第14話 迷いの森の悪夢
アクアリードの街から迷いの森へと戻り、襲ってきたウルフの一部を残して倒す。残りにディーナがマーキングを設置してから逃がす。それから狼の毛皮で作り出したマントを身に纏ってウルフの後ろからついていく。
ウルフは一定の距離を近付くと、きょろきょろしてつけられていないか探しだす。なので距離を開けてながら追跡している。もちろん、ディーナのマーカーのお蔭ではぐれることは無い。
※※※
森の中を進んでいくと、少ししてウルフは大きな木の根元へと潜り込んでいくのが見えた。本当にこの身体のスペックが高くて便利だ。
「ウルフ、ロストしました」
「あそこが正式なルートってことかな」
「恐らくは……」
「とりあえず、行ってみようよ。速く脱ぎたいし」
「ですね」
木の根へと近付く。長く伸びた草や木の葉で隠れているようだけど、そこに何か有ると思って調べる。すると掘られた洞穴が見つかった。それも四つん這いになれば大人でも通れる大きさだ。
女の子であるディーナ達を先に行かせるわけにもいかないので、ボクが四つん這いになって進んでいく。
洞窟の先は真っ暗な世界となった。しかし、金竜だからか少しすると視界が明るくなって周りがしっかりと見えてくる。周りは木の根っこでできた洞窟のようで、奥に進むと立ち上がることができるくらいの広い空間になった。
立ち上がって少し進むとボクが入ってきた場所からアナスタシア、ディーナも入ってくる。
「暗くていいね」
「ボクは何故か平気だけど、ディーナは大丈夫?」
「暗視モードがありますから、平気ですよ」
「そっか」
話しながら地面を確認すると、ウルフの足跡やそれ以外の形跡もあった。
「どうやら当たりみたい」
「ウルフに案内させないと入れないエリアって酷いね」
「ちゃんと探索しなさいってことですね」
「だね。よし、すすも……え?」
「お兄ちゃん!?」
「お兄様!?」
ボクは足を踏み出した瞬間、床が崩壊して落ちた。少し落下すると軽い衝撃がきた。どうやら、落とし穴にかかったようで下の階層まで落ちたようだ。そこは木ではなく、土でできたエリアだった。
「お兄様、大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫」
上から聞こえてきた声に返事をする。その瞬間、周りに壁や天井を埋め尽くすくらいの無数の赤い瞳がこちらを見ているのに気付いた。
「ひっ!?」
「お兄ちゃんっ⁉」
「お兄様っ⁉」
二人が飛び降りてくる。そして、ボクと同じように周りを見てひきつる。そう、そいつらは大量の蟻。蟻型のモンスター、アント。いや、彼等はそれよりも大きく鋭い刃のような口をしている。
「識別結果、ソルジャー・アント……アントの上位種です」
「やるしかないね!」
「ごめん!」
気持ち悪いけれど頑張るしかない。
「大丈夫です。ガトリングガン・展開」
ディーナガトリングガンを取り出し、襲い掛かるために近いてくるソルジャー・アントに対して弾幕を張る。その間にボクもドラゴンブレスをチャージしてディーナが攻撃した反対側の通路に放って敵を綺麗に排除する。
「あはははははっ、いっぱいだね、いっぱいだね! 気持ち悪いのはさっさと殲滅だよ! ブラッド・レインっ!!」
アナスタシアが叫びながら魔法を使い、何を思ったのかウルフのドロップ品を大量にばら撒いていく。
「クリエイト・ブラッドウルフっ!」
そして、魔法を唱えるとそのドロップにボクとディーナによって作られた大量の血が集まり、ウルフの形へと変化していく。
「行けっ!」
ブラッドウルフがソルジャー・アントに襲い掛かって殺し合っていく。互いにダメージを負うけれど、ブラッドウルフは相手の血を吸収して強化されていく。なので、数の差があってもなんとか対応できている。そこにボクやディーナに加えてアナスタシアの魔法もあるので戦いはこちらの有利にどんどん傾いていく。
※※※
数十分による戦闘が終わり、ボク達は落ち着きを取り戻した。改めて天上にある落ちてきた穴を見ると既に閉じている。
「これって蟻の巣ってことなのかな?」
「でしょうね」
「うぅ、気持ち悪かったよぉ~大きな蟻とか止めて欲しい……」
「ごめんね」
「しかし、罠があるのですか……恐らく、ここはダンジョン扱いなのでしょうね」
「ここを攻略するってことはダンジョンを攻略しろってことなのか」
「ですね。それとここはダンジョンのチュートリアルでしょうか。即死するような罠ではありませんでした。アントが大量に居たようですが、あくまでも普通の通路のようですし」
「もしかしてだけど、誰もここまで来ていなかったから、延々とポップし続けていたってことかな?」
「ってことは、大変なことになっているのかもね」
「ですが、普通は調整されてませんか?」
「放置の可能性もあるよ。あくまでも東の草原でことたりるんだから」
「それもそうですね」
「取り敢えず、進んでみようか」
「はい」
