第16話 竜族のお爺ちゃん
小屋の前に座っている人は金色の長い髪の毛と髭を持つ仙人のようなお爺ちゃんだった。お爺ちゃんはこちらを見るなり、顔を
「ブリュンヒルデちゃんや、まさかその子は儂の孫かね?」
「孫か子孫かどうかはわかりませんが、金竜ですよ」
「それは
「まあ、アースより訪れた来訪者の方なので、正確には違うかも知れませんよ」
アースってのは地球のことを言っているんだろうね。確か、オリジンの世界は別の世界って設定だったはず。
「よいよい」
嬉しそうにしながら近付いてきたお爺ちゃんがボクの頭を撫でてくる。不思議と嫌な感じはしない。
「こちらの方はユーリと同じ金竜で、名前は……」
「良い。ただの隠居じゃ。老師とでも呼ぶがよい」
「だそうです」
「「よろしくお願いします」」
老師と紹介されたお爺ちゃんにボクとメイシアが挨拶をする。
「仲が良いの。姉妹か何かかの?」
「いえ、違います」
「ボクは男ですし」
「なんとっ⁉ こんなにめんこいのにのう……」
めんこいって確か、北海道や東北地方で使われる方言で可愛いという意味だったよね。散々言われているし、嫌だけど認めるしかない。
「本当にそうですよね。ずるいです」
「いっ、痛いよっ、メイシアっ⁉」
「ぷにぷにです」
頬っぺたをむにむにされてしまう。下着姿を見たこともあるので、逆らわずにされるがままになっておく。
「さて、もうよいかの?」
「あっ、すいません」
「どっ、どうぞ」
頬っぺたを撫でながら話しを聞いていく。
「ここに来たということは稽古をつけるということでいいんじゃろうか?」
「はい。強くなりたいです」
「ふむふむ。竜族としての基礎は最低限できておるようじゃし……三つのコースを用意しようかの」
お爺ちゃんはボクの身体を触って確かめてきた。絵柄的には結構まずい状況かもしれない。
「三つですか」
「うむ。一つ目は超簡単なお手軽初心者用コース、二つ目は中級者用の本格鍛錬コース、三つ目は上級者用の徹底的に鍛える修練コースじゃな。期間は初心者用が一日から七日、中級者用が一ヶ月から三ヵ月、上級者用が一年からじゃな」
時間はそんなにないから初心者用か中級者用くらいかな。でも、やるなら徹底的にやりたいけれど……
「悩んでおるようじゃな」
「あ、多分ですけどユーリは現実、アースでの時間を気にしているのではないですか?」
「うん。時間の制限が無ければ全部って言いたいんだけど……」
「ほっほっほっ、それなら問題ないわい。時間の操作もここならば容易いでな。そちらの世界での時間で100倍くらいまでならいけるわい」
「それってすごくない⁉」
「この街アクアリードは時と空間の狭間にあるため、時間軸があやふやなのです。その中でも特別な修練所ですから、これぐらいは可能です」
お爺ちゃんの説明にブリュンヒルデさんが追加で説明してくれる。しかし、まるで七つの玉を集めて龍を召喚する漫画に出てくる、精神と時の部屋みたいだ。
「って、もしかして進んでオリジンの世界にいったら、こちらにくる手段ってあんまりない?」
「ええ、特別な試練を超えるとこれるくらいですね」
「後は特殊アイテムを使うぐらいじゃな」
「それとこの訓練所では体力も魔力もクールタイムも直ぐに回復しますので、スキル上げには丁度いいんですよ」
「それは凄いね」
こうなると後々有効なのは上級者用まで終わらせてしまうことだね。一週間くらいなら仕事も空けられるし。向こうでするのは食事くらいか。
「じゃあ、全部……」
いや、待てよ。ボクは金竜で、お爺ちゃんも金竜。隠居とか言っていたけれど、ボク達金竜は宝の山なわけでずっと襲われるのだ。つまり倒されずに生き残ったってことだし、色々な技術を持ってそうだよね。
「お爺ちゃんの全部を叩き込んで欲しいかな」
「ほほう、一子相伝を希望するか。良かろう。ただし、厳しいぞ」
「お手柔らかに……」
「うむ、無理じゃな。して、ブリュンヒルデちゃんよ。そっちはどうするかね?」
「決まっています。弟子の育成で負けるつもりはありません」
「えっ⁉ それってつまり……」
「行きますよメイシア。何時もの900倍は厳しくします」
「いやぁぁぁぁっ‼」
メイシアがブリュンヒルデさんに引きずられていく。残されたボクはお爺ちゃんの方を見る。
「うむ。先ずは生活はここでしてもらうとしてじゃが……直ぐに修行を開始するかの?」
