第10話 コンテナ大改造(前)
実家を出たのが何月何日だったのか、もう覚えてはいませんが、まだ寒い時期だったのは間違いなかったはずです。硬いユニットハウスの床に布団を敷いて、小さな電気ストーブをガンガンに炊いて震えて眠ったのを覚えてますから。
その日の午前中にレンタカー店でピックアップトラックを借りて、部屋の荷物や鳥たちを載せ、ユニットハウスへせっせと運びました。父親の唖然とした顔を覚えています。何故唖然としていたのでしょうね。もしかして、本当に出て行くとは思っていなかったのでしょうか。頭を下げて心を入れ替えて真面目に働く、と私が言い出すとでも考えていたのでしょうか。今となってはもうわかりません。おそらくは最後まで鬱が病気だと理解できないまま、数年後に父親は亡くなりました。私はいまだに命日すら知りません。
ユニットハウスに移り住んでから、コンテナが届くまで数日ありました。その数日間が辛かったのは、私よりも鳥たちだったでしょう。そのとき私と一緒に居たのは、セキセイインコにオカメインコ、ボタンインコに文鳥、総勢十数羽、あとリクガメが一匹いました。まあリクガメは冬眠中だったのでさほど問題ではありませんでしたが、鳥たちは大変だったと思います。けれど結局コンテナハウスの中身が出来上がるまで、一羽も落ちる事無く(鳥が死ぬ事を落鳥と言います)乗り切ってくれたのは本当に有難かったです。
そう、いま中身と書きましたが、コンテナハウスは当然の如く外側だけの物です。内側には何も無い、ただのがらんどうの鉄の箱です。真ん中に引き戸があるだけで、家としての機能は全くありません。だからそれを作らなければならないのです。誰が。もちろん私が。
最初はどこかの業者を捜してやってもらおうかとも思いましたが、コンテナを買った時点で100万円のうち60万円近くを使っているのです。残り40万円でコンテナを家に仕立ててくれる業者が果たしてあるかどうか。
(後付けで結論を書いてしまうと、そんな業者はないです。20フィートコンテナなら、内装と電気工事だけで100万円近くになるのではないでしょうか。それに今はコンテナの設置も厳しくなっています。コンクリートで基礎を打たなければ業者は設置すらしてくれません。全部一括で業者に頼めば、20フィートのコンテナハウスを設置するには200~300万円かける覚悟が必要です。そういう意味では、私はタイミング的にラッキーでした)
さて、そう考えると自分でやるしか道はありません。でも言うまでもなく、私は大工などやった事がありませんし、建築を学んだ事もありません。コンテナを人が住める場所にする為に何をどうすればいいのか、何から手を付けて良いのか全くわからない状態から工事を始めました。
私がまず最初にやったのが、柱を立てる事でした。柱さえ立てれば、あとは
コンテナの側面や上面は平坦ではありません。波状に凹凸がついています。その凹部に角材を埋め込めばいいのだな、私はそう思い、角材を壁面の高さに合わせて切り、凹部に
私は全ての凹部の寸法が同じだと思っていたのです。しかし実際の中古コンテナは、あちこち凹んだり歪んだりしており、寸法が凹部ごとに微妙に違っていました。そんな微妙な寸法を、測る技術も切り出す腕前も私は持ち合わせてはいません。さて、どうしましょうか。
困った時には考えるよりホームセンターです。行けば何とかなるかもしれない。取り敢えず行ってみました。何か現状を打破出来る物は無いだろうか、私が頭をひねりながら店内をウロウロしていると、ある文字列が目に飛び込んで来ました。それは、『
ちなみにドリルねじとは何かと言いますと、ねじの先端にドリルが付いているのです。え、ねじはドリルに決まってるだろう? いえいえそうではないのです。ここでいうドリルとはぐるぐる
普通、木材であれ鉄骨であれ、二つの物をねじで合わせる為には、あらかじめ下穴を開けておく必要がありますが、このドリルねじは、ねじ先端のドリルが穴を開けてくれるので下穴が必要ないという優れもの。しかも鋼板用ですから、鉄の板にでも穴を開けてくれるのです。
例えば100円ショップの工具コーナーに行くと鋼板用のドリル刃――インパクトドライバーなどに取り付ける物です――が置いてありますが、単純に穴を開ける性能だけで考えるなら、鋼板用ドリルねじの方が上です。まあ、ドリルねじは繰り返し使えないという欠点はありますけど。
こうしてドリルねじ(1ケース1000本入り)を手に入れた私は意気揚々とコンテナに戻ったのですが。中編へ続く。
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