第25話「餅つきの危機!」
来るべき近未来。人類は善行をエネルギーと化す無限の力、徳エネルギーを手に入れた。だが、その禁断の力は一人の男を狂わせる。
田中ブッダ。徳エネルギーの産みの親とも呼ぶべき彼は、徳エネルギーを動力とする巨大ロボット軍団によって世界支配を目論んだのだ。
しかし、その悪行を良しとしなかった彼の弟子、ミラルパ博士は計画の要とも言えるトライ仏舎利ジェネレータを持ち出奔。それを核とし、独自に得度機兵ブッシャリオンを建造し田中ブッダ男爵率いる徳カリプス帝国と戦い続けているのだ!
(オープニング主題歌『翔けろ!ブッシャリオン』)
徳カリプス帝国と戦う戦士達に休息はない。例え正月であったとしても、彼等は気を緩めることはできないのだ。
「だから、何が悲しくて町内の餅つき大会の準備なんて……」
「俺達は居候なんだ。文句を言うな」
その戦士達。ブッシャリオンのメインパイロット、ガンジーとクーカイが杵と臼を運んでいる。怪しげなロボットを運用する研究所が近隣住民の皆様に受け入れられているのは、こうした日頃の付き合いの賜物なのだ。
「ガラシャはどうした?」
「正月の間は実家に帰っている」
「いいよな帰る実家のある奴は……」
「一緒に帰らないか誘われただろうに」
「他人の家とか落ち着かねぇだろ!」
「いや……まぁ、言わぬが花か」
餅つき大会の準備を整えるガンジーとクーカイ。町内の人々も集まってくる。
「ようやく餅が食える……」
「まだ餅つきの仕事が残っているぞ」
「そいつは任せた。ちょっと向こうで休んでくらぁ」
だがその時、無慈悲にも寺の鐘の音が鳴り響く。徳エネルギー研究所に併設された偽装寺院が鳴らす自動鐘だ。
「行くぞ、ガンジー」
「チッ、徳カリプス帝国の奴等らか……!」
そして、その鐘は、徳カリプス帝国の襲来を告げるものでもある。
「ああ、ちょっと……!これから餅が!」
ガンジーとクーカイは、町内会長の静止を振り切り研究所へと駆け出した。
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「博士!ブッシャリオンは出せるか!」
ズゾゾーッ……ゲホッ!ゲホッ!
「ああ、雑煮食ってやがる!」
ミラルパ博士は管制室で雑煮を啜っていた。
「詰まって死ぬかと思ったわ!」
「そんなことより、徳カリプス帝国が来たんだろう⁉」
「ああ、そうじゃった!」
スクリーンに、防衛軍の戦闘機を蹴散らす純白の仏像が映し出されている。
「いつもの得度兵器獣じゃないな……防衛軍の攻撃で傷ひとつ付いていない」
「最近は攻撃するようになったけど、全然効いてねぇなぁ」
仏像型の物体を攻撃するのは、宗教的にデリケートな問題を孕むのだ。
「だが、ブッシャリオンを出そうにも、二人だけでは……」
ガラシャは帰省中だ。回収するには、時間がかかりすぎる。
「……仕方あるまい。ガラシャの代わりに、ブッシャリオン3には儂が乗ろう」
「博士がかよ!?」
「ならば、ブッシャリオン2で接敵し、一撃離脱。その後ブッシャリオン1に変形しトワイライトソードで追撃する。この戦法が妥当だろう」
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斯くして、徳エネルギー研究所の天井ドームから、カタパルトから。三機の重戦闘機メカが離陸する!餅つきをするご町内の人々が、それを遠巻きに見送っている!
「ブッダ・ゴー!」
「ブッダ・ゴー!」
「ゲホッゲホッ……ブッダ・ゴー!」
「大丈夫かよ爺さん……ブッシャリ・オン!!」
(合体バンク)
(合体バンクおわり)
「ブッシャリオン2!」
翼を持つ高速移動形態へと変型したブッシャリオンが、海上の得度兵器獣目掛けて飛翔する!
「Gがかかるぞ、気を付けろ爺さん!」
「これでも、修行僧時代に鍛え上げたのだ……まだまだ衰えはせん」
ブッシャリオンは元旦の晴れ空の中を飛び、やがて純白の仏像が地平の彼方より現れる。
「ぐぐ……ぐぐぐ!」
「速度を落とさず行くぞ!舌を噛むな!」
ブッシャリオン2の両の腕が赤熱する。
「マッハ・シャリオン・ブレイザー!!」
そしてそのまま、ブッシャリオン2は敵機へ突撃する!
赤熱する腕と膨大な運動エネルギーが、純白の仏像を射し貫く……かに思えた!だが!
「馬鹿な!」
予期された衝撃は訪れない!白い仏像はブッシャリオン2に掴みかかった状態でそのまま共に高速飛行している!
「衝突の衝撃を……吸収しきったというのか!」
「餅みてぇな奴だ!」
「特殊ブッダニウム合金による衝撃か……!完成していたとは!」
「一旦バラけて、ブッシャリオン1に組み直すぞ!この形態じゃ力負けすっだろ!」
「了解だガンジー!」
二機は組み合ったまま、海上を飛び続けている。両の腕を残したままブッシャリオンは分解し、ブッシャリオン1へと変形を試みる。
「ぐぐぐ……!」
「踏ん張れ爺さん、あとちょっとだ!ブッシャリオン1!」
変形によって、ブッシャリオンの両腕が自由になる!
