次は服を作る。服はSSから型紙を作って布を切って成形していく。服も3Dプリンターで作れるけれど、これはリアリティーが損なうのでやらない。ただ鉄の防具とは3Dプリンターでやってしまう。

 拡大鏡などを使いながら服を作り終えたら着替えさせて足場に乗せる。最後に劣化防止用の塗料を吹きかけて完成。こちらも関節の稼働もできるようになっているので好きなポーズを取らせられる。

 等身大ではなく、10㎝のフィギュア6体なので2日で仕上げた。正直、服を自分で作らなかったらもっと時間は短縮できる。けれど、それをやると量産できる工場とかの方に客が取られてしまうので、こちらとしてはワンオフで対抗する。できるかぎり技術を込めて妥協せずに作る方が良い。といっても、武器とか小物とかはある程度パターン化してしまうんだけどね。3Dのデータ、直すの面倒だし。


「さて、こっからが勝負だね」


 フィギュアのうち、許可を得ているボク、ディーナ、アナスタシアの写真や動画を様々な角度から撮る。もちろん、ローアングルはなし。妹達の身体を人様には曝したくない。ボクのはちゃんと男にしてあるので大丈夫。服装も男性用にしてある。ジャケットにTシャツ、ジーパンといった男らしい服装だ。

 これらの写真と動画をメールに乗せて原初の世界ワールド・オブ・オリジンの公式サイトから知った運営会社にメールを送る。

 内容は原初の世界ワールド・オブ・オリジンで作ったアバターのフィギュアを作りました。販売が可能かどうか、また著作権料などがどのような値段になるか、ご相談させていただきたいのですが、可能でしょうか? といった感じなのとメリットとデメリットを書いた内容を添えて送る。こういうのは十中八九、許可がでる。向こう側からしたら、グッズ販売を請け負ってくれるようなものだし、なにより許可だけだせばお金が勝手に入ってくるのだ。

 料金は個数か定額かになるだろうけど、お客様の数次第になるから最初はお試しで個数がいい。定額は定員割れしたら大赤字になっちゃう。ただ、純利益から数%取られるのもつらい。材料費とかもかかるからね。

 果報は寝て待てということでおやすみなさい。




 次の日、原初の世界ワールド・オブ・オリジン内部で相談することは決まった。驚きの速さだけど、あちら側もグッズ販売を考えていた上に一人一人のオリジナルに合わせるということで、お値段が高くなっても売れるだろうし、囲い込みもできそうだという判断らしい。

 あと、ボクのアバターにバグがみつかったお詫びもあるらしく、著作権料とかすごく安くしてもらえた。

 そのバグというのは、ボクが男なのに金竜の幼姫なんてものを持っているから、セクシャルハラスメントコードの一部にエラーが起きているらしい。というのも、本来ならリアルの姿をそのまま運用する場合があるので、男性アバターは男性が務める管理部に、女性アバターは女性が務める管理部に送られるらしい。ボクは最初、女性として女性用の管理部にアバターがあった。そこからボクの申し出で男性用の管理部に移動となった。だというのに女性専用スキルを所持している。

 そのせいか、メイシアの身体にたしての資格情報にセクシャルハラスメントコードが効いていないことが判明したらしい。本来なら、異性のアバターの下着姿や裸を見る場合、その身体はモザイクと光によって覆われて完全に見えなくなるはずだったらしい。ボクの場合は同姓扱いになったようで、見えたようだ。ちなみにこれらは倫理コードで外せるらしい。

 さて、この問題だけれど……被害者はボクと結婚しているメイシアだけになる。アイリは見ているけれど娘だし問題ない。

 被害者であるメイシアも納得しているので、ボクが咎められることもない。悪いと思っているけれど、運営側の責任だしね。

 ちなみにこのバグは修正されなかった。正確には修正するにはアバターのデリートになるので、拒否した。運営側もゲーム内のことは色々と制約があるみたいで、ボクのためだけに作られた専用アバターとまったく同じアバターを用意するのはできないらしい。

 もちろん、対策がないわけではない。ボクは男性側、女性側の倫理コードからハラスメントコードを設定し、同姓でも光で隠れるようにすればいいだけとのこと。ほら、百合の人もいるので、そちらの設定もできるようになっているとのこと。

 光設定を固定することで同意した。ただ、親しい間柄の人や相手側が倫理コードを全解除している場合には効かないらしいので、気を付けるようにと言われた。それと親しい間柄には当然、家族や嫁も入るので、メイシア達には結局効かない。

 ただ、どちらにせよ……ボクとしては補填の著作権料割引が美味しい。これでホームページに載せられるし、公式でも告知を出してくれるそうだ。そこにボクのページへ飛んで制作依頼ができるようにサイトも作ってくれるとのことなのでお任せする。そのサイトに作ったフィギュアを乗せて宣伝するように言われたので、そちらは任せた。

 デビュー作品としてボク達のを載せるらしいけれど、他の子のは許可をもらってといっておいた。後は次やるイベントの景品として5体頼まれた。このイベントを聞く限り、今のチュートリアルフィールドからはいけない場所なのでボクは参加できない。残念。

 あ、進めないことも聞いたら、そっちは竜の紋章を手に入れたらレベルに関係なく進めるようになるとのこと。というか、金竜なんていうピーキーでレアな種族に姫スキルを追加するなんて最初から使われる想定をしていなかったらしい。システム担当とクエスト担当、アバター担当の部署が違うせいでおきてしまったらしい。まあ、仕方ないね。


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