劇場版・得度機兵ブッシャリオン
▲注意▲
館内での電話、撮影、録音、読経その他、他のお客様の迷惑となる行為はご遠慮ください。
入場者特典『光る田中ブッダお面』は、上映前に予め電源をOFFにされるようお願い申し上げます。
▲これまでのあらすじ▲
徳エネルギーの未来を守るため、徳カリプス帝国と戦い続けるブッシャリオン。
だが、その前に徳カリプス帝国の作り出した黒いブッシャリオン、『ダンジャリオン』が立ちはだかる。
辛くもダンジャリオンを退けたブッシャリオンだが、その機体は大きく傷ついていた……
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徳カリプス帝国の本拠地、難攻不落の要塞島。田中ブッダ島が燃えている。上空に浮かぶ幾つものマニ円盤。そこから出撃する、獣のような機械。立ち向かうは、仏像を象った得度兵器獣達。
『我々は、クーカイ星人。徳エネルギーの未来を憂う者だ』
円盤の上に投影されたホログラフが僧侶を映し出す。
得度兵器獣達は奮戦するが、物量の差によって徐々に劣勢に立たされる。
「クーカイ星人……その名、忘れんぞ」
燃える島の地下で、徳カリプス帝国幹部、田中ブッダ男爵は歯噛みする。
「徳エネルギーを狙うとなれば、奴等が次に向かうのは」
失われた戦力。強大な敵。ならば、癪だが道は一つだ。
(タイトル画面)
▲劇場版・得度機兵ブッシャリオン▲
ブッシャリオンVSブッシャリオンG ~星から来た空海~
(OP省略)
「クーカイ星人だと」
徳エネルギー研究所。ブッシャリオンが修復中の今、暇を持て余すガンジーはミラルパ博士に問い返した。
「たった今、航空宇宙軍から連絡が入った。奴等は徳エネルギーを狙っている。既に徳カリプス帝国の本拠地が襲撃され」
「二人に知らせねぇと!特にクーカイに!」
「待て。ブッシャリオンは修理中だぞ」
駆け出すガンジーをミラルパは呼び止める。クーカイはトレーニング中、ガラシャはまだ学校だ。
「何も出来ねぇのかよ」
「防衛軍に連絡をして……」
ミラルパ博士がそう言い掛けた時。徳エネルギー研究所の曲面ガラス窓に影が差す。
それは、巨大なマニ円盤だった。
「まさか……クーカイ星人か!」
円盤から獣めいた機械……クーカイ獣が投下され、今まさに研究所を襲わんとしたその時。
『ドーン・ソード!』
クーカイ獣が両断され、爆発。その向こうから姿を現すのは、黒いブッシャリオン。
「ダンジャリオン……だと!?」
「アイツは、俺達が倒した筈!」
『弐号機だ』
「生きてやがったのか、田中ブッダ男爵!」
ダンジャリオンから姿を現す、半仏の怪人。それを複雑な面持ちで見つめるミラルパ。
『久しいな、と言わせて貰おうか。ラマ・ミラルパ。我が弟子よ』
「……何をしようと言うのですか」
「……知り合いなのか!?」
『無論、アレを叩き落とすのよ。否やはあるまい、ブッシャリオンのパイロット』
田中ブッダは上空の円盤を見、それからガンジーを見遣る。
「勿論、やってやる」
「ブッシャリオンの修理は、80%しか終わっとらん!パイロットも一人では……」
「上等だ!」
制止も虚しく、ブッシャリオンは発進。そして、
「ブッダ・ゴー!ブッシャリ・オン!」『ダンジャリ・オン!』
二機のブッシャリオンが並び立つ。
「……てめぇと背中合わせで戦うとは、妙な気分だ」『こちらもだ』
襲い来る無数のクーカイ獣。それを、二人はなぎ払い続ける。
「……これが、地球の得度機兵か。玩具にしてはよくやる」
円盤の上部から、僧侶姿の男のホログラフが現れる。だが、その姿は……
「クーカイ……!?そんな所で何をしてんだ!」
ガンジーの相棒。クーカイに瓜二つであった。
「如何にも、我が名はクーカイ13号。クーカイ星の戦士」
「違うだろ!お前は!」
ガンジーは叫ぶ。だが、クーカイ13号は意に介さない。クーカイ13号の操る円盤の攻撃がブッシャリオンを襲う!