「こいつを食らえ、マニドリル!」
肘のドリルが高速回転を開始する!
「待て!」
しかし、ミラルパ老の制止の声は間に合わず、ブッシャリオンのドリルが降り下ろされる!
ドリルが仏像の表面に絡め取られ、回転を停止する!
「なんだこいつ!このっ!」
「餅だと言ったのは自分だろうに!」
『フハ、フハハハ!』
言い争う二人を余所に、通信機から笑い声が響く!
「誰だてめェ!いつもの奴じゃねぇな!」
しかしその笑い声は田中ブッダ男爵のものではない!
『我が名はヤーマ将軍!人に代わり、この星の覇者となるべく生れたものだ!』
写し出されたのは少年の姿!
「舎利バネティクス技術による新人類……完成していたというのか!」
ミラルパ博士は驚愕した。
「おいコラ!どういう意味か説明しろ!」
「落ち着けガンジー!後でゆっくり説明してやる!」
『しかし、裏切り者の博士まで居るとは好都合。身動きの出来ぬブッシャリオンと共に海の藻屑となって頂こう』
「てめぇだけ死ね!」
ガンジーが足掻く!しかし、ブッシャリオン1と2の両の腕は、既に白い仏像に絡め取られており思うようには動かせない!
『残念だが、それは出来ない』
白い仏像の頭部が射出され、絡み合う二機から離脱する!
「てめぇ逃げる気か!」
『いずれ浄土で会おう!』
飛び去るヤーマ将軍。
「博士、脱出機構は?」
「この状況では使えん……」
「ブッシャリオン1と2は身動きが取れない。だが、ブッシャリオン3は……」
絡め取られたブッシャリオン1と2の腕は、ブッシャリオン3では脚部とキャノン砲に相当するのだ。
変形すれば、腕は使える。しかし同時に、不慣れなミラルパ博士をメインパイロットとすることにもなる。バランサーも足も使えぬ不安定な状態でだ。
「諦めるな」
だが、博士の表情は穏やかだった。
「博士……」
「爺さん!」
「儂がお前達をブッシャリオンのパイロットに選んだのは、決して諦めぬ人間だと思ったからだ」
「……あぁ、そうだな。帰って餅を食わねぇとな」
「あぁ!」
「オム・マニ・ペメ・フム!行くぞ!チェンジ・ブッシャリオン3!」
博士はマントラを唱え、変形スイッチを押し込む!三機のメカが勢い良く分離する!
「ガンジー!マニュアル補正だ!」
「やってるよ!」
コクピット画面上に表示されたターゲットマーカーに合わせ、ガンジーは慎重にレバーを操作する。高速機動中の変形合体など、彼自身も経験がない。
1mmでもずれれば、彼のメカは激突して木っ端微塵になるだろう。手の震えを隠しながら、ガンジーは操縦桿を押し込む。
<<CONNECT>>の文字が画面上に表示され、コクピットを鈍い衝撃が襲う。成功だ。
「ブッシャリオン・3!」
ミラルパ老人が声を枯らしながら叫ぶ。
ブッシャリオンの重砲撃決戦形態、それがブッシャリオン3だ。だが、今この時はその最大の武器・トワイライトブラスターは既に絡め取られ、使うこと叶わない。
「変形は成功したが……ここからどうすれば」
「このネバネバがどうにかしねぇと…!」
「案ずるな、策はある。特殊ブッダニウム合金は、低温下では脆性が高まる欠陥を持つのだ……欠陥が修正されていなければな」
「クーカイ!翻訳!」
「餅と同じだ!」
「わかったぜ!」
「マニュアル387p……マニ冷凍弾!」
博士はコクピットの中にマニュアルを広げ、目当ての武装を呼び出す!
ブッシャリオン3の腕部から発射されたマニ弾頭が煙を上げながら内容物を高速気化させ、白い得度兵器の表面を凍結させる!
「こんな武装があったのか……」
「ガラシャはいつもフルバーストしかしねぇからな……」
「今だ!変形して離脱しろ!」
博士が叫ぶ!
「俺が行く!チェンジ・ブッシャリオン1!」
ガンジーが叫ぶ!凍結し柔軟性を失った白い得度兵器獣の腕が砕ける!
「急速上昇!」
雲をひき、天高く駆け上がるブッシャリオン1。その眼下では、首を失った白い得度兵器獣が海へと落ちていく。
「……ヤーマ将軍か……厄介な相手になりそうだ」
「今は、さっさと帰ろうぜ。餅が待ってる」
徳カリプス帝国との戦いは、明日からも続いていく。恐らくは、より激しさを増して。
だが、戦士達にも休息は必要だ。
「あぁ、そうだな……」
「爺さんも生きてるか?……おい、爺さん!?」
ブッシャリオン3の操縦席から、いびきが聞こえてくる。
「寝ておられるのか……」
「なんてふてぇ爺さんだ……叩き起こして」
「疲れはてたのだろう。そっとしておこうじゃないか」
「……それもそうか。爺さん、いい初夢が見られるといいな」
(餅つき大会の会場に着陸するブッシャリオン1、あんころもちが残っていないことに怒るガンジー、帰省中のガラシャなどの一枚絵を流しながらエンディング)
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