第18話 災害時小鳥サポート

 その頃私は、病院で警備員のアルバイトをしていました。もう夜中だというのに、入院患者がロビーに出てきてテレビを観ています。消灯時間もとっくに過ぎているので、テレビを点けてもらっては困るのですが、相手はお客さんでもあり、あまり固い事を言って問題になってもアレなので、放置していました。


 テレビの中では、大量の泥水に家が流されて行きます。2010年7月、山口・島根では豪雨災害が発生、その避難している人たちの映像を見ながら、私はぼんやり考えていました。


「この人たちの中にも、鳥を飼っている人はいるんだろうか。居るとしたら今、その鳥はどうしているんだろう」

 そしてこう思いました。

「自分には何が出来るだろう」

 それが災害時小鳥サポートを始める切っ掛けでした。


 当宿の小鳥サポートの考え方は単純です。大規模災害が発生した際、避難所に連れて行けない鳥たちを当宿が無料で預かります、でも物理的に預かれる数は限られているので、うちで預かれない子たちはボランティアさんにお願いします、という事です。


 このやり方に問題がある事は認識しています。まずボランティアについての事。当サポートのボランティアに登録するのに、別に難しい資格や条件はありません。つまりほとんど誰でも登録できます。例えば他人の鳥を盗んでやろうなどと考えている悪意ある第三者が登録しようとしても出来てしまう、という事実があります。


 また、単なる寄り合い所帯であり、命令系統も何も無いという点も問題です。もし災害発生時にサポート要請が被災地からあっても、リアルタイムで災害が進行中の現場に人を送り込める権限も無ければ機能も無いという事ですから。


 あと疾病対策の観点でも問題があります。預かる条件に獣医師の診断等の項目はありませんから、預かった鳥がもし病気を持っていた場合、ボランティアさんの飼っている鳥や他の預かっている鳥等に病気が感染してしまう可能性があります。


 事ほど左様に、当宿の災害時小鳥サポートは問題だらけです。おまけに知名度が全くありませんから、後の東日本大震災でも熊本の震災でも、サポート実績はほぼゼロです。いつ止めても誰も困らないでしょう。もっと名前の通った愛護団体に任せるべきだ、と言われた事もあります。実際、そうなのかも知れません。


 でもまだやめるつもりはありません。何故って?そこに可能性があるからです。それが蜘蛛の糸の如く細くはかない可能性であっても、それをつかむ誰かが居るかも知れない。それで救われる小鳥が居るかも知れない。ならばきっと、無いよりはあった方が良いはずです。


 誰かがやってくれるだろう、と思っている間は誰もやってくれない、そんな気がするんですけど、違うでしょうか。やって欲しい事はまず自分がやって見せる。そうして初めて、もっと上手く出来る、もっとちゃんと出来る人が名乗り出てくれる、世の中ってきっとそういうものですよ。だからもう少し、続けてみようと思っています。

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