第43話 パパの痕跡を追って



 気が付いたらパパがいなかった。ママはログアウトというので別の世界に戻って居たから、アイはパパのところに居るはずだった。おじいちゃんからパパのことを教えられていたから、伝えることがあったのに。

 それなのに気が付いたら変な空間にいて、目の前には真っ黒な髪の毛をしたアイがいる。


「誰だ、です」

「私はお前だ。そして、お前の大好きなパパでもある」

「何を言っている、です?」


 小首を傾げて不思議なことを言ってきた目の前の偽物を見詰める。


「わからぬのならばそれでいい。それよりも私達のパパが大変なことになっているぞ。向かわなくていいのか?」

「っ!?」


 あいつが目の前にパパ達が使っているいんた~ねっととかいう奴を使って、金竜争奪戦の情報を表示して教えてくれた。


「なんで、使えるんだ、です」

「簡単だ。我は彼とも繋がっている。ならば、彼等の力を使えないはずがないだろう。それよりも、探しにいかねば巨人族やモンスター識別に食べられ、竜族に捕まっても監禁されて転生するための道具にされるだろう」

「馬鹿か? パパ達が捕まるはずねーだろ」

「変な敬語が抜けているぞ。まあ、ログアウトすればいいが、そうすればパパは二度とこなくなるぞ。何せ、パパの目的が達成できないのだからな」


 パパ達がいなくなる? それは駄目だ。絶対に嫌。ここで一人になるなんて、怖い。

 考えていると、身体がどんどん寒くなってくる。すると偽物が抱きしめてきた。


「ならばやることは簡単だ。敵は全て排除し、パパの邪魔をする連中を皆殺しにすればいい。そうすればパパ達に感謝され、褒められる」

「褒め、られる……でも……」

「大丈夫だ。私が力を貸してやる。お前は何も気にする必要はなく、望むままに力を振るっていくといい。私達にとってなによりも優先するのはパパのことだろう? それこそが私が転生し、私が生まれた理由なのだから」


 偽物の言葉が頭の中にすんなりと入り込んでくる。確かにアイは、パパのそばで仕えるために生まれてきたのだから、パパのことがなによりも優先される。


「助けに、いかなきゃ……」

「ならば力をくれてやる。だから私を受け入れるがいい」

「やだ」

「なら勝手にするがいい」

「力だけ寄越す」

「いいだろう」


 あっさりと納得しやがった。これは何か裏がありそうでやがる。どちらにせよ、アイのことなんて二の次でいい。



 ※※※



 偽物に転移させられたのか、気が付いたら迷いの密林にいた。すぐにアイは移動し、パパの匂いと気配がする方に移動していく。

 そこですぐにいっぱいのモンスターに襲撃を受けた。不思議に思っていたけれど、これは当然だった。アイの身体は女性としての一部を除いて全て、パパの身体……同じ金竜の幼姫で構成されている。こいつらにとってパパと同じアイも美味しい獲物に代わりない。

 今まではパパやママ達に守ってもらっていたけれど、今は一人だから頑張らないといけない。だから、こんなところで負けてやれない――――



 ――死んだ。オークの集団に襲われて食べられた。でも、すぐに復活する。最初に移動していた場所から、またスタートして目指す。偽物はもっと力をくれてやるって言われたけど、嫌な予感がするからやめる。


 ――また死んだ。今度は熊の親子に殺された。なんだか母親と息子達のアーマードベアとかいうのにボコボコにされて食べられた。偽物は力をやるからさっさと倒せといってくる。


 ――またまたやられた。今度はリザードンと来訪者の連中。こいつらは私を保護するとか言ってきたけど、無視してパパを探しに向かった。そしたら襲い掛かってきたので戦闘になった。半分くらい皆殺しにしたら殺された。むかつく、むかつく! あいつら、絶対に許さない。


 ――37回目。どう頑張っても勝てない。勝てない。勝てない。倒しても倒してもどんどん集まってくる。一人じゃ無理。集団を相手していると、背後から集団で襲われる。力が欲しい。


 ――38回目。パパの匂いを感じる場所にもうすぐ到着しようという時、またオークの集団や大ムカデ、アーマードベアなど沢山のモンスター達が集まってきた。後ちょっとなのに勝てる気がしない。それに武器の耐久力がなくなって壊れた。

 武器が壊れたところにモンスターが殺到してくる。蛇がアイの腕を食い千切り、猪に身体を吹き飛ばされる。地面に着地すると同時にバウンドして身体が止まると大きな狐が口を開けて食べようとしてきた。


