第29話 事前情報
徹夜の仕事を終えてリビングに入ると、怜奈と恵那が朝食を食べていた。夏休みが最後の日となった二人は最後までゲームを楽しむそうだ。そう、今回のイベントは8月30日の土曜日からスタートする。9月が休みな大学生には嬉しいけれど、それ以外の学生は悲しみに満ち溢れる。といっても、ダンジョン入場回数が3回までなので夜からいけばいいだけだ。
「お兄ちゃん、おはよう」
「おはようございます」
「おはよ~」
「朝食は目玉焼きとトーストでいいですか?」
「なんでもいいよ」
「わかりました。では、ベーコンもつけますね」
「ん」
昔の映画であったようにトーストにベーコンと目玉焼きを乗せて食べる。口の中に黄身の味とベーコンの塩味、胡椒の風味が伝わってくる。
「お兄ちゃん、アタシ達。訓練所のクエスト終わったんだ……」
「ん?」
恵那が言いずらそうに伝えてくる。訓練所のクエストが終わったのなら、喜ばしいことのはず。それなのにこんな言い方をしたということは他にあったということ。考えてみると一つしかない。
「イベント?」
「うん。イベントに参加したいから進もうかなって……」
「怜奈も?」
「はい。メイシアさんも一緒に行こうと話しています。メイシアさんはお兄様がいいならとおっしゃっていました」
「わかった。それならアイリも連れていってよ。せっかくのイベントだしね」
「ごめんね。本当は一緒にいきたいんだけど……」
「ボクはまだ終わってないし、進めないからいいよ。ゆっくりとやるしね」
それに景品を用意する関係上、参加しない方がいいかもしれない。
「ボクはボクのペースでやるし、4人で楽しんでおいで」
「ありがとう! それじゃあ、いってくるね」
「いってきます。お土産を楽しみにしていてください」
「はい、いってらっしゃい」
ボクが一緒にいるわけではないので、ディーナはステータスが下がるから気をつけないといけない。ただパーティーを解散しなければある程度は抑えられると思う。もっとも、ボクが死んだらディーナも死ぬので、ボクが戦うのはディーナ達がログアウトとしてからだ。
「お兄様はどうなさいますか?」
「ボクは寝る……」
「でしたら、ゲーム内で寝ればよろしいかと」
「確かにそっちの方がいいかもね」
「わかった。お風呂に入ってからゲームで寝るよ」
怜奈と恵那の二人がログインしていったので、ボクはシャワーを浴びて身体を綺麗にしてからゲームにログインする。一応、メイシア達に連絡を入れてから眠りについた。
※※※
「ん~~」
まどろみの中から目覚める。身体を起こしてから、ぼーとする頭で周りをみる。壁にかけられている鏡には金色に光り輝く髪の毛をぼさぼさにし、寝ぼけた表情の可愛らしい顔をした美少女の姿がみえる。
鏡を見詰めていると、手が勝手に動いて翡翠のような綺麗な碧色をした宝石みたいな大きな瞳を猫の手のようにして擦ってしまう。
だんだんと覚醒してくると、鏡に映る服装にまで目がいく。ボクの服装は黒いワンピースが肩から落ちている。それによくよくみれば髪の毛が伸びている気がする。
「ふふぁ~」
こんなところまで実行するなんて驚きだよね。
欠伸を手で隠しながら立ち上がり、ワンピースをもとに戻す。この装備ともお別れが近い。死体収集があるのでドロップ集めすら必要ないかもしれないから。
起き上がってから伸びをして軽く運動する。ストレッチをしながら、これからのことを考える。
キリング・マンティスを倒すにはできる限り、強くなる方が良い。そのためにあそこを攻略して竜の紋章が欲しい。それにメアリーおばあちゃんのクエストもまだだし、もらえる腕輪の力も欲しい。それにボクが死んだらディーナも死ぬので、彼女がログインしている間に死ぬわけにもいかない。一応、ディーナがログインしていなくてもNPCとしてなら呼び出せるみたいだけどね。
そんなわけで今日の予定はボクの予定は買い出しを行ってから森を攻略する。できるだけ戦闘を避けてキリング・マンティスがくる前に逃げ切る。うん、無理っぽい。というわけでおじいちゃんに相談してみる。
「おじいちゃん」
「なんじゃ?」
「モンスターを引き寄せたくないんだけど、できる?」
お茶会をしているおじいちゃんに突撃してみた。一緒にいるのはヴァルキリーでメイシアの師匠さん。
「無理じゃな、諦めよ」
「なんでっ!?」
「その黄金に輝くなにものにも染まらぬ髪に漂う王族の気配。ましてや歩くだけで他の者達を引きつける高貴な者にのみ許された精錬された所作。隠せません。一つだけならまだ高レベルのスキルであればいけたかもしれませんが……」
「隠蔽系のスキルは自動的に無効化されおる。ましてや王者である金竜の姫がこそこそするなどありえぬ。竜族の象徴であるが故にその行動は全てに影響する」
「あうっ!?」
終わった。これ、どうしたらいいの? ねえ、どうしたらいいの?
