第46話
「それで、協力してほしいとのことでしたが、内容と報酬はどうなりますか?」
ジルさんに質問される。確かにプレイヤーの皆に協力してもらうには報酬が必要だよね。
「報酬はボクがお店で稼がせてもらったお金を出します。皆さんが買ってくれたお蔭で全部で800万Gの報酬を出すことができますので」
「6人いくらと考えるのなら多いですが、複数パーティーとなると少ないですね」
「それ以外に竜族の魂を手に入れた人には竜魂転生を無料で行い、卵にさせて頂きます。他にもこれは抽選で考えていますけれど、5組までワイバーンとかの知性のない亜竜をテイムするときに協力してもいいと思ってます。ボクのスキルならそれが可能です」
胸元に手を当てながら考えている報酬を説明していく。流石に知性のある竜種達とかを無理矢理従わせるのに協力はできない。知性のない獣や親のいない子供なら別だけどね。野良猫とかと同じように最後まで責任を持ってもらわないといけないけど。
「確かに報酬としては美味しい。その権利を売ってもいいわけだから」
「お願いできますか?」
「もちろん。でも、わざわざ金竜に会いにいかないでも、竜族に協力することを条件にその娘さんを助けることを条件にしたらいいと思う」
「確かにそうですね。ありがとうございます」
なにも邪竜認定を解除させるために金竜に話をつけるよりも、先に条件としてアイを保護した方がボクも不安がない。
「ドラゴンさん達はどうなのかな?」
ドラゴンさん達に関しては口調を戻して強めにでる。立場がこちらの方が上だと認識させるためだ。実際、ボクは交渉のための必要なカードを持っている。
「わ、我等は……」
「どうする?」
「しかし、問題がないとはいえません。邪竜にはかわりないですし……」
「あれ、ボクの身体がメインなんだよ。ボクも邪竜の心臓を持っているんだよ?」
近付いてドラゴンさん達に囁いてあげる。
「なん、だと!?」
「そもそもボクはこの世界に金竜の種族として生まれると同時に邪竜の心臓も宿しているんだ」
「邪竜は来訪者の世界にいたのか……」
「少し違うよ。ボク達はこの世界に渡って来る時に世界に適応した別の身体を作るんだ。その時に種族やスキルをある程度自由に選べるの。ボクはそこで金竜の種族と邪竜の心臓を選んだだけ」
「つまり、この世界の金竜と邪竜だと……」
「そういうことだね。ボク達の世界にはいないしね」
「もしや、その身体を作ったのは幽界と呼ばれる死後の世界ではあるまいか?」
ドラゴンさんの説明を聞くと、思いだすのはキリング・マンティスを倒したときに聞いたアナウンス。あれが確か幽界の解放だったはず。お爺ちゃんやボク達がいたのはチュートリアルフィールドだけど、そこが幽界かはわからない。
「幽界と呼ばれているところはわからないよ」
「その身体の使い方を教わったのは何方か?」
「お爺ちゃん……老師だよ。金竜で100メートルクラスのおっきなドラゴンだった。確か、ここに……」
スクリーンショットを撮ってあるので、そちらを見せてみる。すると、ドラゴンさんは何故かはわからないけれど、すごく驚いたような表情をした。
「こっ、これはもしや……」
「どうしたの?」
「すまない。一度我々は戻って上の者を連れてくる。我々では判断できない」
「うん、わかったよ。でも、早くしてね。ボクは娘を助けるために動くから」
「わかっている。行くぞ」
ドラゴンさん達が咆哮を上げると、彼等の身体が光って龍脈に溶けていくのがわかる。そのまま感じている、ものすごい速さでこの場から離れて別の場所にでていっている。おそらく、転移魔法みたいなものだと思う。
「少しいいか? 報酬について聞きたいんだが……」
「俺も俺も。竜の魂ってこれでいいのか、確認して欲しいんだよ」
「はい、わかりました。えっと――」
ドラゴンさん達が消えたら、すぐに複数のプレイヤーの人がボクを囲んでくる。どうせドラゴンさん達が戻ってくるまでは手が空くのでお話していこうと思う。
「っ!?」
――そう思ってお話しようとすると、嫌な予感がした。予感に従って身体を捻る。でも、周りをプレイヤーの人に囲まれていてまともに動けない。直後、お腹の部分から熱さが伝わってきた。
「え?」
視線を下にやると、左右のお腹にナイフが突き刺さっていた。刺さっているナイフの手を持つ相手を見ようとすると、すでに手をナイフから離していて誰の手かもわからない。そのまま呆然としていると、身体から痛みが走ってきて――。
「なっ!?」
「うぉっ!?」
「ぐっ!?」
――身体が勝手に動いて全身に竜麟を纏いながら、周りを蹴り飛ばしていた。
「なにしやが……え?」
「さっ、刺さってる……?」
「ここ、セーフティーエリア、なはず……」
人が離れたことで混乱していた頭が、冷静になってくる。身体が勝手に動いたのはお爺ちゃんとの訓練の賜物で、ただの条件反射なので放置する。ただまあ、プレイヤーの皆にはたいしたダメージを与えられていないようで嫌になる。
