第45話
まずは情報を整理しようと思う。やることの第一条件はアイを助け出すこと。第二条件はボクが自由に人形を作れること。第三条件はメイシア達と遊ぶこと。これらの条件さえ達成できればボク達の勝ち。どれも達成できればベストだけど、最低でも第一条件は達成しないといけない。
第一条件を達成するためには邪竜認定されたアイをボク達が確保しないといけない。確保できなければこのままだとワールドエネミーとかいうもの凄く強いモンスターになって世界を壊していくらしい。世界を壊さないために全種族合同で討伐を行うしかないらしく、この場合は確実にアイは死ぬ。それは許容できない。
こんな感じなので、どうにか邪竜認定を解除しないと助け出した今後も襲われ続けるだろう。軽くインターネットで調べた限り、この原初の世界はすでに何度か滅びている。その一つが邪竜エクリプスによる世界中が腐敗させられたとのことなので、危険視されるのも納得だ。
こんな危険な存在なので、邪竜認定を解除させるには竜族のトップになって実権を手に入れる方法が一番早い。その手段としてはボクが話をつけにいかないといけない。
竜族の説得方法は色々とあると思うけれど、手っ取り早いのは金竜として彼等に会ってから生き残っている人のもとまで案内してもらう。それからその人を倒してしまえばいい。これでボクとアイだけが金竜となり、彼等はボク達を害せなくなる。といっても、これは最終手段だ。これをやれば従ってはくれるだろうけど、後々に禍根を残すことになる。
まずは穏便にことをすませるように努力はしないといけない。そのための手段は連絡をくれた人だろうね。
「ボクはちょっと出てくるね」
猫耳フードから熊のきぐるみに変える。戦闘することがあればこっちの方がいいからね。
「どうしたんですか?」
「いや、連絡をくれた竜族の人に協力を願おうかと思ってね」
「名前は?」
「ジルだったかな」
「ドラゴンナイツの人ですね。ここにいるんですか?」
「何度かみたことがあるしね」
仕事の依頼があったし、彼女達の外見データは手に入れている。要注意人物なわけで、警戒はしている。もっとも、あちらもボクのアバターの姿を知っているので、気付いていて泳がせている可能性が高い。実際、お店にも訪ねてきているしね。
おそらくだけど、ドラゴンナイツがボクを放置している理由はそっちの方が利益がでるからだ。ボクがここに居るだけでほとんどのモンスターを誘き寄せられるので、効率的に狩りができる。それにアイのこともあるので、どちらが当たりかなんてわからないのだ。
「じゃあ、ちょっといってくるよ」
「いってらっしゃい」
「アナ達も用意したらいってくるね」
「お願いね」
ボクは一人でドラゴンナイツのテントへと向かう。彼女達のテントはセーフティーエリアの真ん中付近にある。そこにドラゴンとワイバーンの発着場が用意してあり、物流を形成している。
「ふざけるなっ! そんなの俺達には関係ない!」
猫耳フードを被り、手と足に肉球グローブをつけて移動していると、怒声が聞こえてきた。怒声が聞こえてきた方向、向かう先に視線を向けると人垣ができていた。その中心には3メートルはありそうな巨大な人と、更に巨大なドラゴン達がいた。おそらく、巨人の方はプレイヤーだろうね。それでドラゴンの人達ともめているのだろう。気になるし、ボクにとっても丁度いいかもしれないので話を聞いてみよう。
「これは何事ですか?」
ボクは人垣の外側にいるきぐるみの人に話を聞いてみる。お客さんだからボクのことを知っているはずだ。
「あ、店主さん。どうしたんだ?」
「多分予想通りだと思うけど、これは何事なのかなって」
「巨人族のプレイヤー達がここに来て怒りだしたんだ。自分達は竜族に協力しているのにここのセーフティーエリアが使えないのはおかしい! ってね」
「巨人族は竜族と敵対しているんだから、これはおかしくないんじゃないかな?」
「現実としたらおかしくないけど、ゲームとしたら少し問題はあるけど、多種族同士で争ってるし許容範囲だろう。どちらの種族にもメリットとデメリットがあるわけだし。ただ、ここは中立地帯だろ? だからあの巨人はこっちの情勢なんか知るかって怒ってるんだ」
まあ、普通にプレイしている人にとっては困るよね。竜族に味方をしたい巨人族だっているだろうしね。それに今回は中立地帯を竜族が無理矢理押さえている感じなので、悪いのは竜族だ。これもボクのせいだろうね。よし、決めた。
「ありがとう。それじゃあ、行くね」
「行くってどこに?」
「あの中心」
「いや、危ないぞ。今、ドラゴンナイツの人がドラゴン達を止めてるけど、一触即発だ。戦闘が始まったら巻き込まれるぞ」
「心配してくれてありがとう。でも大丈夫だよ。それじゃあ、行ってくるね」
「おっ、おいっ!」
