第3話 トラウマ克服法

 さて、こうして鬱病患者となってしまった私ではありましたが、ただ漫然とそれに甘んじていた訳ではありませんでした。見事に仕事もクビになってしまいましたし、時間だけはたっぷりあります。何かしなければ、そういう思いがありました。


 取り敢えずネットの鬱病関連の記事は読めるだけ読みました。鬱病を扱った書籍を何冊も購入しては読んでいました。けれど、情報を得たからと言って状態が改善する訳ではありません。そんな中、私の脳裏に一つの疑問が浮かび上がります。


 もしかして、自分のこの鬱病は、幼少期のトラウマに起因するものではなかろうか、と。そしてこう思ったのです。そのトラウマを克服出来たら、鬱も少しは改善するのではないのか、と。ならば。しばらく悩んだ後、私は決めました。鳥を飼おう。


 小学校何年生だったかは覚えていませんが、低学年だったと思います。私は親に、2羽のセキセイインコを買ってもらいました。当時近所に住んでいた、年上のお姉さんの居るお宅によく遊びに行っていたのですが、そこで1羽のセキセイインコを飼っていたのです。それが羨ましくてたまらなかったのでしょう、記憶にはありませんが、おそらく親にねだったのだと思います。


 ある時、父親が1組のペアのセキセイインコを買ってきてくれました。最初は大喜びでした。自ら進んで世話をしていた事を覚えています。しかし、何かのきっかけ――もはやまったく覚えていないのですが――があって、私はセキセイインコへの興味を失ってしまいました。つまり世話をしなくなったのです。


 結果は考えるまでもありません。セキセイインコは死んでしまいました。餌箱は空っぽでした。私が殺したのです。


 その事実は、私を打ちのめしました。そして私は自らを戒めました。もう鳥に近付いてはならない、と。以来、私は鳥と距離を置きました。鳥の居そうな所、鳥の気配のする場所、鳥の声のする家を避け続けました。35歳になっても、それを続けていたのです。けれどその戒めを今破ろう、破らねばもう死ぬしかない、そう考えるまでに私は追い詰められていました。


 私がペットショップに行き、選んだのは2羽のセキセイインコの雛でした。水色の子にはソラと、黄色の子にはハナと名付けました。今の私なら、一目見れば気付いたでしょう。ハナが病気だという事に。


 しかしその時の私はそんな事を知る由もありません。ソラはいっぱい差し餌を食べてくれるのに、ハナはあまり食べてくれない。何故だろう。そんな事を思っているうちに、ハナの体調は悪化し、あっという間に死んでしまいました。目の前が真っ暗になりました。また殺してしまった。


 やはり私は鳥に近付いてはいけなかったのではないか。私は自分を責め、落ち込みました。本来なら、そこで全てが終わっていたのかもしれません。ただ、子供の頃、セキセイインコを殺してしまった時とは1つ状況が違いました。ソラが居た事です。この子を殺してはならない。この子だけはちゃんと大人に育てなければならない。それだけが、その時の私の心の拠り所でした。

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