「時々戻る事はできますか?」
「むろんじゃよ。一部の鍛錬を除いて中断は可能じゃ」
「じゃあ、今からお願いします」
「うむ。では先ずは全力でかかってくるがよい」
「はい!」
全身に竜脈の力を行き渡らせ、人形操作でリミッターを解除する。それから、足の裏を走り出すと同時に爆発させて加速しながら拳を放つ。
「ふむ」
お爺ちゃんは驚いたことに人差し指一つでボクの全力の拳を防いでしまった。そう、物理破壊者を持つボクの拳をだ。
「てんでなっておらんの」
「あうっ」
頭を軽く叩かれて、頭を押さえる。
「これが直径の孫じゃったら両親をボコボコにするくらいじゃの」
「そんなにっ⁉」
「うむ。まず体内にある竜脈の流れが悪いの。淀みがありすぎるのじゃ。竜脈に塊ができておるし、身体の外に力を出すのに無理矢理突き破っておる感じじゃの。無駄に力を使っておる。これじゃあ、精々一割以下の力じゃな」
つまり、栓を強引に抉じ開けて力を引き出しているから、力に変換する効率が落ちてるってことだよね。
「まずは体内の掃除じゃな。方法は二つある。ゆっくりと解して安全に行う方法と強引に抉じ開ける方法じゃ。前者は安全で時間が掛かるが、後者は危険で死ぬ場合もあるがすぐにできるぞ」
「じゃあ、後者で」
「本当によいのか?」
「だって、死んでも蘇るから」
「……アースよりの来訪者ならそうじゃな。ふむ。これはもっと跳ね上げられるかの」
「お、お手柔らかに……」
「心持ち、お手柔らかにしてやるわい。では、ゆくぞ」
「っ⁉」
お爺ちゃんが人差し指でボクの身体を貫いていく。その位置が竜脈の塊みたいなところの位置で、体内をかき回されるかのような感触がしてその場所が弾け飛んだ。痛みは耐性と本来のシステムで削減されるので少し痛いくらいだ。
「どうじゃ?」
「痛いけど、大丈夫」
「男ならば我慢せねばならぬ」
「うん」
「良い子じゃ。しかし、回復速度が異常なくらい速いの」
弾け飛んだ部分はもう修復が始まっていた。良く見ると傷口は少し黒くなっている。いや、これは黒い光がまとわりついているのかな?
「お主、なにか変な物を持っておらぬか? 我等竜族に関連するもので」
「あ、魔竜の心臓を持っていますよ」
「魔竜じゃと?」
「駄目ですか?」
「いや、そういうこともあり得るか。魔竜は邪悪な竜や狂って堕ちた竜達のことをさすのじゃ。おぬしの心臓はそんな奴の物じゃな」
「なんか、凄そうだね」
「うむ。回復力が尋常じゃないんじゃよ。じゃが、それにしてもお主、ユーリのは尋常じゃない。これはもしや、奴の心臓かもしれんの」
「知ってるの?」
「今は言わないでおこうかの。それよりも続きじゃ」
教えてくれないみたいだ。でも、問題はないかな。
「お願いします、老師」
「うむ」
お爺ちゃんはすぐに竜脈を解放してくれた。その度に身体が壊れたけれど再生していくので問題ない。
「竜脈の解放はこれでいいじゃろう。後は体内で常に循環させるのじゃ。やり方はイメージすればよい。血が身体の中を巡るイメージでいけるはずじゃ」
「はい!」
言われた通り、血流に合わせて全身から心臓に戻ってくる感じでイメージする。直ぐに竜脈の中をエネルギーが駆け巡っているので、どんどん加速させていく。
なんとなくだけど、加速させながら流れるエネルギーの量を増やしてていくと、少しずつ拡張されていっている気がする。なので、全身にあったエネルギーを一カ所に集めてそれを高速で動かしていく。
「どうやら問題はないようじゃな。それが基礎の鍛錬じゃ。竜脈の経路を拡張していけば扱える力も増えてくるのじゃ。経路は通るエネルギー次第でどんどん拡張されてゆくからな」
「じゃあ、こんな感じかな」
今度は螺旋状に高速回転するドリルのようなイメージで経路を拡張していく。すると、目や鼻などから血が出てきてすぐに止まった。
「やれやれ、無茶をしよるの」
「苦痛耐性もあるから痛くないし、大丈夫だよ」
「それはそれで問題なのじゃが……痛みとは身体の防衛本能でもあるのじゃから……」
「大丈夫。それよりもっと一気に拡張したいんだけど、無理かな?」
「できるぞ。儂の力を流せばよいのじゃ」
「じゃあ、お願いします」
「孫の頼みじゃ、良かろう。本来なら絶対にせぬし、お主も来訪者ではない竜族にやるでないぞ。死ぬからの」
「うん」
「では、やるぞ」
「はい」
