第32話 メイシアのリアル
機器を取り外すと、そこにはお母様がおり、手には沢山の見合い写真を持っています。
「愛依、持ってきましたよ。今日こそ、いい加減決めますよ」
この頃毎日のようにお見合いの写真を持ってこられます。そのほとんどが10歳年上の人や、20歳年上の人もいます。同年代の人もいますが、そちらは少ないです。赤ん坊の写真があった時は言葉もありませんでした。
とりあえず、私室にあるソファーに座ってお母様と向かい合います。メイド服を着た親族の幼い女の子が紅茶を入れてくれて、間においてくれます。香りを楽しんでから口に含んで駄目だしをしてから、お話しします。女の子はすぐにメモを取ってでていきました。
「それなんですが、お断りします」
「そんなこと言わないで。早くお母様を安心させてちょうだい。愛依にはお父様がいないのですから、守ってくれる方は大切です」
「それはわかっています」
「いいえ、わかっていないわ。いい、私みたいに結婚を失敗しないようにしないといけないのよ」
私、
離婚された理由は、なんというか愛が重かったのかもしれません。伊吹家の女性は一人の男性に生涯を通して尽くします。幼い頃から英才教育を施され、花嫁修業という名の使用人修行や秘書の修行もします。私も合格をもらったので、今は最低限の習い事だけで自由に遊ばせてもらっています。
というわけでこの尽くすということなのですが、相手の全てを理解して行動を予測、言われる前に物事を片付けます。普通に付き合っている時とか使用人とかの場合ならいいのでしょうが、結婚して妻になると全てを管理されているような気がするそうです。実際にスケジュールや交友関係まで全て把握していますので間違いありません。浮気とか女遊びをすれば一発でバレます。少しくらいならちゃんと連絡して相手を教えておいてくれれば許してあげてもいいと思います。ですが、お母様はそうではなく、お父様が女性と会う時は常に一緒にいないと気に食わないようで何度も喧嘩していたのを覚えています。
私はお父様のことが嫌いじゃありません。綺麗な金色の髪の毛に碧の瞳を持ち、私には優しかったです。色々と習い事以外にも遊びを教えてもらいましたし、一人の男性と複数の女性が楽しく暮らすようなものもみせてもらいました。
一番の理由は私のこの綺麗な金色の髪の毛と碧眼をくれたことです。髪の毛を伸ばして手入れを頑張るとまるでお姫様のようになるので、子供の頃から努力しています。まあ、ユーリには負けますけど。あの綺麗な姿は理想です。
っと、お父様とお母様の話です。お母様に管理されすぎたストレスからか、離婚届けを渡されて家から出ていかれて祖国で一緒に仕事をしていた他の女性と子供を作られたそうです。お母様は束縛しすぎという奴です。伊吹家の御当主であるおばあ様も仕方ないとおっしゃていました。
正式に離婚してから私とお母様は本家の離れに住むことになりました。私はお母様から離されておばあ様に直接教育していただきました。他の親族から私とお母様は爪弾きにされたので、おばあ様だけが味方です。ああ、おばあ様のお気に入りになった私と結婚しようとしてくる従妹はいますけど、お断りしています。
どちらにせよ、お母様は私をどうにかして親族内の権力を取り戻そうとしている感じです。私は一切興味もありませんし、でていこうと思ってるぐらいです。お父様からもお誘いがありますし、最終手段はこちらです。お父様のところには新しくできた腹違いの妹と弟が可愛いので、ポイント高いです。
「愛依! 聞いているのですか!? 最低でも婚約者を……」
長いです。これはもう奥の手です。お母様も私が当主争いに興味がなく、外に出ていくと言ったら諦めると思います。使うのは心苦しいですが、許可も貰ってありますしね。
「お母様、私、好きな殿方ができました。その方とお付き合いをしています」
「え? それは喜ばしいわね。それで、どの方かしら? 社長の方?」
「職業は人形師ですね」
「は? いや、やめなさい。人形師なんて駄目よ! すぐ別れなさい!」
「すでに肌を見せあって私の全てを見られ、触られていますから無理ですよ……」
下着姿を見られたことと、アイちゃんに使われたことを思いだすと顔が真っ赤になってくるので、思わず両手で覆い隠します。
「なんですってっ!!」
お母様が物凄い形相で睨み付けながら叫んできます。でも、全然怖くありません。正直に言ってキリング・マンティスとか、師匠のブリュンヒルデさんの方が怖いです。
