第25話 キリング・マンティスとの戦い

 



 鈴が付いた紐によってツインテールにされたボクは髪の毛を解こうとする。でも、ディーナに止められてしまう。何度か外そうとするけれど全部読まれて防がれる。しまいにはアイやアナ達も一緒になって進めてきた。


「パパ、似合ってるです」

「だよね。このままでいようよ」

「女の子としては負けを認めるしかないですね。違和感とかないですし……」

「メイシアまで……」

「それによく考えてみてください。これはアバター、つまり仮初の人形です。お兄様はマリオネットコントロールで自らの身体を操っておられるのですから、その身体は人形です。人形に似合う服を着せるのは足り前ですよ?」

「あれ? それもそう……なのかな?」

「そうだよ。お兄ちゃんだって可愛い服を着せて売ったりしてるよね?」

「まあ……」

「それにお兄ちゃんが可愛いと私達のやる気も増える! それに実際に服を着たりするのは作る時の勉強になったりするよ。ましてやここはリアルとは関係ないんだから」


 人形な訳だし、可愛くした方がいい。それにこのゲームをやっているのはあくまでも人形の勉強でもあるわけだし、男性用女性用、どちらも着て勉強したほうがいいよね。


「それなら、まあいいかな……」


 今は時間もないし、揉めても面倒だ。後で直したらいいだけだし、ワンピースが脱げるようになったら、髪形も変えよう。今は女物を着ているわけだから抵抗しても説得力があまりない。まわりからしても、男だと思ってる女の子みたいな感じで見られてるだろうし。これはこのままかもしれないけどね。


「おい、そろそろ行くぞ!」

「そうですね。行きましょう。向かうべき方角はこちらです」

「出発だね」

「レッツゴーっ!」


 立ち上がって皆で地下洞窟を進み始める。ボクがいるせいか、アント達は気にせず襲撃してくる。けれども、明らかに先の戦いよりも数が少ないので簡単に蹴散らせる。




 ディーナの先導に従って進むと、無事に前に外に出られる場所に到着できた。そこからスロープのようにゆるやかな坂になっているトンネルを抜ける。

 トンネルの先は木々が生い茂る森で開けている場所。前回とは少し違うけれど同じ迷いの森だった。どうやら、入口は密集しているのか、迷いの森の入り口から入るとこの辺りに着くのかもしれない。


「目的地に到着しました。ここからキリング・マンティスはいつ来てもおかしくないので、皆さん警戒してください」

「徘徊型なら、防御陣地を構築するか?」

「そうしましょう。ここならすぐに逃げれますし」


 どうやら、ここで待ち構える三段みたい。徘徊してるからあちらから来てくれるはずだし、そっちの方がいいのかもしれない。他の人達はてきぱきと準備しているし、ボクも準備しよう。


「パパ、どうするです?」

「ん~準備時間がかかる奴を用意するよ」

「火力を上げるのか、です?」

「うん。一応、用意する時間があるから初撃に全力を投入するの。で、いいんだよね?」

「はい。私には準備するようなスキルはありませんが、アナちゃんはありますよね?」

「あるよー。血をばら撒いておかないといけないの。それと盾を召喚しておくの」


 アナは吸血魔法と死霊魔法、闇魔法が使える。盾を召喚するということで、何をするのかと思ったら地面に魔法陣を書いていく。その魔法陣の上にウルフの骨とかアントの骨とかを置いてスケルトンを作り出す。


「このスケルトンが壁なんだね」

「どうせ一撃でやられる、です」

「でも、その一撃を稼げるからね。本当は予測される戦場に爆撃系とか遅延系の魔法を仕掛けたいんだけどね。ほら、あんな感じにね」


 ボク達以外の人も地面に魔法陣を書いている。どんな魔法かはわからないけれど、かなり強力なのかもしれない。


「あれは縛鎖、動きを封じる系統の魔法だね」

「動きを封じるの?」

「そうだよ。まず、前衛が誘導して動きを封じたところに後衛のみんなが全力を叩き込むのがセオリーだよ。ちなみに後衛火力が全力で叩き込んだら、アナ達にヘイトが移ってこっちを狙ってくるの。その瞬間、相手は後衛に集中しているから前衛が必殺技を叩き込んでダメージを与えるだよ。これでヘイトを取り返すことができて、後衛は比較的安全になるの。まあ、ベストは前衛が攻撃した後にヘイトを集めるスキルを使うだろうけどね」

「なるほど」


 確かにそっちのほうが効率良くダメージを与えられるよね。ボクもそのつもりでやってみよう。まずは準備としてぬいぐるみを服素とりだす。デフォルメされたウルフのぬいぐるみ8体で、魔力の糸を繋げて動かしていく。


「可愛いぞ、です」

「ですね~」

「お~」


 ぬいぐるみの手足を動かしてこてんと転がしたり、じゃれ合わせたりする。コントロールは問題ないし、操作も良好。地中にある龍脈に接続する。ドラコンブレスを連携魔法を発射する準備なので、しっかりとスキルの発動を意識すると使い方がわかるので、八体をボクの周りに配置して力を集める。


「人形劇みたいなことってできる?」

「ストーリーがない」

「じゃあ、今度は色々とやってほしいですね」

「いいよ。人形劇とかしたことがないけど、いいかもしれないね」

「やった!」

「楽しみだ、です」


 ボク達が準備していると、支援役の人がボク達を含めて攻撃力や防御力をあげる魔法をかけてくれる。


「対象を確認。こちらに来ます。接敵まで約二分! いえ、これは……速いっ! もうまもなく来ますっ!」


 空にあった黒い点は物凄く速く、どんどん大きくなってくる。そいつは赤いオーラを身に纏いながらこちらに接近する。


「来いっ!」


 挑発系スキルを使ったのか、そちらを一目見てその人に向けて降下して振り下ろす。盾を構えたその人は一撃でヒットポイントが消し飛んだ。


「なんつー威力だ!」

「これ、ヤバすぎるだろ!」

「――■■■■■■■■■■■■■■■!!!!」


 咆哮があげられ、身体が震えて動かなくなってくる。それほどまでに恐怖を、死を感じる。ゲームなのに作り込まれた本当に生きているかのような相手は生物として圧倒的な格の違いを持っているかのようだ。


