第59話 ドラゴンナイツとの話し合い
アイと手を握りながらフェリルの案内に従って島の沿岸部へと到着した。視界に広がるのは綺麗な太陽の光に照らされる雲海と気持ち良さそうに飛んだり泳いだりしている鳥や魚達。
そんな魚や鳥が雲海の中から飛び出してきたワイバーンにパクリと食べられる。そのワイバーンも上から来ていた竜族であろうドラゴンに喰われる。
「どうした、です?」
「いや、弱肉強食だな~って」
「竜界に生きる声明として……いえ、自然界に生きる者として当然のことです」
「それもそうなんだけどね」
頬を人差し指でかきながら、今見た光景を考えるとアレだ。もったいない。ワイバーンだって育てれば立派な戦力になるしね。それにワイバーンならドラゴンと違って簡単に
「主様、来られました」
「ん……あれかな?」
「です」
遠くに黒い点のような物が見える。それが時間が経つにつれてどんどん大きくなってくるので間違いないだろう。そもそもフェリルが間違えることなんてないだろうしね。
「来た、です」
赤色をした巨大なドラゴンが翼を羽ばたかせ、風を巻き起こしながら岸に舞い降りてきた。
ドラゴンの上には三人が乗っていた。女性の方は長い赤髪をポニーテールにして尖がった少し長い耳が見える。腰には二本の剣を差して赤色の火属性を感じさせる軽鎧を着ている。イルルヤンカシュは調べた限りでは水が特異なはずなんだけど不思議だ。
もう一人は青い髪毛を後ろで結んで流している少女。こちらは長い耳に黒い角が生えている。服装は黄緑色のローブドレス。武器は長杖といった魔法使いの感じ。
最後の一人は金髪碧眼の男性で白銀の鎧を着ている。背中には大剣を背負っている。彼が背負っている大剣からは嫌な気配がしてきて、思わずアイとフェリルを背後に隠す。
「主様、気をつけてください」
「ん? どうし……あっ」
「ああ、そうだったな。ちょっとこっちに来い」
三人はすぐに気付いたようで、女性が男性の腕を掴んで引き連れていく。代わりに青い髪の少女、ジルがボク達の前に立って頭を下げてくる。
「ごめんなさい。兄……あの人が持つ大剣はグラム。魔竜ファーヴニルを討った剣です。竜殺しの特性も持っているので、私達竜族からしたら最悪な奴です」
「ああ、なるほどね」
でも、そんな物をなんで持ってきてるんだろう? 竜界に入れたら駄目な奴だと思うんだけど。
「グラムは呪いの装備です。グラムを一度装備すると、グラム以外の武器は弾かれて使えなくなります。また、ファーヴニルの呪いで定期的に竜族の血を与えないと性能が下がりますし、飢餓感。逆に血を与えれば与えるほど性能が上がります」
「うわぁ……」
「そんな危険物を持ち込まないでくれますか?」
「大丈夫です。私とイルルの血を定期的に吸わせていますから」
「ああ、なるほど。もしかして初期のメイキングガチャですか?」
「私達の種族と同じです」
ボクとアナの関係と同じだ。血を提供することでデメリットを打ち消し、竜殺しの力を秘めた強力な武器を使えるのかな。しかし、伝説の武器だけあってデメリットが多いけど絶対に強いだろうね。竜族相手なら防御力無視なはずだし。
「そういうわけで安全ですから、安心してください。ドラゴンナイツの副団長なのでこういう場面でご紹介しておかないのも不味いですし……」
申し訳なさそうに伝えてくるジルさんの言葉もわかる。彼女の言う通り、これから竜界を拠点にするのなら周知しないと不味い内容だ。
「わかりました。ありがとうございます」
「いえ、こちらこそすいません」
「ジル」
「あ、そうですね。こちらはドラゴンナイツの団長、イルルです」
「イルルと言う。種族は竜族で水竜のイルルヤンカシュだ。来訪者で同じ竜族の同士ということでよろしく。それと敬語は必要か?」
「はい。こちらこそよろしくお願いします。敬語は大丈夫ですよ。式典とかなら不味いですが、そもそも皆さんはこの世界の竜族とは違いますから、ボクに従う義務も義理もありません」
ボク達はあくまで遊びに来ている来訪者だからね。
「了解。助かる。それでこっちが私の夫であるジークだ」
「ジークだ。よろしく頼む。ちなみにまだ俺はノーマルの人間だ」
「はい。よろしくお願いいたします」
お二人は結婚しているみたい。ジークさんとイルルさんは結婚していて、ジークさんをジルさんが兄とか言っていたから、義理の姉か兄なのだろう。ボク達と同じく兄弟でプレイしているのだろう。だからこそ、よりシナジー効果を得られる。
「この三人がドラゴンナイツのトップだ。他にも団員は居るので報酬に関しては全権を持っていると思ってくれていい」
「わかりました。それでは次はこちらから紹介しますね。まず、ボクが竜王姫のユーリです。そして、こちらが水龍の巫女でマザードラゴンのフェリルです」