じくじくと痛みだしたお腹に刺さっている2本のナイフを見ながらボクのヒットポイントゲージを確認してみる。ボクのヒットポイントゲージは真っ赤で残り大体1割くらい。つまり、9割も減っている。そりゃそうだ。竜麟を纏ってなければ低レベルのちょっと防御力が高いだけのか弱い身体だ。
「あれ? 金竜の子のヒットポイントゲージが見えてるぞ……」
「9割減ってる……まずいんじゃね?」
「いや、プレイヤーだから復活できるはずだし、大丈夫……」
「待ってください。復活できるのなら、巨人族が狙うのはイベント的におかし……」
周りがなにかを言っているけど、無視して警戒しながら現状の確認を続ける。
セーフティーエリアなのにヒットポイントゲージが減った理由はわからないけれど、そんなのはよくよく考えたら当然だ。金竜争奪戦中の金竜にセーフティーエリアなんて存在しないということなんだろうしね。
それよりもヒットポイントゲージが一向に回復しないことの方が問題だ。すぐにログを確認してみる。
【ログ:奇襲攻撃及び竜族特攻による大ダメージ。
ログ:奇襲攻撃及び竜族特攻による大ダメージ。
ログ:痛覚増加ナイフ2本による継続ダメージ150/秒。
ログ:魔竜の心臓による高速回復中。
ログ:切傷転移発動可能】
おそらくだけれど、回復とダメージが拮抗しているんだろう。でも、次に攻撃されたらやばい。周りをみても、刺した相手は人混みの中に入り込んでいて誰かわからない。
「まあ、とりあえず……」
「とりあえず?」
「抜いちゃえ」
「「「ちょっ!?」」」
両手でナイフを掴んで思いっきり引き抜く。苦痛耐性のおかげで痛く……ない。痛く……痛い。でも、我慢できる程度だから我慢する。だって、男の子だしね。
血がどばーと噴き出して、更にダメージが入ってヒットポイントゲージがなくなっていく。けれど、即死ダメージ無効が発動して1で止まる。そこで切傷転移をしてやる。
「「ぎっ、ガァアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァッッ!?」」
2人の男が倒れて地面をのたうち回る。ボクってほら、痛覚耐性があるから平気だったけど、そうじゃないと痛いもんね。
のたうち回る2人をみていると、顔にどことなく見覚えがある。そういえば確か、スーパーでボクを襲うと言ってた奴等がいた。こいつら、あいつらのアバターか。違うかもしれないけど、こんな風にやられたからにはやり返さないと駄目だよね。
そう考えながら周りをみると、皆が慌てている。いきなり二人の男の人が血を噴出してのたうち回ったら無理ないと思う。ボクでもそうなる。うん、決めた。本当はボクがこいつらを始末したいけど、このまま他の人に任せよう。そうと決まればやることは2つ。1つはスクリーンショットを撮ること。あ、動画でもいいか。もう1つも簡単。
「そ、その人達が……は、犯人です……」
身体を操作して、力が抜けるようにぺたんと地面に倒れるように傷を押さえて座り込みながら告げる。
「う、嘘だっ! こいつらがそんなことをするはずがない!」
「そうだそうだ!」
「誰かに刺されたのか?」
「どうなってる?」
仲間がいるのか。でも、大丈夫。ボクは負けない。周りの人を味方につけられる現状は圧倒的に有利だしね。
「ぼ、ボクは切傷転移というスキルを持っています。このスキルはボク自身に誰かの切傷を移動させるか、受けた人に切傷を返す効果があります。だから、ぼっ、ボクにもう傷がありません……」
血で真っ赤に染まった服の裾を捲ってお腹をみせる。ボクのお腹は綺麗な状態になっている。もっとも、ヒットポイントゲージは減ったままだけど、順調に回復していっている。あくまでも切傷を移動させるスキルなので、継続ダメージ以外は移動しない。基本的には使えるようで使えない微妙なスキル。傷口は回復魔法や回復薬、再生系のスキルですぐに治っちゃうしね。
「確かに傷口はない。すぐにそいつらを囲んで逃がさないようにしてください」
「おっ、おう!」
「さっき庇った奴もだね! でも、私達は攻撃もできないから囲むだけだよ!」
「おい、ふざけんな! なんの証拠があって俺達まで……」
どうやら、仲間を庇うことはやめたようだ。でも、プレイヤー同士だとかわらずにセーフティーエリアの効果で互いに戦闘はできないみたいだ。
「おそらく、セーフティーエリアの効果が無いのは金竜のこの人だけでしょう。いえ、正確には相互に効果がないといった感じでしょうね」
ジルさんがボクの肌を確認してから、服を降ろしてくれる。その上、掌を差し出して温かい光を放つ回復魔法をかけてくれた。ボクのヒットポイントゲージもみるみる回復して、全快になってしまった。本当に実力が違うと感じられる。
