第16話 オカメパニック

 当宿は小鳥専門のペットホテルですから、いろんな鳥さんが来られます。文鳥、紅雀、錦華鳥、セキセイインコ、ボタンインコ、コザクラインコ、アキクサインコ、サザナミインコ、オカメインコ、シロハラインコ、モモイロインコ、ヨウム、ニワトリにアヒルなどなど。


 中には小鳥と呼ぶにはちょっと大きい鳥さんもいらっしゃいますが、あくまでも当宿では小鳥です。可愛いと言えばどの鳥さんも可愛いのですが、大変と言えばどの鳥さんも大変です。しかし中でも一番気を使うのは、やはりオカメインコでしょうか。


 鳥に興味のない方はご存じないかも知れませんが、「オカメパニック」という言葉は鳥飼いならば誰でも一度は聞いた事のある言葉です。主に静まり返った夜、突然原因不明のパニックを起こすのです。


 厳密に言えば、パニックを起こすのはオカメインコだけではありません。ただ、オカメインコのパニックは非常に激しい事、またケージサイズと比較してオカメインコの身体が大きい事が問題になります。


 例えば文鳥サイズの鳥がパニックを起こした場合、ケージが35センチ角であっても、広さ的に余裕があるので大した事にはなりません。しかしオカメインコは45センチ角のケージであっても、身体が大きく、羽根が長い為に狭いのです。パニックを放置すれば羽根を折る様な大怪我をしてしまいます。ですからオカメインコを預かる際、特に夜間は気を使います。とは言え私も夜は眠らなければなりません。そこでパニックを封じる、パニックを起こさせない工夫が必要になります。


 勿体もったいぶっても仕方ないので結論を書きますが、要は真っ暗にしない事です。当宿では夜間は30Wくらいの電球を一つ客室に点けています。明るくはありませんが、文字が何とか書ける程度の明るさです。


 真っ暗にしないと鳥が眠れないじゃないか、と思われる方もいらっしゃるでしょうが、それはありません。鳥は真っ暗にしなくても眠れます。今のコンテナハウスに移ってから丸9年になりますが、その間真っ暗にした事はほとんどありません。うちの鳥たちが9年間も寝不足のままで居続けているとも考えられませんから、実際に眠っているのです。


 街灯やネオンサインの明かりが煌々こうこうと輝いている場所では、昼行性の野鳥も夜間に活動します。それは眩しくて眠れないからではなく、もともと明かりさえあれば夜間も活動出来るのです。渡り鳥だって夜飛びますしね。そもそも鳥は人間の様に、何時間も連続で眠る必要のない生き物です。


 ちなみに当宿の点灯時間は朝4時半、消灯時間は夕方4時半です。夏と冬で時間を変化させられれば理想的なのでしょうが、そこまではしていません。一年中この時間です。それでも外から入って来る光は季節によって変化しますから、室内の明るさ的な事に関して言うなら、夏の方が明るい時間が長くなっています。


 鳥を飼育する上での一つの知恵として、ノウハウとしては、真っ暗にするというのは理解できます。真っ暗にすれば鳥は静かになりますから。それは間違いないです。でもそれは人間にとって都合が良いのであって、鳥にとって快適かどうかは別の話です。鳥だって真っ暗闇は怖いんじゃないかと思うのですが、どうでしょう。


 もちろん無闇に明るくすれば良いというものでもありませんし、明かりを点けてもパニックはゼロにはなりません。でも起こしにくくはなります。


 当宿ではお預かりしている鳥さんの安全と安心の為に、今後も夜間点灯を続ける所存であります。なんて大仰おおぎょうなものでもないのですけどね。

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