「フェリルと申します。よろしくお願いいたします」
フェリルは頭を軽く下げてからボクの後ろに下がる。次に自分の番だとわかったのか、ボクの服の裾を掴みながら後ろから出てくるアイ。
「アイリだ、です。助けてくれてありがとう、です」
「ありがとうございます」
「いえいえ、お気になさらず」
ボクとアイリ、それにフェリルも一緒に頭を下げる。すると向こうのジークさんも頭を下げてきた。
「主様」
「っと、そうだね。それじゃあ、案内しますね。どうぞこちらへ。色々と聞きたい事もあるだろうけれど、まずはゆっくりとお茶でもしながらお話しましょう」
「そうだな。ジル、それでいいか?」
「はい。そちらの方がいいでしょう」
「では、ご案内いたします」
フェリルの案内で神族と魔族を歓待した場所に向かう。そこに机と椅子を用意してある。と、いうかまともな場所って玉座があるところか、歓待した場所しかないしね。本当、建物が欲しい。
三人を案内し、席に座ってもらう。団長であるイルルさんが真ん中で、左右にジルさんとジークさんが座る。
その向かい側にボクとフェリル、アイが座る。会場をセッティングしてくれたディーがボク達に紅茶と焼き菓子を用意してくれた。こちらは多分、アナやディー達のおやつだろうね。後で補填してあげよう。
「さて、改めてお礼を言わせてもらうね。ボク達を助けてくれてありがとうございます」
紅茶を飲んで落ち着いたのを見計らってから話を切り出す。相手側もカップを置いてこちらを見詰めてくる。
「報酬をもらうのだから問題ない」
「ですね」
「ああ。だが、それよりも聞きたい事がある。そうだろ?」
ジークさんの言葉にイルルさんが頷いて発言してくる。報酬よりも大事ということは、きっとアレだろう。
「そうだな。竜族が人界より完全撤退することについてだ」
「ボクが出したアナウンスが聞こえていたんだですね」
「あのアナウンスはどういうことだ?」
「ああ、来訪者の竜族にもアナウンスが届いたんですね」
「しっかりと届きました。神族と魔族の二種族との交渉が決裂したのでしたね?」
「そうです。こちらは人界より撤退し、竜族が所持していた領土の譲渡と傭兵として竜族の派遣を提案しました。しかし、両種族の要求はボク、もしくは次代の竜王たりえる娘であるアイの身柄と婚姻です。そうなればその後はどうなるかわかりますよね?」
「えっと人質ということか?」
「兄さん、それ以上です。竜族の転生についても抑えられるし、戦力としても使い潰されることは確定でしょうね」
「逆らえるわけはない。それに私なら少なくとも防衛を理由に竜界も支配下に置いて資源の採掘を行うだろうな」
「摘むじゃん」
神族と魔族の提案はどちらを選んでも終わりなんだよね。まあ、相手からしたら段々と要求を下げていくつもりだったかもしれない。どちらにせよ、新しく竜王に着任したボクが舐められているのは確実だ。まあ竜王姫なんてクラスなんだから当然だけどね。アッハッハッハ!
「あんな全面降伏なんて受け入れたら竜族は終わりです。ましてやせん……こほん。誇り高き竜族ならば玉砕を選ぶでしょう。で、来訪者としてそんな竜族……ドラゴンってどう思いますか?」
「「「無い」」」
「ですよね! それにボクの可愛い娘に手を出そうとしたんですよ? もう竜王姫としてのボクにある逆鱗に触れちゃいました♪」
「おおう……」
アイを抱き寄せて頭を思いっきり撫でてあげる。アイも体を任せてきて、気持ち良さそうにしてくる。
「ジーク、私や妹が無理矢理寝取られたら相手をどう思う?」
「ぶっ殺すな。間違いなく」
「そういうことだ」
「そういうことですね♪」
「……つまり、撤退するついでに得られる資源を回収し、同時に安全に撤退するために焦土作戦を行ったってことですか?」
「はい。竜族は自然を調整する役割も担っていますからね。ですので、竜族が住みやすく調整した場所は自然豊かな豊穣の大地となります。そんな一等地を簡単に渡してあげるつもりはありません。使った分と集めた財宝や管理費用などを回収し、先住民の中で付いてくる方々を連れて竜界に戻ってきてもらうことにしました。後程、掲示板にも今回の件について詳しい説明とこれから竜界が最低限の行き来以外を封鎖することを通達します。
また、合わせて竜界を紹介する動画もアップロードして選別した来訪者を招き入れる予定ですので、皆さんは安心してください」
情報の発信は一番大切なことだからね。事前告知はしっかりとする。
「来訪者は問題ないのか……」
「はい。ボク達としても来訪者の方々は竜界を開発するのには有用ですからね」
「ついでに来訪者に竜族を傭兵として派遣することで他世界の情報と資源の確保が狙いですか」
「ですです」
「黒」
「なにか?」
「いえ、なんでもない」