『下がれ、ブッシャリオン!』
それをダンジャリオンが身を挺して防いだ。
「……遅かったか!」「ごめん!部活が長引いて……」
「クーカイ、ガラシャ!」
そこへブッシャリオンへ駆け寄る、クーカイとガラシャの姿。だが、
「隙だらけだぞ!」
マニ円盤の攻撃を受け止めながら、ガンジーは混乱する。
「……いや待て、クーカイが二人!?」
攻撃のショックで、ブッシャリオンの出力が低下を始める。修復は完全ではなかったのだ。
『ブッシャリオンのパイロット。ミラルパを連れ、ここから逃げろ』
それを見て取った田中ブッダはそう言い捨てる。ガンジーは言われるまま、ガラシャ、クーカイ、そしてミラルパを乗せ飛ぶ。
「逃がさん!」
クーカイ13号の操る円盤はブッシャリオンを狙わんとするも、ダンジャリオンが阻む。
『お前の相手はこの私だ』
「貴様、何を!」
『すまんな、ダンジャリオン……ドーン・ソード・オーバーロード!』
ダンジャリオンのドーン・ソードが赤熱し、不自然なまでに膨張する。ダンジャリオンはそれをマニ円盤へ突き立て……直後、巨大な爆発と共にマニ円盤が割れた。
マニ円盤の中から現れたクーカイ獣が、手にクーカイ13号を載せ撤退する。ダンジャリオンとマニ円盤の部品が降り注ぐ中、落下する田中ブッダをブッシャリオンが受け止めた。
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爆発の余波で半壊した徳エネルギー研究所。そこで、5人は顔を合わせていた。
「クーカイ星人、とてつもない敵だ」
「しかも、顔がクーカイにそっくりだ。やりづれぇ。そう思うだろ、クーカイ」
ガンジーはクーカイに話を振るが、クーカイは黙したままだ。
「実は、俺は……地球人ではない」
そして、クーカイは重々しく口を開いた。ガンジーはぎょっとする。
「じゃあ、まさかお前もクーカイ星人だってのか」
「そうだ。俺は地球に送り込まれたクーカイ星人のスパイだ。地球の徳エネルギー技術の調査が俺の目的だった。……だが、信じて欲しい。今や俺の地球を愛する心は本物だ」
「……信じるさ。お前は、そんな器用なことが出来る奴じゃねぇ」
「わたしも、信じる」
『それは、これからの戦いの中で証明すれば良かろう……だが、地球のために同胞を手にかける覚悟があると?』
「クーカイ星人は様々な星の種族に干渉して徳を積ませ、徳エネルギーを略奪していく種族だ……地球の刈り取りだけは防ぎたい」
『問題は、その方法だ。奴等の本拠地は何処にある』
「クーカイ星人の基地は……月にある」
「なら、ブッシャリオンで月を叩きゃいいんだな!」
『……我々徳カリプス帝国には、既に戦う力は無い。だが、お前達もまた奴等には勝てぬ』
「何だと!」
冷静に状況を分析する田中ブッダに、食って掛かるガンジー。
「……なにか、方法があるの?」
続きを促すガラシャに応えるように、田中ブッダは続ける。
『徳カリプス帝国の技術でブッシャリオンを強化改修する。それ以外に打開策はない』
「なんだと!」
「いや、それしか無い……か」
「だがブッシャリオンの機密、トライ仏舎利ジェネレータは」
田中ブッダの提案にミラルパは難色を示す。ブッシャリオンの核、トライ仏舎利ジェネレータ。徳カリプス帝国の魔の手を退ける鍵。……そして、田中ブッダの野望を阻む唯一の術だ。
『手をつけんよ。我々の決着は、我々の間でつけてこそ意味がある』
「師匠……」
『私を、まだ師と呼んでくれるか』
ミラルパは、田中ブッダの手を取った。
「共同戦線、ってことだな」
『クーカイ星人を撃退するまでの間、徳カリプス帝国は全力でお前達を手助けしよう。ブッシャリオンのパイロット』
「ガンジーだ」
ガンジーもまた、田中ブッダと手を握り合う。
かくして、同盟は成立した。目指す場所は、徳カリプス帝国第二の拠点。南極大伽藍。そこで人類最後の反攻作戦が始まる。
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「なぁ、あんたは何で俺達と戦ってるんだ」
『……そんなことも知らんのか、ブッシャリオンのパイロットよ』
南極大伽藍。徳カリプス帝国の最終拠点にガンジーら5人は居た。ブッシャリオンは既に搬入され、強化改修は始まっている。
「いや、こうして俺達に協力すんのに、何で普段戦ってんのかってな」
