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少女の言う『エンジン』とやらは、得体の知れない装置だった。それを一通り眺めた「ブラウニー」は、
「うん、大丈夫そう」
と呟いた。男は頬杖をつきながら、ただその在り様を眺めていた。どう見ても、得体の知れないガラクタにしか見えなかった。
「また墜落するんじゃないか?」
「そうなったら、今度はもっとマシなところへ降りるわ」
何の答えにもなっていないやり取り。予備のグラス。秘蔵の酒。
「飲まないか?」
「生憎、節制してるの」
「そういう歳でも、まだないか」
「酔ってるの?」
少女は、スーツの中から拳銃を取り出した。一瞬見えたマガジンの中に装填されているのは、表面にびっしりと溝の刻まれた、得体の知れない弾丸だった。
といっても、徳カリプス以前に対人銃器の流通は絶えて久しい。男の方にとっては、そういう
「……昔は、何者かになれると思ってた」
男の口から、不安が漏れる。グラスが傾く。酒が溢れる。或いはそれは、十年間で溜め込んだ何かであるのか
「でも、なれなかった。昔は馬鹿にしていた靴屋にすらな」
虚空を見つめながら、男は呟く。
「世界が終われば、何かが変わると思っていた。でも結局、何も変わらなかった。変わりさえしなかった」
少女は答えず、ただ手を進める。翼のフレームの芯材を解体し、一本のワイヤーへと直している。
「……それで?」
少女の手が止まる。
「貴方は、何になりたかったの?クリスピーノ」
「……さぁ、何だったのか。もう思い出せない」
「そう。じゃあ、思い出したら教えて。時間のムダだから……できた」
出来上がったのは、鉤縄のような何かだった。
「それで天使に飛び乗るのか?」
正気の沙汰ではない。
「そう。それで、爆薬で外装を吹き飛ばして、中の人を……助け出すの」
『中の人を』と『助け出す』の間に、妙な間があったような気がしたが、男にはもう、どうでもよかった。
少女が拳銃を、一体何に使う気なのかも。
今の男には、少女が眩しくて仕方がない。まるで、失った
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闇夜の中を、天使が飛ぶ。機体には翼が存在するが、その面積はとても自重を持ち上げるには足りない。
その主な推力は、徳エネルギーの斥力だ。ジェネレータの中に収まった、否、得度兵器が収めてしまった『何者か』が出し続ける奇跡の力だ。
死ぬことは、恐ろしい。生き続けることは、尚恐ろしい。
如何な奇跡と権能の駆動式を抱えようと。何者も神ならぬ身で、恐れから無縁ではいられない。
腸のなかでその何者かは、どこかで祈っていたのかもしれない。
『いっそ殺してくれ』と。
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