「インデュアっ! 完全防御っ! プロヴォック!」


 一人の男性が咆哮を無効化し、キリング・マンティスを引きつけて走り出す。彼は高速で振り下ろされる無数の攻撃を一切のダメージを受けず防ぎ、罠のところまで逃げる。


「後5秒!」

「変わるぜっ! 完全防御っ!」


 盾役の別の人が変わってキリング・マンティスの攻撃を受け止める。おそらく、完全防御っていうのはボクが金竜を選んだみたいなダメージを無効化する特別なスキルなのだろう。そのおかげで相手をしっかりと見れた。ヒットポイントゲージは約10本。その内の1本が3割だけ減っている。どうやら、回復はしていないようだ。


「いったぞ!」

「任せて! タルタロスの鎖っ!」


 誘導が上手くいったからか、仕掛けていた魔法陣に到着した。魔法陣から出てきた鎖がキリング・マンティスを雁字搦めにしていく。いくら暴れてもキリング・マンティスは鎖を破壊することができないみたい。


「効果時間は30秒! 全力で攻撃してください!」

「後衛部隊、一斉攻撃っ!」

「範囲拡大、ブレイブソウルっ!」


 相手の咆哮で身体が震えて動かなくなっていたのは、ブレイブソウルという回復魔法で身体が暖かくなって恐怖がなくなったのか動くよになった。


「展開・ガトリングガン」

「ブラスファイアっ!」

「コキュートス!」


 いろんな超強力な魔法がキリング・マンティスに飛んでいく。ボクも全力でぬいぐるみを操作してドラゴンブレスを9体分を収束して放つ。

 極大な光線はキリング・マンティスを飲み込んでいく。相手はその中でボクをしっかりと見詰めて笑ってくる。あいつは鎖を引きちぎりながらこちらへと突撃してくる。


「お兄様っ!」

「スケルトンたちっ!」


 スケルトンが妨害に入るけど、それも一振りで蹴散らされる。だけど、その一瞬が助かる。


「鬼神召喚!」

「雷雲召喚!」


 召喚系の人が盾を召喚し、必死に抑え込ませていく。その直後に前衛組が必殺技を叩き込んでダメージを稼ぐ。それでも10のヒットポイントゲージの内、5個だけ削れた。


「これ、無理だろ……」

「変化、来ますっ!」


 相手は凶暴化したのか、赤いオーラではなく全身が真っ赤にそまって約3倍の強さになった。圧倒的なほどの高火力で盾役の召喚獣を斬殺してボク達に迫ってくる。


「全員撤退っ!」


 ディーナが煙幕を放つ。その間に5人が死んだ。ボク達は急いで地下に滑り込むけれど、とてもじゃないけど間に合わない。ここにはディーナ、アナスタシア、メイシア、アイリといったボクの大切な子達がいる。なら、やるしかない!


「くらえっ!」


 ウルフのぬいぐるみを複数取り出し、糸を繋げてその内の一つを投げて至近距離からドラゴンブレスを放つ。すぐにターゲットがボクに移るので、ボクは皆とは反対方向に逃げる。

 他のウルフ達を使い、ボクは妨害しながら森の中を必死にじぐざくな状態で逃げる。キリング・マンティスは当然、ボクを追ってくる。ボクこそがコイツの一番の餌なのだから。

 でも、木ごと切断されてとてもじゃないが防ぎきれない。ボクは泣きながら必死に逃げる。後ろを向けばとっても怖いのが襲ってくる。

 前を向いて走っていると、いつの間にか隣にいて首を狩りとられた。復活してもすぐに殺された。その時に見えた相手のヒットポイントゲージは残り4本と8割ぐらいだった。





【復活まで少し時間がかかります。ログアウトしますか? 神殿で復活しますか?】





 神殿を選択してしばらく漂ってから復活したボクは参加者の皆が集まっているカフェテラスに向かった。そこでは反省会のようなものが行われている。いや、愚痴大会だ。


「なんだあの強さ。明らかに勝てるレベルじゃねえぞ」

「あーいまさらだけど、あれってもしかしたらフィールドには絶対に勝てないような奴がいるってことを教えるために配置してあるのかもしれないな」

「そういえば進んだ先だと雑魚エリアから隣が鬼畜エリアだったり、明らかにおかしなレベルの奴もいるらしいしな」


 その話が本当なら、現時点では勝てないモンスターのようだ。まあ、確かに無茶苦茶強いしね。逃げながら探索するのがベストなのかもしれない。


「お兄ちゃん、お疲れ様。大丈夫?」

「大丈夫だよ。アナ達は?」

「私達は無事に逃げられたよ。お兄ちゃんが囮になってくれたおかげかな」

「それはよかったよ」

「それとあいつだけど、放置して逃げながら探索することになったよ。できるかぎり地下を経由していくことになるね」

「なるほど……」


 その方がいいのかもしれない。でも、ボクとしてはやっぱり倒したいな。逃げ撃ちしたら倒せるかもしれないしね。うん、ぬいぐるみをいっぱい集めてドラゴンブレスを撃って逃げる。それを繰り返そう。頑張ればいけると思う。ぬいぐるみは消耗品だけど、そこは仕方ない。それと皆には悪いけど、これはソロでやってみよう。




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