お母様が喚いていますが、気にせず送られてきたぬいぐるみを撫でます。ぬいぐるみとフィギュアを送ってきてくれたことで住所は知れましたし、こちらから押しかけて住み込みで働かせてもらえばいいです。ユーリは一人でお店をやっているみたいですし、経理とか大変でしょうから。ディーナ達にも許可をもらえているので問題ありません。拒否されたら諦めてホテルで暮らしてマンションを探したり、すればいいですしね。一人で生きていけるぐらいの家事スキルとお金はあります。
お小遣いを貯めてありますし、1000万もありませんが大丈夫だと思います。こないだ株8000万、為替で200万溶かしたのが痛かったです。検査データの不正が発覚して株価が暴落したんです。そんなの予想できませんよ! せっかく5年で目標の1憶に届きそうだったのに無念です。おばあ様に言ったら、勉強になったね。とか言われました。
「愛依っ!」
「あ、あの……」
「何よ!」
「御当主様が及びです……」
メイド服を着た女の子がびくびくしながら、伝えてくれました。お母様がおばあ様のことを聞いて急いで行きました。
「じゃあ、すぐに参りますと伝えてください」
「かしこまりました」
彼女の頭を撫でてからおばあ様のお屋敷に向かいます。おばあ様が居られる母屋は完全な日本建築です。私達が住んでいるところも外はそうですが、中身は洋風です。お父様と一緒に住んでいた時はそちらだったので、こちらの方が凄しやすいのです。
※※※
おばあ様に呼ばれた場所は大広間で、上段の間にはおばあ様が身体を横にしながらパイプ型の電子煙草を吸っておられます。私達は一つ高さが低い場所で正座します。他にも親族の人達がいました。ご機嫌伺いでしょうか?
3年前にお爺様が亡くなる前からおばあ様が一番の権力を握られているので当然ですね。
「随分と騒いでいたね。何事だい?」
「それは……」
「ここまで聞こえてきたんだ。答えな」
「ひっ!?」
おばあ様がパイプ煙草で香炉を叩くと、お母様が説明しだしていく。私が言ったことがおもですね。
「愛依、アンタ……男ができたのかい?」
「言い方っ」
「どんな言いつくろったって同じじゃないか」
「まあ、そうですけど……」
「んで、事実なんだね?」
「はい。一糸まとわぬ姿をみられています」
「そうかい。なら、そいつに責任を取らせないといけないねぇ~」
「はい。というわけで、結婚を前提に付き合ってきます。おばあ様から教えていただいた手練手管を使って……」
「却下だ阿呆」
「え?」
「アンタの企みなんてわかってるよ」
「あはは、なんのことでしょう……嘘なんてついてないですよ……?」
見られたことは間違いなく事実だから嘘じゃない。でも、絶対にバレてそう。
「嘘なの! お母様を騙したの!」
「いや、嘘じゃないが、一部事実でもないって感じかねえ……」
「なんのことか、愛依はわかりません」
「アンタの外出記録、アタシが知らないとでも? 彩菜が愛依の周りは全て女にしているから、男との接触の機会なんてないはずさね。通っているのも女学院だからねえ~」
「……」
いっぱい汗がでてくる。学校の通学も全て女性の運転手の人で学院の中も男性なんていない。門にはいるけれど、車ごと入るからそちらもないです。
「となると、アタシがくれてやったゲームだろ。当たってるだろ?」
「あはは~」
「げ、ゲーム? それなら大丈夫ですわね。家訓に抵触は……」
「するだろうね。言っただろ、嘘ではないと。愛依がやってるのはリアル基準でアバターが作れるはずさね。大方、名前ぐらいしか変えてないんだろ」
「ひゃうっ!?」
「その反応、正解だね。んで、事故かい、故意かい?」
「りょ、両方?」
ゲームでは下着姿をみられたのは私が引き入れたからだし、故意にあたる。事故といえば事故だけど、それに身体を提供されたこともあれだよね。どっちも微妙な感じです。
「灰色だね。詳しく話してもらおうか」
「あうっ」
それから、ユーリのことをおばあ様に話していく。するとおばあ様が爆笑してフィギュアとぬいぐるみを持ってくるように言われた。持ってくると、おばあ様が何処かに電話していた。
「原因はわかった。対策に関してはどうだい? 流石に倫理コードがあともに動かないのはまずいだろう」
『そちらはそのアバターを使っている人にだけ設定を固定化させていただきます。それ以外に関してはプレイ時に股間を触ることを強制し、防ぎます。ただし、性同一性障害の人もいますので医師の診断書を提出頂いた場合は性別の選択権を与えようと思います』
「んで、こっちに関してはどうなんだい?」
『姫スキルとメイシア様が自ら引き入れたことが理由です。もう一つの案件は自ら顕現の譲渡をなされているので……』