「ありがとうございます」
「いえ、こちらの方こそ悪かった。まさか、セーフティーエリアで襲ってくる奴がいるとは思わなかった」
「そんなことはありません。ボクの方こそ……」
差し出してくれた手を握り、立ち上がる。巨人のプレイヤーの人も彼等を抑えてくれているので逃げられる心配もない。後は彼等の姿をしっかりとスクリーンショットで納めておいて、掲示板にあげるだけでいい。もちろん、事の次第を竜族にも報告してね。
「何かあったようですね」
「これは何事だ?」
いつの間にか背後に赤い鱗の先程のドラゴンさんと、メイド服を着た年老いた女性がいた。女性の方は銀色の綺麗な髪の毛をしていて、人族だと思えるような人。でも、体内に竜脈があるのが微かに感じられるので違和感がほぼないけれどドラゴンなのだと思う。
「実は……」
ジルさんが説明していくと、ドラゴンさんから怒気が伝わってくる。口の中から火の粉が漏れ出るくらいで、一気に周りの温度が上がっていく。
「今は抑えておきなさい」
「はっ……」
偉い人のようで、女性の言葉でドラゴンさんが渋々だけど怒気を抑えてくれて気温も戻っていった。
「ですが、このまま何もせずに見逃すのも竜族の沽券に関わります」
綺麗な立ち姿の彼女はそのまま歩いていき、あいつらの額を指さして何かを放った。すると彼等の額に紋章みたいなのが浮かび上がり、すぐに消えていく。
「これでいいでしょう。もう解放して構いません。今はこの者達よりも、こちらです」
そう言って、今度はボクの前に立つ。彼女をみていると、まるでお爺ちゃんのような力強い気配を感じてくる。
「顔をよくみせてもらっていいでしょうか? 目があまりよくないもので」
「は、はい」
「ありがとうございます。それでは失礼いたします」
ボクの顔を両手で挟んで、至近距離から見詰めてくる。なんだか全てを見透かされているように感じる。
「確かに邪竜の心臓を確認できます。ですが、しっかりと封印された状態のようですね。これなら余程のことがない限り問題ないでしょう。いえ、渡り人は死んでも蘇るのでしたね。では、言い直します。あまり死なない限りは問題ないでしょう」
「あっ、あはははは……」
もしかしなくても、死に続けると問題があるってことだよね。素材取りができなくなるってことは痛いけど、仕方ないか。
「その、それで……娘のことなんですが……」
「確認します。その子は金竜の血を引いているのですね?」
「は、はい……ボクの身体と知り合いの人の身体を使っています」
「ハーフですか。いえ、あの人のことですから、ただの人ではないでしょう。わかりました。こちらの条件は指定する試練を突破して一定期間、竜族の王として我等を率いて頂くことです。代わりに娘さんを助けてみせましょう」
「それで構いませんが……ボクは渡り人であり、目的があります。政治のことなんてろくにわかりません」
「構いません。私達が必要としているのは象徴であり、竜族を新たに転生させてくれる存在です。例え、姫様が率いる気がなくても居ていただけるだけで助かります」
「じゃあ、それでお願いします」
「畏まりました」
かなりボクにとって都合のいいことだけど、試練ってなんだろう? まあ、アイのことの方が大切だからどうでもいいね。
「すぐに助けてきますので、姫様は我等が城にお越しください。そこで試練をお受けください」
「すぐに?」
「すぐです。もう時間がございません」
「でも……」
「勘違いしないでください。娘さんは必ず助けますが、それは姫様が試練を突破できたらです。それに姫様さえ無事なら娘さんは何度でも蘇ることができます。問題の邪竜はわたくしめが封印致しますので、憂いはございません」
「本当にできるの?」
「身命にとしてでも必ずや」
「わかりました。それなら、よろしくお願いします。ボクの家族もいるはずなので、協力してくれると思います」
「家族の写真などは……」
女性にスクリーンショットをみせて、メイシアやディーナ達の容姿を確認してもらうこれで大丈夫だと思う。
「確認しました。それでは貴方は姫様を城までお願いします。それ以外の方はお手伝いください。彼方の同胞達もよろしいですか?」
「構いませんが、我等は試練は受け入れられないのですよね?」
「今回の試練は金竜限定です」
「今回のは、ですね。わかりました。我等はこれまで通り協力致します」
「では、まずは探してください。みつかればその後は私が接近する隙を作っていただけるだけで構いません」
「はい。姫様、私達にも見せていただいても?」
「構いませんよ。ホームページにも載せていますから。送りますね」
アイのスクリーンショットを送ってお願いする。それからボクはドラゴンさんと一緒に転移した。
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