進んでいくと、やはり大量のソルジャー・アントに襲われる。でも、こちらもブラッドウルフがいるし、初っ端は回復していたボクのドラゴンブレスで蹴散らかしながら進んでいく。すると上に戻る階段があったので登っていく。
更に進んでいくと出口と思わしき場所にでれた。外に出ると太陽の光が降り注いでくる。
「とりあえず、このまま進んでみよう」
「そうだね。できるかぎり行ってみよう」
「わかりました。進みましょう」
そのまま進んでいくと、また地下への道があった。地下へと入って進むと今度は地上への道があった。それの繰り返しでだんだんと、大きな大樹へと近付いていくのがわかる。
「こんな感じで進んでいくのかな」
「みたいですね」
「このまま進んでいこうよ」
「よし、頑張ろう」
進むと敵も変化してくる。出てくる敵がウルフとリーダー・ウルフの部隊となって連携してくる。そんな敵を相手をして進んでいると、空から羽音が聞こえてくる。同時に嫌な感じがしてくる。それはまるで脳内に警報が鳴り響くような感じだ。
「敵性反応急速接近っ‼」
「ふぇ?」
「危ないっ!」
アナスタシアを突き飛ばすと、先程までアナスタシアが居た場所を大きな鎌の刃が地面を切り裂く。
「なにこいつ……」
そこに居たのは全長3メートルはあろう巨大なカマキリ型のモンスター。驚くことにそのモンスターのヒットポイントゲージは10個もある。
「お兄様つ!?」「お兄ちゃんっ!?」
もう片方の刃が振り下ろしてくる。ボクは即座に飛びのく。しかし、相手の鎌の方が速く振り下ろされる。ボクは地面に手をつきながら速度を殺して敵を見詰める。すると、頬っぺたに切り傷ができていて、血が流れ出てくる。痛みは苦痛耐性でないので、ダメージを視界にあるヒットポイントゲージを見て確認する。ヒットポイントゲージは6割も削れていた。
「ヒットすらしていないのにこれか……」
「出鱈目ですね……」
「これは無理っぽいよね」
「だね。逃げるしか……無理っぽいけど」
そう言いながら、襲ってきたモンスターを見る。モンスターは前脚が鎌状に変化している。つまり、相手は他の小動物を捕食する肉食性の昆虫で、空を飛んで移動する事もできる蟷螂。自分よりも身体の小さな相手を捕獲して食べていく蟷螂は、その大きさからどう考えても人間すら餌になるだろう。
ヒットポイントゲージの上に表示された蟷螂の名前は密林の死神キリング・マンティス。
「全力で戦闘をするしかないね」
「はい。援護します」
「アナスタシアも、頑張る」
キリング・マンティスの鎌が再び振り下ろされる。鎌にディーナが弾丸を命中させて弾く。そこにボクも拳をあてて弾き飛ばす。このタイミングでアナスタシアの攻撃魔法が飛来して微かに敵のヒットポイントゲージを減らす。
「っ⁉」
しかし、その直後に羽音が聞こえて身体が切り刻まれる。どうやら、羽からウィンドカッターみたいなのが飛んできたようだ。なんとか避けるけれど、連続で斬りかかってくるキリング・マンティスにボクらは防戦一方になる。
「強すぎぃ!」
「くっ、持たない……」
相手の圧倒的な力でまともな戦闘すらできずにただ、ヒットポイントゲージを削られるだけ。
「これは……アナスタシアだけでも逃げてくださいっ!」
「二人で逃げてくれれば……」
「いえ、マスターであるお兄様がやられたらそれで終わりですから」
「そう、だったね。なら、兄と姉として妹だけは逃がそうか」
「ちょっとっ!?」
「いいからってっ!」
連続で振るわれる鎌は何発もの銃撃で弾かれてなお、強力な力を持っている。ボクはそれを竜脈操作を使って力を引き出してなんとか軌道をずらす。しかし、それをする毎にヒットポイントゲージが削られていく。
常に空を飛びながら放たれる鎌の攻撃を防いでも、ウィンドカッターの方はどうしようもない。ディーナの援護射撃があってもこれは勝てない。
「大丈夫っ! これはゲームだから実際には死なないんだし、アナ達も戦うよっ!」
「そうだったっ!」
「だから、大丈夫っ! こっちは気にしないでねっ! ブラッドレインっ!」
アナスタシアが放つ血の雨が相手の飛行を防ぎ、微かなダメージを与えてくれる。そこにディーナがジャミングを放ち、行動を遅らせながら羽に向かって銃弾を放つ。
「空を飛ばれるのは困るから、これでいいかな」
「しかし、不味いですね」
「ブラッドウルフもスケルトンも全然役にたたない!」
どれも呼び出したそばから瞬殺される。ガントリングガンも直ぐに弾薬が尽きて足りなくなる。回復も追い付かずにボクのヒットポイントゲージは残り微かなる。
「お兄様っ‼」
「玲奈っ」
ディーナがボクを突き飛ばして刃を受ける。ディーナのヒットポイントゲージがすぐに減少して、どんどん無くなっていく。ディーナはこちらを見てから、微笑む。
「自爆シークエンス起動」
「ちょっ⁉」
ヒットポイントゲージが残り微かで全てが消える前にディーナが大爆発を起こす。爆発に巻き込まれたキリング・マンティスのヒットポイントゲージは1ゲージの3割が削れて止まる。