『協力ではなく、利害の一致だ。そして……目指すべき理想が違うが故に戦う。当たり前だが、何とも徳の低いことだ』
ガンジーと田中ブッダは空を見上げる。そこには、これから向かう月が輝いていた。
「これが終わったら、また敵同士なんだよな……」
この僅かな平穏は、強大な敵によって齎されている。
『それが嫌ならば、徳カリプス帝国の軍門へ下れ。お前とて、使い走り程度ならば役に立つであろう』
「なっ、ばっ、誰が嫌だって言った!」
そして、二人が見上げる月の表面に。巨大な曼荼羅の模様が浮かび上がる。
「月が……」
『始まったか。予定より早い』
「あれは、徳ジェネレータなのか……?」
『そうだ。ブッシャリオンの改修を急がせる。合体・変形機構をオミットすれば、あと一日で完成できよう……不出来な弟子の手助けもしてやらねばならんな』
不気味に輝く月の模様。夜を徹してブッシャリオン改修を行う田中ブッダとミラルパ博士。そして……
「こいつが……ブッシャリオンなのか」
「そうだ。新たなブッシャリオン」
『ブッシャリオン・改とでも言ったところだ。急造故、旧ブッシャリオン1の形態しか取れないがな』
「微妙にしまらねぇ名前だな……」
『この機体を、得度兵器用の弾道飛行ブースターをクラスタしたもので月まで運ぶ』
「……クーカイ、ガラシャ。行くぞ、決戦だ」
「……ああ」
「まって」
新たなブッシャリオンへ乗り込まんとする二人を、ガラシャが呼び止める。
「お守り、作ったの」
「マニ車か……」
「お守りなんて、必要ねぇよ」
そう言いながらも小さなマニ車を受け取るガンジーとクーカイ。
「じゃあ……ブッシャリオンG!出撃だ!」
「そのG、ガンジーのGじゃないだろうな」
「いくよ!」
ガンジー達がコックピットへ乗り込み、高らかに叫んだその時。南極大伽藍に敵襲来を告げる警報が鳴り響く!
「畜生、こんな時に!」
「こんな時だからだろう!」
接近するは二機のマニ円盤!
「クーカイ星の戦士!クーカイ13号」「同じく、クーカイ48号」
マニ円盤上のホログラムに、二人の僧侶が写し出される。
「どうしてこの場所が……?」
訝しむクーカイに答えるように、クーカイ48号が答える。
「我等クーカイ星人は、どれ程離れていようと同胞の居場所を感じ取れるのだ」
「左様、地の果てに隠れようと無駄なこと!地球の得度機兵は念を入れ全て破壊する!」
大量に投下されるクーカイ獣。
「このままじゃ!」
「……おい、俺達を出せ!」
ブッシャリオンGはロケットへ固定されており動けない!
『駄目だ。一度固定を外せば、打ち上げに支障が出る!』
「このままじゃ、どの道やられちまうだろ!」
「打ち上げまで持てばいい。南極大伽藍の防衛システムで耐える他は」
「……じゃあ、博士達はどうなるの!?」
ガラシャの悲痛な叫びが南極に木霊する。その時、
「助けが必要なようだね、ブッシャリオン」
謎の赤い機体が、マニ円盤の上に降り立つ。
「あの機体は……」
「ノイラさんか!」
以前、窮地に陥ったブッシャリオンを救った正体不明の謎のロボット。そして、それを駆る謎の仮面の女、ノイラ。
「地球の得度機兵!まだ居たとは!」
「ここは私に任せて貰おう!」
手にした槍を構え、見えを切るノイラ。だが、
「あの機体は……αシャリオン!それに、その声は蕭くん!蕭くんじゃないか!」
通信に割り込むミラルパ博士。
「……私はそんな名前ではない、私の名はノイラ。全てを捨てた仮面の女だ」
「蕭くん、いや、間違える筈がない。生きていたのか。ならばそうと……αシャリオンのことならば構わんよ」
「だからそんな名前ではないと……」
「蕭くん!何故通信を切るんだ!蕭くん!私がどれ程心配したと……」
「何でって、そりゃなぁ……」
「うん……」
南極大伽藍にとても微妙な空気が流れる。
「……ブッシャリオン。兎に角、打ち上げの防衛は任せて貰おう」
「あ、持ち直した」
「わかったよノイラさん!」
「ああ、ノイラ!任せた!」
「頼んだ、ノイラ」
「何故か激しく気を遣われている気がするが……かかって来い、クーカイ獣!クーカイ星人!私の憂さは貴様達で晴らさせて貰おう」
αシャリオンが跳躍する。
「疾い!」
「この機体をブッシャリオンと同じだと思うな」
高速移動によって形成られたαシャリオンの分身が、瞬く間にクーカイ獣を蹴散らしマニ円盤に集中攻撃を行う!
