第2話 すべての始まり

 平成13年、35歳のとき、私の世界は一度終わりました。ある朝突然、起き上がれなくなったのです。


 当時は工場で、派遣社員として働いていたのですが、ほとんど前触れらしいものもなく――あったのかもしれませんが、自分ではわかりませんでした――布団からって出る事すら出来なくなり、勤務先に体調が悪いので休む旨を電話しただけで、意識を失ってしまいました。


 そこから丸1日、食事も出来ず、トイレにも行かず、ただ眠り続けました。翌日も同様です。目が覚める回数が増えたくらいで、動く事も出来ず、ただただ眠りました。3日目になってようやく身体を起こす事が出来る様になり、何とか食事もし、トイレも済ませる事が出来ました。しかし身体は内側に鉛を詰め込まれたかの様に重く、やはり殆どの時間を眠る事で過ごしました。


 自分の身体で一体何が起きているのだろう、という疑問が頭に浮かんだのは、4日目か5日目で、そうだ、ネットで調べてみよう、と思いつくまでに更に1日か2日掛かりました。どんなキーワードで検索したのか、今となってはもう思い出せませんが、とにかく自分のこの身体の変調が、うつによるものらしい、とわかりました。これは当時の自分には大変にショックな事でした。


 鬱といえば精神病というくらいの認識しかありませんでしたし、自分は身体がおかしいだけで頭はまともだと思っていましたから。とは言え、ぐだぐだ考えてばかりいても身体が良くなる訳でもありません。そもそも頭が回らないので、考える事すら出来ませんでした。そこでネットで調べてみると、当時住んで居た実家から歩いて10分くらいの所に、精神科の開業医があるではありませんか。これ幸いとそこに赴き、診察を受け、やはり、と言うべきか、とうとう、と言うべきか、「鬱病である」と診断された訳です。


 不幸中の幸い、と言って良いのかどうかわかりませんが、当時は実家に親と住んでいました。ですから即座に飢えるという事はありませんでした。しかし、これで全てはおじゃんになってしまいました。それまでは体力さえ持てばどんな仕事でも出来るだろう、という前提で生きて来たのに、もう体力以前の問題になってしまったのです。それどころか、この状態になった自分に出来る仕事など存在するのか、と思いたくなるような有様でした。

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