ジークさんに商売用の笑顔を見せておく。ジルさんはこちらの狙いにいち早く気付いてくれた。イルルさんは無表情だしわからない。
「この世界に住んでいる竜族の人界よりの撤退については了解した。では、報酬についてだ」
「はい。報酬についてはいくつかの
「うむ。理解している」
「それだけでもかなり助かる。土地代が報酬になるわけだしな」
「島一つですからね」
「ああ。それだけではないのだろう?」
「はい。ここからはそちらの返答次第です」
「聞こう」
ドラゴンナイツの皆さんにこちらの
「専属契約をして竜界に所属していただけるのなら、浮島ではなく移動する島ともいえるドラゴンホエールとの契約をお手伝いします」
「ドラゴンホエール!」
「竜のクジラ……」
「空を自由……とは言わないまでもある程度は移動経路を自由にできる空飛ぶ拠点です。防衛能力もドラゴンなので圧倒的です。生半可な野良
皆さんの顔色が変わりました。少人数では扱いきれない報酬だろうけど、βからやっているトップの一つであるドラゴンナイツならなんとかなるだろう。
「問題は竜界以外の別世界に持っていけるのか?」
「可能ですが、当然ながら他世界への移動は竜界の管理者であるボクの許可が要りますね♪」
「許可はくれるのか?」
「こちらが提示する条件を受け入れてくれたらですね。まあ、こちらが要求するのは人界で活動する竜族の共同拠点としてくれることぐらいです。魂や卵などの回収と保管、休憩や補給などやる場所は必要ですからね」
「完全撤退とはいったい……」
「来訪者と契約しているドラゴンは別ですから♪」
「他には?」
「他は竜界に存在するダンジョンの探索許可や竜界の素材で作った装備などの持ち出し許可。クラスの習得やクラスアップなどの優先権ぐらいですね」
「クラスとかはいいが、素材や装備の持ち出し許可か?」
「はい。竜界で得られる素材などの資源は全てボク達が買い取ります。作られた武具もレンタルという形で貸し出し、竜界からの持ち出しは基本的に禁止します。竜界に対する貢献度が高ければ許可を出しますが、市場に流すことはしません。外貨や外の資源の確保は傭兵達でしますし、まずは竜族の装備や施設を充実させることにしますので」
「損耗した戦力の回復は急務だし、理解はできる。だが、納得する来訪者は少ないだろう」
「竜界には多数のダンジョンがありますので、そちらで使ってもらえばいいのです。それに竜界に所属して頂き、こちらが信頼できる方には契約魔法などで縛って持ち出しも許可します」
竜界の素材はそれだけで価値があるかもしれない。少なくとも竜族の素材に価値はある。
「竜界に所属すれば戦争の参加義務が発生しますが、これは竜族と契約したら仕方がないと諦めてください。彼等彼女等にとって竜界は故郷ですからね」
「デメリットは俺達にはあまり無いな。竜界以外で使えないとしても、あちらにも拠点を持てばいいだけだ」
「だな。それに今、使ってる拠点もある。一度皆で相談する必要はあるが、まあ問題ないだろう」
「チャットで流しているけれど、メンバーの半分以上は賛成しているから平気でしょう」
リアルタイムでチャットしながら会議するのはボク達、プレイヤーなら普通の事だしね。
「竜騎士についても興味がある。是非ともなりたい」
「竜殺しの竜騎士ですか……カッコイイですね!」
「だろ!」
「そういえばクラスの習得やランクアップの優先権をくれるって言ってましたね?」
「そちらはまだ検証が必要なので協力して頂けると助かります」
「まだ判明していないのか」
「確実ではありませんけど、騎士を任命するのって王様ですよね?」
「ああ、そうなると可能性は高いのか」
「定番としては竜族と契約しているか、竜族か、そのどちらかの状態で騎士の条件を満たしたら、とかだろうな」
「そちらが纏まったらでいいので、実験の協力もお願いします。それと技術者の方々についても公募しますのでお知り合いの現地人や来訪者の方々に紹介してくれると嬉しいです。今なら友達紹介キャンペーンもしちゃいますよ!」
「了解した。こちらにもメリットがあるからな」
「じゃあ、こちらからもお願いしてみます」
「ありがとうございます!」
友達紹介キャンペーンはありだと思う。こちらに定住してくれることが条件だけどね。まあ、自然以外は何もないから色々と最初はきついかもしれないけど、竜族の素材が扱えるなら研究者や探求者タイプの技術者はやってくるはず。
それと所属しなくてもいいから、建築関係の仲介もお願いしよう。何に置いてもまずは建物だ。それがないと話にもならないしね。お城も欲しいけど、まずは工房からかな。むしろ工房と宿屋さえあればいいかも!
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