「おのれ!まずは貴様からだ!」
「生憎と、今日の私は機嫌が悪い!」
αシャリオンのランスが展開し、徳エネルギーの光を纏う!
「プロトシャリオン・ブレイザー!」
円盤に突き立てられたランスが、そのまま二つのマニ円盤をまとめて穿く!
「気を付けろノイラさん!そいつ、中からクーカイ獣が出てくるぞ!」
「わかった!」
「すみません、大和上……円盤を再び失うとは!」
マニ円盤が割れ、クーカイ13号とクーカイ48号を乗せたクーカイ獣が姿を現す。
だが、クーカイ13号を乗せたクーカイ獣は……αシャリオンを狙わず、ブッシャリオンのロケットの方へ向かったのだ!
「しまった!」
「行かせはせん!」
αシャリオンをクーカイ48号の操るクーカイ獣が足止めする!
『打ち上げまであと少しだというのに……!』
「なぁ、田中ブッダ。こいつ、この状態でぶっ放せる武器はあるか?」
『頭部小型キャノンが発射可能だ』
「師匠!何をさせる気ですか!」
「何やら企んでおったようだが、ブッシャリオンはここか!よくやったぞ失敗作!」
クーカイ13号のクーカイ獣がロケットへ襲いかかる!
「Gキャノン!」
「何だと!」
ロケットのフェアリング内部からブッシャリオンGの放ったGキャノンは、完全なるタイミングでクーカイ獣諸共クーカイ13号を破壊した。
「クーカイ13号!」
αシャリオンと撃ち合いながら、クーカイ48号が絶叫する。
『今だ!』
田中ブッダはロケットの発射ボタンを押した。
巨大な轟音と爆炎と共に、ブッシャリオンを乗せたロケットは打ち上がる。月面に刻まれた、地球の徳を奪い尽くすための巨大徳ジェネレータ……クーカイ星人の本拠地を目指して。同胞を喪ったクーカイ48号は、敗北を噛み締めながら撤退していく。
▲ブッシャリオン!▲
(アイキャッチ)
▲ブッシャリ・オン!G!▲
「ガンジー、クーカイ、ガラシャ……地球の未来を頼んだぞ」
クーカイ獣の残骸が散らばる氷の大地で、αシャリオンとノイラは空を見上げる。 クーカイ48号は取り逃がしたが、クーカイ獣一体では何も出来まい。
「ゲホッ……ゴホッ。この体ももう、限界が近いか」
激しく咳き込むノイラ。コックピットに青い人工血液が飛び散る。彼女の肉体は大半が機械へと置換されているのだ。
「師匠達に顔くらいは見せたいところだが……私にはまだ、やらねばならないことがある」
月へ向かうブッシャリオンGの無事を願いながら、αシャリオンは密かに南極を離れる。
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「ブースター切り離し完了。地球周回軌道に乗ったぞ」
衛星軌道上。ブッシャリオンGは大型ブースターを切り捨てその機体を晒す。
「……ねぇ、そういえば私のイニシャルもGなんだけど」
「流石に衛星軌道上までは待ち伏せしてねぇか……」
「待ち伏せしていても追いつけまい」
「きいてる?」
-------------------
月。クーカイ星、徳エネルギー回収遠征部隊。静寂なるべき月の世界にアラートが鳴り響く。クーカイ星の戦士達を乗せたマニ円盤や、一回り大きなクーカイ獣達が慌ただしく出撃する。
「さぁて……ブッシャリオンGの初陣だ!」
ガンジーは指をポキポキと鳴らし、操縦桿を握る。
「気を付けろ、ガンジー。あれはクーカイ獣ではない……スペースクーカイ獣だ!」
「それがどうしたぁ!徳エネルギーのビームを喰らえ!」
ブッシャリオンGから放たれたビームが、クーカイ獣の第一陣をなぎ払う!
