第38話 森のくまりゅうさん2


祖父の入院で送れました。一応、感想などに近況ノートに作ってあります。

https://kakuyomu.jp/users/228177/news/1177354054887594964




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 熊さんのきぐるみこと、くまりゅうさんが完成した。縫い目は下半身を上半身の上に入れることで外からはわかりずらいように内側で縫い、かつ大きい熊さんをちっ、小さなボクが着れるように調整した。

 自分が小さいなんて認めたくはないけれど、仕方がない。どうしようもない現実だしね。

 さて、両足と両手を入れて金属操作でしっかりと一体化させる。これで外れることはないし、人形操作で自由に操作できる。熊さんの両手両足の指までしっかりと操れる。作った洞から出て軽く動かしてみる。

 自力で動かすと違和感ばりばりでちゃんと動けないし、凄く重く感じる。でも、人形操作で動かすととても素直に動いてくれるので確認もかねてシャドーボクシングみたいに身体を動かしていく。

 イメージ戦闘を行うけれど敗北する。相手はキリング・マンティスだし、闘竜技は使えない。闘竜技なんて使ったらすぐにボクが竜族だとぼれてしまうかもしれない。だから、普通に一人に人形師として戦う。すくなくともキリング・マンティスや蛇、ムカデクラス以外はまともに戦えるしね。それだけ熊さんのきぐるみは使える。


 アーマーベアのきぐるみ 評価はD

 攻撃力151 防御力78 耐久力80/80


 金竜の素材を使わずに作ったので、ステータスとしてはかなり低い。といっても、これは納得できる。なにせこのきぐるみは人形としては下の下だから。下処理もちゃんとできてないから臭いし、こんなの皮を繋ぎ合わせただけの簡易な物に近い。プロとしては落第点だ。売り物になりもしない。システムの評価も納得できない。これはもっと下のランクだと思う。

 ああ、作り直したい。作成練度も試行回数も全然足りない。それに制作工具がない。でも、これ以上クオリティーを上げることはできない。

 ボクが居る場所にもすでにモンスターが集まってきているからだ。本当に嫌になってくる。特に虫! あいつら、大っ嫌い! 燃やし尽くしてやりたいけど、ドライアドちゃんのことがあるしこれ以上森の破壊は駄目。

 そんなわけで虫は排除しながら移動する。そういえば期間も聞いてないし、どこまでいけばいいのかもわからない。つまり、あてのない逃避行というわけだね。まあ、サポート役のドライアドちゃんに聞けばいいんだろうけど、そうもいかない。嫌われているし。こんなことを考えていると本格的に嫌な予感がしてきた。


「よし、行こうか!」


 寝床から出て嫌な予感がした方向から反対に逃げる。逃げていると、後ろから無数の忌々しい羽音が聞こえてくる。振り返ると空に浮かぶ無数の黒と黄色の空飛ぶ物体。彼等は尻尾の部分から針を発射してくる。その針が木に深々と突き刺さると、木は紫色に変色していく。リアルで人はそれをスズメバチと呼ぶ。


「無理っ、無理無理無理無理っ!」


 無数の針が弾幕のように放たれてくるので回避なんて無理。顔の横を飛んでいったり、身体に何本か刺さってしまう。そのまま気にせずに必死に逃げる。必死に逃げたせいか、道を確認できずに地面があると思って踏み抜いたら、足場がなくてそのままゴロゴロと坂を転がっていく。

 ゴロゴロと転がって、頭を岩にぶつけちゃうけど頭には骨を配置させていたので大丈夫。それにこれぐらいならおじいちゃんの特訓の時になんどもあるしね。ボクがなによりもしてはいけないことは意思を失う事。それさえなければ身体が大怪我をしていようが操れる。

 そんなわけで、横に転がって起き上がったボクの横に沢山の針が突き刺さる。起き上がると同時に腕を振るって風属性魔法、刃の風ウィンドエッジを放つ。

 刃の風は毒張りを吹き飛ばしてその先にいる奴等の一部を斬り倒すけれど、すぐに数が集まってくる。


「がっ、がおぉーっ?」


 試しに威嚇の声をだしてポーズをしてみると、スズメバチ達は飛び回って逃げていった。不思議に思っていると、またすぐに戻ってくる。今度も威嚇して散らしてすぐに逃げる。


 必死に山の中を逃げているといろんなモンスターが襲ってくる。それらの攻撃を避けながら、適度に応戦しつつ逃走する。

 本当に思うのだけれど、この金竜で逃げることの辛さを思い知らされる。ボクにとってセーフティーエリアを抜け出すと、そこは全てのモンスターを呼び出すアラートが常時かかっているようなもの。つまり、少し留まるだけでモンスターハウスが出来上がってしまう。

 こんなのまともにプレイできる環境じゃないと思うんですよね。まあ、ボクの目的はあくまでも生きた人形を作ることだから気にしないけどね。


「あっ」


 急な斜面を駆け降りるように走っていると、真横から大きな狐が大口を開けて舌から唾液を垂らしながら現れる。ボクを噛みつこうとしてくる。それを後ろに倒れるように蹴り上げて横から蹴り飛ばす。

