6

「『複製聖人(レプリ・セイント)』とやらは、一体どうやってできたんだ?」

 男は『ブラウニー』に向かって、慎重に尋ねた。

「……遺体や遺物から採取したサンプルから、DNAとか色々を復元するの。極東だと、能力因子を抽出して移植するところまでやってたみたいだけど……」

「……俺が、言いたいのは」

 言葉を遮る。そして更に慎重に続ける。

「それで出来上がるモノは、本当に人間なのか?」

?」

 男の背筋を、一瞬、凄まじい怖気が走った。

「いや……人間以外の形をしていることは、無いのかと、思ってな。例えば、猫とか」

「……猫」

 先程までの殺気が嘘のように、『ブラウニー』は呆気に取られたような表情をした。

「……にゃー」

 そして、何事か呟いて、深く嘆息した後。

「……中途半端な話し方をした私が悪かったみたい」

「気を悪くしたなら……その、なんだ。謝る」

 男はボリボリと頭を掻く。

「いえ、そうじゃない。結論から言えば、『人間以外のモノ』ができてしまうことは、あるけど……決して、貴方が想像するような可愛らしいものじゃないもの」

「どんな動物なんだ?」

 純粋な好奇心から、彼は尋ねた。しかし、返ってきた答えは。

「……『クアドラプル』」

 俯くように呟いた、その一言だけだった。

「なんだって?」

「今する話じゃない。続きは、全部終わった後で」

「『終わる』ってのは、何だ?」

「あの天使を、破壊するか撤退させるかして、『十戒』に私を回収してもらう」

「町の外まで逃げればいいだけの話じゃないか」

「……生存者が居るなら、放ってはおけない」

「俺のことは……放っておけばいい」

「……違う」

 『ブラウニー』は上を指差す。

「あの中身よ」

「ほぼミイラなんだろ?」

「十中八九そう。でも、ら、差し障りがあるから。中を開けて確かめる必要がある」

「どうやって?」

 『天使』は、低空とはいえ空の上だ。

「この街で、一番高い建物は?」

「崩れたのを含めないなら、教会の鐘楼だ」

「そこから飛んで、あの天使に取り付いて引き摺り下ろす」

「……高さが足りないだろう」

「飛行ユニットのエンジンだけあれば、短距離なら飛べる」

「そんな無茶な話が……」

「……随分と協力的になったものね」

「……いや、違う。単に、無茶を止めようとしているだけだ」

「それはつまり、心配してくれていると思っていいの?」

「大人をからかうもんじゃない」

「……一度戻っって、エンジンを回収する。それと、戦う準備もしないといけないから」

 異論は無かった。『ブラウニー』とやらが馬鹿をやらかすのも、勝手な話の筈だった。喩え彼女が、どんな存在であったとしてもだ。

 ……ただ、

「街が壊れるのは困る」

 少女に言うでもなく、独り言でもなく、その中間のように、言い訳をするように。虚空へ男は言った。この街にもう、靴を必要とする人間が居ないにしてもだ。


 いや、十字架を背負って丘を登る男にも。多分、靴は必要だったのだろう。

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