てくてくと前に行きたかったけれど、人がいっぱいいていけない。なのでボクは重力操作を使って自らにかかる重力を軽くして、地面を力強く蹴って飛び上がる。人垣を超えるほど跳躍したボクはそのまま中心部へと回転しながら降り立つ。着地にちゃんと体操選手みたいなことをしておく。
「なんだ?」
「あれ、熊さん?」
「何者だ?」
「あれは……」
巨人の人達とドラゴンナイツの人がプレイヤー側で、その反対側に緑色のドラゴンの人がいる。他にはリザードマンなどもいるけれど、こっちは全部NPCだね。
「獣人が何用だ。邪魔だてするのならば容赦はせぬぞ」
ドラゴンの口から重圧のある言葉が放たれる。彼等からしたら、きぐるみはその種族だと認識されるのかもしれない。そちらは無視してドラゴンナイツ達を見詰める。
「えっと、質問だけどジルさんとイルルさんっていますか?」
「イルルはいないが、ジルは私だ」
青色の長い髪の毛を後ろで一つに纏めた竜族の少女がジルと名乗った。確かに彼女の容姿はメールにあった通りだ。
「ボクのこと、気付いている?」
「もちろんだ。ホームページにあったフィギュアから容姿を調べた。熊の姿はともかく、隠れるつもりなら猫の姿は失敗だった。それにイベント装備を最初に出したのもわかりやすくした」
「なるほど」
やっぱり気付かれてたか。その上で泳がせていたのは経験値と素材のためだね。イベント装備まででてきたら、そっちの方が効率いいだろうし。
「巨人さん達は竜族に協力してくれるんだよね?」
「ああ、そのつもりだ。俺達だって幼い女の子が殺されるのはみたくないしな」
「それに巨人族の内部はかなりやばいからな。失敗どころか、気に入らないからって殺されたり、死なないからって訓練としょうしてサンドバックにされたりするからな」
巨人族はまともな連中じゃないみたい。力こそ全てな感じなのかな?
「なるほど。それじゃあ、このセーフティーエリアは好きに使ってくれていいよ」
「何を言ってるんだ?」
「我等を無視して話を進めるとはいい度胸だな……」
「止めておいた方がいい。その子の機嫌を損ねるのはお勧めできない」
「なぜ獣人に……」
「ボクが金竜だからに決まってるじゃん」
はたしてその実体は! とか遊びを入れたいけれど時間もないのでさっさと話を通す。
「獣人ごときが金竜を語るなどっ、許されると思うなよっ!」
「誰が獣人だといったのやら……まあ、ボクのきぐるみが完璧だったってことだね! それなら仕方ないよね、うん!」
何故か周りの空気が死んだ。おかしいな。ボクは変なことは言っていないのに。
「そのきぐるみ、さっさと脱いだらいいんじゃないだろうか?」
「うん、巨人君の言う通りだね。よっと」
中で腕を抜いてしゃがみ込んだボクはそのまま背中にある入口の鍵を外して外にでる。
「ふぅ~」
汗を流しながら脱ぐふりをする。ボクの姿はなぜか運営が用意した女の子の服になっていた。強制的に装備していない時の服がこれになっている。嫌がらせだと思う。
「「「「おっ、おぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」」」
ボクが姿をみせると、何故か竜族の人達が歓声をあげる。不思議に思って小首をかしげると、ボクの身体からいつも以上に綺麗な金色の粒子が発せられている。それにきぐるみの中から芳醇なとても甘い匂いが漂ってくるので、なにかあるのかもしれない。でも、今は気にしない。
「改めて名乗るね。ボクの名前はユーリ。今回、金竜争奪戦で狙われている存在だよ」
翼を展開し、闘竜技を使って金色の粒子を身体に纏う。活性化したボクの身体は龍脈からどんどん力を吸い上げて支配する。
「ひっ、姫様だ……間違いない……」
「おお、再び金竜が現れるとは……これは始祖様のお導きに違いない……」
崇めだしたリザードマンやドラゴニュートの人までいる。まあ、気にしなくていいや。
「さて、悪いけど今は時間がないから単刀直入に言うよ。ボクを生きている金竜のところに連れていって。最速で」
「もちろんですとも。お任せください」
「うん。じゃあ、任せるから準備して。それでジルさん」
「なにかな?」
「できる限り、全プレイヤーに通達したい。手伝って」
「内容次第だ。」
「わかった。皆、聞いてほしい。今、森で目撃されている邪竜認定をされた女の子。あの子はボクの娘で、このまま戦い続ければ本当にワールドエネミーという邪竜エクリプスとなる。そうしたら世界は滅びるって運営さんがいってた」
「「「「「えっ、ええええええええええええええぇぇぇぇっ!?」」」」」
嘘ではないし、大丈夫。皆に色々と伝えて協力してもらおう。
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