「ウルフのボスと戦えないよ……そこに行くまでにキリング・マンティスにやられるんだよ……?」
「アレですか。確か住処の近くまではいけましたよね?」
「うむ。地下を使え。ウルフのボスであれば奴の住処である洞窟の近くに地下への入口がある」
「それって地図とかあるの?」
「あるぞ。欲しいか?」
「欲しいよ」
「なら、やろう」
「まあ、聞かれなければあげないのですが」
えっと、これって事前の情報収集はしっかりとしろってことなのかな。そうなると色々と必要なことを聞いてみよう。
「ウルフのボスってどんなのか教えて欲しいけど、だめ?」
「ふむ。別に構わぬぞ」
「情報開示レベルには達していますが、詳しい情報は駄目です」
「可愛い孫のためじゃ、わしは全然問題ないの」
金竜と金竜の幼姫としての効果か、おじいちゃんは色々と教えてくれるみたいだ。
「ウルフのボスは二体おる。昼間と夜とで力が変わりおる」
「昼と夜……」
「そうじゃ。昼間はグレイウルフじゃ。取り巻きとしてウルフが5体おる。集団戦じゃな。夜は
「どちらが強いの?」
「どうじゃったかの……儂にとってはどちらも雑魚じゃし忘れてもうた……」
「強さ的には私達からしたら似たようなものです。ただ、ユーリからしたらワーウルフの方が単体なのでそちらがいいでしょう。単体な分難易度は高いです。そうですね、ソロならワーウルフの方がいいでしょう。逆にパーティーならグレイウルフの方が楽に倒せます」
これは一対一になるから、相手に集中できるってことだよね。グレイウルフは一人だと他の5体をを相手にしないといけない。それに強さ的にどちらが強いかという質問に対して、彼女は私達からしたらと答えた。つまり、ボク達にとってはかなり驚異になると思われる。
「ちなみにですが、昼のグレイウルフとの戦いは外になります」
「それって……」
「乱入される場合がありますね」
「ヤメテッ!」
ボス戦中にキリング・マンティスの乱入とか、悲劇しかうまないよ。絶対に勝てないし。
「つまり、ユーリにできるのは夜に洞窟に逃げ込んで、ワーウルフと戦うことだけじゃな」
「頑張ってくださいね」
「うん。それでワーウルフの戦い方と弱点は?」
「戦い方は格闘じゃな。弱点は人体の急所じゃ。それ以外はないのお」
映画の設定とかだったら銀が弱点とかあるけど、それはないみたいだね。人と同じなら首とかだろうし、うん。やってみよう。
「あ、竜の紋章ってどこにあるの?」
「ワーウルフのいる洞窟を抜けた先に滝がある。そこの滝壺の中じゃな。水中に祭壇があるから、そこに触れれば手に入るはずじゃ」
「水中だね。覚えたよ。じゃあ、まずは地下を進もうかな」
「ああ、そういえばモンスター避けの香炉とか売ってますよ。回復用のポーションも買っていくといいでしょう。それと相手は狼だということを忘れずに」
「? わかったよ」
「頑張るんじゃぞ」
「はーい。いってきます」
ボクは商店街で買い物をするために移動する。商店街で回復用のポーションを購入する。モンスター避けの香炉を買おうとしたけれど、臭いが受け付けなかった。金竜は嗅覚もすごいみたい。肉体のスペックが高すぎるのも問題があるなんて思わなかったよ。
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