『いい加減、力を受け取る気になった?』


 今やることはパパのもとへと向かうこと。なら、使える物は使わないといけない。


「全部、寄越せ、です」

『ああ、いいよ。私の力はアイのものだから使える力をあげよう。まずは死なないように不滅の力と腐敗の力を与えよう』

「あっ、あああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁっ!?」


 傷口から黒い毒の霧が溢れ出して、まずは狐を溶かしていく。溶けたドロドロの黒いものがアイの身体にかかってくる。その黒い泥が新しい腕になっていく。

 すぐに起き上がって武器を呼び出す。武器は襲ってきた奴の身体を使って再構築した黒い鎌を二つ。そのタイミングで飛び上がって上から襲ってくるオーク達。微かに違う速度で襲い掛かってくるので、傷を気にせずに竜麟で防ぐ。防げる微かな時間で作った隙をついて近付いて回転して数体を浅く斬り裂いていく。

 小さな傷が微かにつくと、そこから全身に腐敗の毒が広がる。生きながら腐らされていく奴等は雄叫びをあげながらのたうち回る。

 そいつらを無視して駆け抜けざまに傷を与えていく。どんな小さな傷でも与えればそれが死につながるみたい。だったら、浅い傷をつけるだけでいい。

 途中から両手の鎌で首をはじめとした急所を攻撃するようにしていく。なんだか断末魔をあげて死んでいくと、とても楽しい。アイも殺されるけれどその度にその場で復活して再生し、さらに強くなる。


「ミツケタ、ミツケタ、ミツケタゾッ、金竜ゥウウウウウウウウウウウッ!!」

「っ!?」


 振り向くと、密林を破壊しながら進んでくる巨人族のトロール達。どんどん集まってくるけれど、笑うのが止まらない。殺したら殺した分だけ力が増えていくから。


『殺し、殺され、恨み、妬み、未練、憎悪など負の感情が私達の力となる』

「言われなくても、邪魔者やパパとママの敵は全て滅ぼしてやるぞ、です」


 巨大なトロールを殺し、殺される。馬鹿みたいな数でやってきた奴等を殺したり、殺されたりしていた。すると変な視線を感じる。空と地上から変な視線を感じて、そちらを向くと追加がいた。

 とりあえず、そいつらはこちらに襲い掛かってくるつもりがないみたいだし、放置する。トロールを滅ぼすと、集団のリーダーであろうサイクロプスに強襲を受けてまた死んだ。今度はこちらも数を頼りに頑張っていく。

 サイクロプスを私の分身みたないなみんなで押し倒し、殺していく。それが終わったら、7人の奴だ。すぐに接近して全員の背後を取り、鎌を首に添える。


「待て、俺達は戦うつもりはない!」

「そう、私達は保護しにきたの」

「やっぱり、こいつら……」


 殺そうかと思ったけれど、こいつらからはパパの匂いがした。ここは始末せずに聞いた方がいい。


「お前達、数日前にぱ……誰かにあったはずだ、です?」

「数日前だと、熊さんかな?」

「熊さん?」

「熊のきぐるみを着た奴だ」

「身長は?」

「えっと、君より少し上ぐらいかな」


 きぐるみと身長。きぐるみは人形だから、パパの可能性が高い。これは当たり。


「その人、どこに行った?」

「セーフティーエリアのキャンプ地にいってます」

「俺達が連れていってやるよ。だから、一緒にこないか?」

「わかった。ついていってやるから、案内しやがれ、です」

「あ、あぁ……」


 鎌を仕舞って彼等と一緒に向かうことにする。これでやっとパパに会える。そう思っていたけれど、今度は空かドラゴンが降ってきた。6メートルはあるくらいで、若いドラゴンだ。


「金竜を発見したとの報告を受けてきたが……」

「この子です」

「むっ、こやつは竜族ではあるが、金竜ではない」

「でも、金色の粒子を放つ竜麟を使っていましたよ?」

「ううむ……っ!? いや、まさか……」

「どうしたの?」

「な、何故復活しているっ!」


 降りてきた別の巨大な年老いたドラゴンがアイを見て声を荒げる。不思議に思って小首をかしげていると、咆哮をあげた。


「貴様は我等が打ち滅ぼしたはずだっ!」

「なにが……?」

「全員っ、戦闘準備っ! こやつは邪竜だっ! ましてや金竜の粒子を使っていたとなると、喰らった可能性もある!」


 空と地上のドラゴン達がブレスの準備をしていく。アイも戦闘準備を開始する。むざむざやられるつもりはない。即座に動いて目の前のドラゴンの鱗に覆われていない瞳に突き刺す。


「ウテェエエエエエエエエエエエエエェェェェェッ!!!」


 無数のドラゴンブレスがアイを地上ごと破壊して消滅させる。次の瞬間にはアイは死んで最初のところに戻っていた。やっぱり、竜族も敵だな、です。でも、パパの居場所がわかったから、後は邪魔者を狩って向かえばいいだけだ、です。



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