　そんなこんなで実家で開業して２年半ほど経ちました。毎日閑古鳥が鳴いて、順風満帆とはとても言えない状況ではありましたが、少しずつ問い合わせも増え、それなりに手応えを感じて来ていました。鬱も薬が合ったのか、病状も安定していましたし、全てがこのまま順調に行けばいいな、と淡い期待を持ち始めた頃でした。

　ある日、父親に呼ばれ、こう言われました。

「ここに１００万円ある。これを持って出ていけ」

　言葉の意味を考える事すらしませんでした。私は迷う事なくその１００万円を手に掴み、自室へと戻りました。そしてネットで検索しました。予算１００万円以内でペットホテルを開業するには。

　最初は店舗兼住宅の物件をしばらく探していました。しかし店舗兼住宅物件は、やはり高い。しかも賃貸になります。鳥、特にインコやオウムを飼ってらっしゃる方はわかると思いますが、賃貸物件でインコ・オウムを飼うというのは自殺行為なのです。何せ壁紙を齧る、壁土を齧る、柱を齧るし、畳も襖も障子も齧る、というのがインコ・オウムの当たり前なのですから。

　そう考えると、賃貸の店舗兼住宅は難しいな、というのが私の見立てでした。ではどうするか。１００万円は大金ではありますが、家を買える程の金額ではありません。ならば。何処かに土地だけ借りて、その上に安いプレハブ小屋の様なものを建てればいいんじゃないのか。それに気付いた私は、プレハブを捜し始めました。しかしその探す中で、私はある物を見つけます。それは、『コンテナハウス』という言葉。

　ご存じない方もいらっしゃると思いますので、簡単に説明をしておきます。まずコンテナ。これは鉄の箱の事です。海運用コンテナ、列車貨物用のＪＲコンテナ、などの種類があります。この箱がワンルームマンションくらいの大きさがあるのですが、これを改造して家や店舗にしてしまったもの、これをコンテナハウスと呼びます。

　見つけたとき、「これだ！」て思いましたね。勿論他に選択肢が無かった訳ではなく、ユニットハウス――工事現場の休憩所とか仮設事務所とかに使われてますよね。俗に言うプレハブ小屋です――という手もあるにはあったのです。

　しかし、コンテナは２０フィート（６メートル強）コンテナの中古で１台５０万程、そこにコンテナの側面真ん中に引き戸を取り付けて、更にそれを目的地にまで運んで設置までしてくれても、６０万円でお釣りが帰ってくる金額でした。これがユニットハウスだと、同じ規模の物を買うだけで７０万円必要でしたから、これはもう考えるまでもない。直ぐにコンテナハウスに決定しました。

　決定したは良いですが、さて、次は当然それを何処に置くのかという問題が。その当時、私は某スーパーでアルバイトしていたのですが、通勤経路のすぐ近くに不動産屋さんがあったのです。そこに頼んでみようと思いました。しかし、部屋を探したいという客は多いでしょうが、コンテナ置く為の土地を探してる、なんて人はまず居ないのでしょう、最初はちょっと困惑されました。

　それでも何とか、２件物件を紹介してもらえました。１件目は狭い三角形の土地。駅からは比較的近く、目の前を往復２車線の道路が走っています。電気水道は来ていますが、土地には既にユニットハウスが建っており、コンテナを置くならその隣に置く事しか出来ません。

　２件目は広い土地。駅からは遠く、電気も水道も引かなければなりませんが、コンテナのレイアウトは自由、縦にも横にも置けます。そして車が何台も置けるスペースがあります。当宿をご利用になるお客様の殆どが自家用車を利用されていますから、広い駐車場はあるに越したことはありません。賃料は２件どちらも同じです。

　さて、どちらを選ぶべきか。これは悩みました。しかしそうそう考えてもいられません。親からはまだ出て行かないのかと急かされています。もうこうなっては直感で選ぶしかありません。１件目の狭い土地。こちらを選びました。

　直感と言っても、何も考えずに選んだ訳ではありません。決め手はユニットハウスでした。ユニットハウスが使える事で、隣に２０フィートコンテナを置けば、単純計算で居住空間が２倍になります。ユニットハウスを物置にすれば、コンテナハウスの中もスッキリするでしょう。それに、鳥を飼い、預かる棟と食事をする棟を別にする事ができます。

　鳥を飼う上で、キッチンは割と鬼門です。調理中にキッチンに鳥が入ってきて大きな事故になるのはそう珍しい事ではありません。油を使うような場合は特に危険です。また、フライパンやオーブンレンジの内側に使われているテフロンは、加熱すると――人体に影響があるほど強力ではないですが――毒性のあるガスを放出します。これで鳥が命を落とす場合があるのです。なので、キッチンと鳥部屋を切り離せるというのは、人間にとっては面倒ですが、鳥にとってはとても有り難い事なのです。

　さて、土地は決まりました。後はコンテナハウスさえ注文すれば上手く行く、なんて事はないのですよねえ。それはまた次回。