「それでも普通は駄目だろ。そのことぐらいわかるだろ?」
『その、メイシアさんは……自分で倫理コードを解除されておられまして……』
おばあ様がこちらを睨み付けてくるけど、そっぽを向きます。だって、倫理コードを解除した方が戦い安いですし、師匠も痛みを感じた方が強くなれるとおっしゃっていました。倫理コードって五感も制限されますからね。もちろん、師匠との訓練中だけです。
「よ~くわかったよ。全部とは言わないが、ほぼこの馬鹿孫が悪いんだね」
おばあ様が私を指さしてくる。もちろん、私はそっぽを向いたら嫌な人が目に入ったので持ってきたフィギュアを置いて、ぬいぐるみに抱き着いてもふもふします。親族の人やお母様は怒ってますが、おばあ様が電話中なので文句は言われません。それにどうせ出ていくつもりなので気にしなくても大丈夫です。
『いえ、更衣室の兼はこちらに責任があります。死体に関してはそちらに責任がないとはいえません』
「対策は?」
『倫理コードは一括変更と個別変更のみでしたが、細かく設定できるようにアップデート致します。セットの作成と状況に合わせたタイマーの設定。これで戦闘を楽しみたいけど、そういうのは嫌な方に対応できると思われます』
「よろしい。投資はこれまで通りやってやるよ」
『ありがとうございます』
「ああ、それとアタシも今回起きたことを見極めたいから、機器を融通してくれないかい?」
『第二ロットはもうありませんし、第三ロットはまだ時間がかかりますよ』
「投資額を倍に増やす。それで第三ロットを早急に作らせな」
『わかりました。ですが、それならいっそGMやゲストとして運営側から入られませんか?』
「それでいいよ。確か、アタシをモデルにしたNPCを作っただろ。そいつの弟子ってことにして作っておいてくれ」
『かしこまりました。では……あ、いやお待ちください。ひょっとしたら一台だけなら数日で用意できるかもしれません。少々お待ちください』
電話の向こうから悲鳴が聞こえてきた。不思議に思っていると、すぐに戻ってこられたようです。
『お待たせしました。中古になりますが一台、用意できました。データの移行と除去をしなければいけませんが、どうなされますか? もちろん、第三ロットが出来次第新品と交換させていただきます』
「それでいいが、そっちはいいのかい?」
『今回のバグを起こした元凶ですから、罰則の意味も兼ねて少し遊びを禁止するだけです』
「じゃあ、それで頼むよ」
『かしこまりました。
「楽しませてもらうよ」
電話が切られ、家政婦さんが回収していく。おばあ様立ち上がって私のところにくる。
「それがそうかい」
「これが私です。こっちが家族のぬいぐるみです!」
堂々とみせると、おばあ様がいろんな角度からみていく。変なところまで見られています。
「確かにほぼ愛依だね。うん、やっぱりアンタは阿保だろ」
「え~」
「リアルの外見そのままじゃないかい。インタビューとか受けたらばれるじゃないか」
「大丈夫です。メディア露出なんてしませんし。それにリアルを知っているお友達は学院の人だけですしね」
「まあ、いいか。しかし、これ……完全に女じゃないかねぇ?」
「私、男の人って嫌いですし、ユーリならそんな私にピッタリです」
「本当に好きになってるのか、それとも家から出るためか、わからないねぇ~」
「私にもわかりません。でも、大切な人だというのはわかります」
友達、親友ですしね。ユーリもそれは認めてくれています。
「まあいいさね。とりあえず、この件はアタシが預かる。愛依にも相手にも手出しは禁止だよ。それで、前の議題だけど……今回の騒動の原因として愛依にやらせる」
「ふえ?」
「新しく作ったホテルだよ。客を呼び寄せるイベントを盛大に起こすのさ」
「く、詳しく教えてください……」
「親族内で立候補した者達で一階から三階まであるイベントフロアをそれぞれ与える。来た客のアンケートで一番満足された企画の勝ちだ。優勝者にはホテルの権利をプレゼントだ」
「な、なにそれ……」
「アンタ、家からでていくつもりだろ? それだったらホテルを結納品にしてもいいんじゃないかい?」
「え、いらない」
「いらないならお金に変えればいいじゃないか。まあ、勝たなきゃ家から出るのを許すつもりは一切ないけどね」
「そうですね。うん、やるだけやってみますね」
何も思いつかないし、頑張ろう。こんなギスギスした家、さっさと出ていきたいよ。ゲームにしか癒しがない……
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