 そのまま戦おうとしたけれど、すぐ背後からスズメバチがやってきているのに気付いたので急いで逃げる。

 道は色々とあるけれど、良い感じがする崖から飛び降りるという選択をする。

 身体を宙に躍らせると、すごい勢いで地面が近付いてくる。重力操作で勢いを殺しつつ木々の隙間から顔をクロスさせて防ぐ。


「なっ、なんだ!?」

「落ちて来た?」

「く、熊だっ! 戦闘準備!」


 ゴロゴロと転がって体勢を整える。周りをみるとそこにはプレイヤーの強そうな来訪者が7人もいた。これはやばい感じがする。でも、直感として微妙な感じ。

 とりあず、相手がやる気なのでこちらも頭を振ってから両手を上げて考える。いや、考える以前の問題だよね。


「逃げて」

「え? 喋った?」

「シャベッターッ!」

「もしかして、プレイヤー?」

「そうだよ。これはきぐるみだからね。くま―」

「くまー!」

「くまー」


 ノリがいいのか、合わせてくれる。これならなんとかなると思う。なんせボクのステータスは全てロックされているしね。


「っと、それよりも皆さん。逃げてください。敵がきます」

「敵?」

「あ、皆空を見て」


 空には無数のスズメバチが空を覆いつくすように無数に存在している。


「襲われていたのか?」

「うん。だから必死に逃げてたんだよ」

「奴等は仲間を呼ぶ。こうなることは滅諦にないんだが……」

「MPKとかしたくないから逃げてよ」

「ねえ、クマさん。協力しましょうか」

「わかった。でもボクはソロだからパーティーは組めないけど、いい?魔法使いの」

「いいわよね?」

「ああ、問題ない」


 それから立ち位置を確認していく。ボクは当然、魔法使いとして活動する。だって、前衛だとこのきぐるみが壊されたら困るからね。


「子クマさん、魔法使いなんだよね?」

「うん、魔法使いだよ」

「両手両足は金属装甲なのに後衛って……」

「大丈夫」


 リアル熊のぬいぐるみで、腕を振って刃の風を放つ。凶悪な爪の先から放たれる。刃の風は無数のスズメバチの羽や身体を切り裂いていく。


「それだけしか使えないのか?」

「まだレベル低くて無理だよ。だからこそ、ソロでもあるのだから」

「なるほど……わかった。防衛を中心に行う。遠距離ができる奴はどんどん叩き潰せ!」

「「「了解!」」」


 7人の内一人が杖を空に向けて詠唱を開始する。詠唱の時間をボクと弓兵の人と一緒に叩き落す。叩き落した奴は前衛の人達が滅ぼしていく。

 範囲が空に指定された炎の嵐が敵を焼き尽くす。広範囲殲滅が可能な魔法ってすごいよね。ボクには無理だ。

 見惚れていると、炎に身体を焼きながらもスズメバチが突撃してくる。連中の狙いはボクのようで襲ってくるけれど、盾役の人が前に立ってしっかりと守ってくれる。


「ありがとう」

「問題ない」

「じゃんじゃん狩ろう~!」


 しっかりと守られているので、気にせず豊富なMPを使って魔法を連打していく。他にもモンスターがやってくる。狼や狐、熊などなど、多種多様な存在がやってくる。


「なんだこれ、なんだこれ!」

「こんなの今までなかったよ」

「多分、イベントのせいだよ。ボクも駄目元で参加しているんだよ」


 何かを言われる前に自分から伝えることで疑われることをそらす。それに嘘はついていない。


「クマちゃんも金竜を探してるんだね~」

「報酬が欲しいからね。でも、ボクじゃ無理みたい。お兄さん達はどうなの?」

「俺達はもちろん参加しているぜ!」

「金竜の幼姫ちゃんを探し出して助けてあげないとな」

「ああ、そうだな。巨人に捕まると色々とやばそうだしな」


 ありがとう。そして、ごめんなさい。本人、すぐ横にいます。でも、これはゲームなんだよね。だから目指すのは基本的に優勝だよ。


「そういえば金竜のお姫様はモンスターに狙われてるんだよな。だったら、これって……」

「ああ、もしかしてボクが目撃したがそうなのかもしれないよ?」

「うそ!」

「どこでみた!」

「あっちのモンスター達がやってきた方角だよ。ボク、その子をみつけて声をかけようとしたんだけど、逃げられちゃって……その後、寄って来てたモンスターに見付かってまた追われて……」


 こちらも嘘は言っていない。確かに目撃した。小さな女の子であるドライアドちゃんをみたしね。逃げられたのも事実だし、モンスターに追われたのも事実。何一つ嘘はついていない。


「なるほど」

「じゃあ、こっちか」

「クマさんはどうするの?」

「ボクは街に戻ろうと思ってるんだ。でも、道がわからなくなってて……」

「それなら、アースリードが近いな。あっちの方角だ」

「ありがとう。それじゃあね」

「またー」


 7人のプレイヤーさん達と笑顔で手を振り合って別れ、ボクは急いで逃げる。このきぐるみはプレイヤーから逃げるための手段だけど、有効だということが実証された。

 教えられた通りに進んでいると、大きな川が見えてくる。その大きな川には橋が架けられていて、川の中央にあるそれなりに大きな島まで届いているみたい。その反対側にも橋が島から架けられていることがわかった。

 その真ん中の島はセーフティーエリアみたいなので、橋を渡ってひとまずの安全を確保するとしよう。


るんるん気分で橋を渡っていて、ふと水面をみると沢山のアリゲーターが集まってきていた。

ボクは急いで走ってセーフティーエリアに逃げ込む。アリゲーターたちが飛び込んでくる中を左右に飛んだり、相手を踏み台にしたり、色々とやって最後にはスライディングで渡りきれた。

ボクが走って渡った橋ばアリゲーターたちによって破壊されてしまい、戻ることもできない。反対側も同じ様子で、まさに孤島という感じになったけれどどうにかするしかない。


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