膨大なエネルギーが一気に流れ込んできて、ボクの身体は弾け飛んだ。次の瞬間、神殿の噴水に居た。経路はかなり拡張されているので、急いで戻る。
「お爺ちゃん、もう一回!」
「心臓に悪いのぉ」
「お願い」
「仕方ないの」
経路を無理矢理拡張して死んでは戻り、経路を拡張する。これを繰り返すことで、竜脈操作のレベルが4日で6まで上がった。同時に魔竜の心臓も4まで上がってくれた。
※※※
本日は修練着っぽい白い和服を着て滝の下にある石に座り、座禅を組みながら水に打たれていく。これは自然を感じ、自然のエネルギーを体内に取り込むためとのことだ。自然のエネルギーは龍脈といい、ボク達竜族の中に流れているものと同じ物らしい。で、ボク達もまたそれを自由に扱えるとのことだ。
そもそも、竜族は自然エネルギーの塊から生まれた星の力そのものみたいだ。それが世代を繋ぐことで固定化されて変質し、竜脈となったようだ。つまり、竜脈とは龍脈の一部であり、同質のものといえる。もちろん、個となったせいで龍脈の方が力が強い。けれども二つの力を掛け合わせることで足し算ではなく掛け算となって力が増えていく。
ちなみに竜族が精霊魔法を使えないのは、精霊の力を取り込んでしまうかららしい。同じ自然の力を使っても精霊魔法は竜族に食べられてしまうので、精霊自体が竜族に近付かないらしい。ぶっちゃけると精霊にとって竜族は天敵なのだ。
「雑念はいかんぞ」
「ごめんなさい」
「あちらを見なさい」
「見たくないです。後で怒られるし、それにもっと雑念がわきそう」
「ほっほっほっ、若いのう」
お爺ちゃんが指さした方にはメイシアがいて、彼女も滝に打たれている。この現状でわかると思うけれど、水で服が透けているのだ。故に見るのはまずい。
「しかし、ユーリにはメイドを用意せねばならぬな」
「メイド?」
「うむ。竜族の王族たる者、身の回りの世話をする従者がおらねばならぬ」
「それなら、一応いるよ?」
ディーナがマスター登録しているのでそれに当たると思う。もっとも、妹だから従者とは違うけれど。
「しかし、竜族であるまい」
「うん。機人種だね」
「では駄目じゃな」
「というか、メイドなの?」
「うむ。異性を教えるという意味でも、ユーリが男ならば女じゃな」
「ちょっ、それってっ!」
「むろん、そっちもじゃ。竜族の王族たる者がハニートラップなどに引っかかるなどあってはならんからの。特に金竜は他の竜族に対して絶対命令権のようなものがあるからの。簡単に街を滅ぼせてしまうわい。そうなると戦争待ったなしじゃ」
「それはそうだろうけども……」
「ちなみに同じ竜族の理由は簡単じゃ。子供ができたら、それはそれで美味しいからじゃ。生まれてくる子供はすくないからの」
「それは……」
「安心せい。儂がとびっきりの娘をつけてやるわい」
「じゃあ、せめて希望を言っていい?」
「うむ。何人か候補から選ばせるつもりじゃしな」
「えっと、年齢と身長はボクくらいで」
「おや、どうしてじゃ?」
「大きい大人は嫌いだから」
同じ男性だけじゃなくて、女性にも虐められたことがある。着せ替え人形にされるだけじゃなく、性的に襲われたこともあるから両親とか親族以外は怖い。メイシアくらいの身長なら大丈夫だけど。
「良かろう。そうなるとかなり絞らねばな……少し問題があるかも知れんが……」
「一度会って話せるならそれでいいよ」
「ふむ。いっそ、作るか」
「え?」
「竜族の肉体の一部と素体になる者を用意すればよいのでな」
「どういうことですか?」
「使い魔や眷属とはまた違うのじゃが、自身の半身を作り出すことができる技法があるのじゃよ」
「それだったら、竜族を増やせませんか?」
「それが必要なのは大量の竜族の素材じゃ。それも高位のな」
「じゃあ、無理なんじゃ……」
「お主、修行で何回死んだかの? 素材がたっぷりと溜まっておるわ」
「わーお」
「お主の好みの外見の娘を作れば文句はないじゃろう」
「それはもちろん。って、外見だけ?」
「精神はしらぬ。それはできてからのお楽しみじゃの」
「ボクの半身かぁ……」
少し楽しみかも。でも、今はしっかりと修行をしないとね。取り敢えず、滝に打たれた後は格闘戦の型をそれぞれ千回ずつ行う。その次に流れるように組み合わせて一万回繰り返していく。
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