「無理無理無理っ!」
「くそぉっ、絶対に許さないっ」
そう思いながらボク達はキリング・マンティスに切り裂かれて一瞬でヒットポイントゲージが無くなり、目の前にキリング・マンティスの口が見える。最後の視界には緑色の身体が光に包まれて真っ赤に染まっていくキリング・マンティスの姿が微かに見えた気がして、視界が暗転した。
※※※
次に目覚めると神殿の中にいて、慌てて二人を探しすために周りを見渡していく。二人は直ぐ横に居てくれて、不安だった心が落ち着いてくる。本当にゲームでよかった。
「負けたね……」
「そうですね」
「あんなの勝てないよー!」
「もっと人数が要るレイドボスとかでしょうか?」
「レイドボス? ボスは強い敵だってわかるけど、そのレイドって何?」
「複数のプレイヤーパーティーが組んで挑むとっても強い強敵のことだよ」
つまり大人数で戦うことが前提に用意されたボスってことか。確かにあれは尋常じゃないほどの強さだよね。というか、多分……ボクが食べられたせいでもっと強化されただろうし。
「強化されたら、リセットはされるのかな?」
「さぁ? されるんだったらメンテナンスの時じゃないかな」
「メンテナンスってあるの?」
「そういえば、アップデートの時くらいしかなかったよ」
「あんまり期待できそうにないね」
「いえ、回線は繋げたままでメンテナンスは毎週行っていますよ。確か、もう少ししたらあるはずです。ですので、リセットされるはずです」
「それならよかった」
「どちらにせよ、再戦するには訓練して実力を上げるしかないですね。後はもう放置して進むかですが……」
放置は嫌だね。アイツにはボクの大切な妹達を傷つけた落とし前はつけてもらわないといけない。それに男の子としても、“もう”逃げたくない。
「とりあえず、戻ろうか。二人は明日、学校だからね」
「あっ」
「宿題もしないとね。やった?」
「わ、忘れてた……」
「そうですね。戻りましょうか」
「うん」
ボク達は一旦、ログアウトしてから食事を取る。二人は勉強で、ボクは余裕があるのでログインすることにした。
※※※
ログインしたボクはまず本屋に向かう。キリング・マンティスのことを聞かないと駄目だから。
「お婆さんっ!」
「おや、あんたかい。どうしたさね」
「あのキリング・マンティスって何っ!」
「おや、アレに会ったのかい。よく無事だったね」
「いや、やられて死に戻りしたよ」
「それは不味いことになったかも知れないね」
「あれはなんなの?」
「あの密林の支配者さね。そんでもって、あの森へ封印されとる奴さ」
封印か。確かにかなり危険みたいだから、当然だよね。
「それで、どうにかできる?」
「私らにはどうにもできないさね。アンタが強くなるしかないねぇ~」
「どうすれば強くなれるの? このままモンスターを倒し続けたらいいの?」
「それ以外となると訓練所に行けばいいさね。そこで戦闘技術を教えてくれるはずだよ」
「訓練所……そんなところがあったんだ」
「まあ、後は人数をそろえるんだね。数は力だからねぇ~」
「わかったよ。じゃあ、訓練所に行ってみる」
「ああ、行っておいで」
訓練所の場所を聞いて外に出る。それから聞いた場所へと急いで向かっていく。すると、目の前の曲がり角から急に少女が飛び出してきてぶつかってしまった。同時に倒れそうになる彼女を抱き留めて回転する。
「メイシア?」
「あ、ユーリさん……ごめんなさい」
「あ、こちらこそ、ごめん」
曲がり角からやって来たのはメイシアだった。彼女は鎧を着ておらず、軽装な姿をしている。取り敢えず、彼女を離して向き合う。
「急いでいたみたいですが、どうしたんですか?」
「うん、負けちゃってね。それで訓練所ってところに行こうかと思って……」
「ああ、あそこですね。丁度、私も行くところです。一緒に行きますか?」
「迷惑じゃなければお願い。道もあんまりわからないし……」
「ええ、構いませんよ。ですが、ユーリが負けるなんてよっぽどですね。凄く堅かったはずですが……」
「それがさ、レイドボスとかいうみたいな奴でね」
「レイドボスですか?」
「あ。ここからは秘密だよ。まだ、相談してないから」
「構いませんよ」
メイシアが同意してくれたので、ボクは起こったことを話していく。
「迷いの森の先にそんなところが……」
「ボクは絶対にあいつを叩き潰す。でも、力が足りないから知り合いに聞いてみたの。そしたら、訓練所のことを教えられてさ」
「そうですね。確かに訓練所ではスキルに頼らない力、プレイヤースキルも教えてくれますね。それに各流派みたいなものも覚えられます。訓練は厳しいですが」
「それは頑張らないとね」
ボクはメイシアと話しながら、案内してもらって訓練所へと向かっていく。
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