♪シャリー・オン! シャリー・オン! 風が鳴る
「Gライトブレイザー!」
マニ円盤をブッシャリオンGの光り輝く拳が叩き割る!
♪シャリー・オン! シャリー・オン! 咲き乱れ
「Gヴァーチャス・ペネトレイター!」
膝から飛び出したパイルバンカーが、マニ円盤を串刺しにする!
♪地に咲く徳の 果てぬ限り
マニ円盤が変形し、人がロボットになる!マニ回転を捨てた攻撃の構えだ!
「今更その程度で!ガラシャ!よく狙え!」
「うん!」
ブッシャリオンGの肩が開口し、砲門が突き出す!
「徳エネルギー粒子、充填完了!撃てるぞ!」
「いっけえええ!ハイドランジア・スプレッダー!」
拡散する徳エネルギー粒子の渦が人型マニ円盤を襲う!
♪尽きぬ力 強き願い
「これで止めだ!」
生き残っているマニ円盤を目掛け、ブッシャリオンGは飛ぶ。強化されたトワイライト・ソードをその手に携えて。
「ブッシャリオン・G斬!」
♪徳高き勇者 その名はブッシャリオンG
爆発。爆発。
ブッシャリオンGは月面に着地し、膝を付く。連なるマニ円盤の大爆発が背後を照らし、月面に影を落とす。
「これで、粗方片付いたか……」
「これが、徳エネルギーの……ブッシャリオンの、本当の力」
既にクーカイ星人の戦力は壊滅していた。
「……駄目だ、敵わない」
「せめてお前だけでも!」
クーカイ星人達の悲鳴が通信からも漏れ聞こえてくる。既に彼等は恐慌状態だ。
「たった一機の得度機兵に蹂躙されれば、こうもなるか。ガンジー、逃げる連中には手出しをするな」
「いや……まだだ」
「なにか……くる」
チリーン……
宇宙空間に、鈴の音が鳴る。それと共に、月面の曼荼羅が輝く。
「通信妨害か?」
だが、その直後。月面大曼荼羅からぬらりと姿を現す、全長数kmの袈裟を纏った巨大なミイラ。
「大和上様……!」
「ガンジン大和上!」
クーカイ星人達のどよめき。先程までの恐慌状態とは違う声。歓喜に近い戸惑いの声。
これは、畏れだ。
クーカイは背筋の震えを感じた。
「あれは……ガンジン大和上。クーカイ星の支配者だ!だが、あの大きさは……!」
「じゃあ、アイツの名前は差し詰めダイガンジンってとこか」
ガンジーは即座に命名する。アレを倒せば、終わりだ。
「いくよ!ガンジー!クーカイ!」
「お前が仕切るのかよ!」
最大出力のハイドランジア・スプレッダーがダイガンジンの心臓付近を穿つ。
『ムダ ダ……』
その光弾はダイガンジンをすり抜け、月面を穿った。三人の頭に声が響く。
「こいつ、実体が無えのか!」
しかし、クーカイはダイガンジンの小さな像の揺らぎを見つけた。完全に効いていない訳ではない。
「いや……徳エネルギーならば干渉出来る!」
「なら一撃勝負だ。全部よこせ!」
ガンジーはトワイライト・Gソードを構える。
「何をする気だ!?」
「あの黒いのがやってただろ!アレをやんだよ!」
機体の徳エネルギーがトワイライトGソードへ集中する。
「……心得た。トライ仏舎利ジェネレータ、出力最大!」
放熱ギミックが展開し、ブッシャリオンGの機体が金色に輝く。トワイライトGソードのエネルギー刀身が風船めいて膨らみ始め……そして、伸びた。刀身は長い光の柱の形へと姿を変えた。
「トワイライト・Gソード、オーバーロード!!」
ガンジーはそれをダイガンジン目掛け容赦なく振り下ろす。
『ショギョウ ハ ムジョウ ダ……』
ダイガンジンは、それを手に持った数珠兵装で受け止めた!両者の力は拮抗する!
「うおおおおお!」
「あと少しだけ徳エネルギーが足りない!」
だが、ブッシャリオンGが徐々に押され始めた!
「まだだ、まだやれる。そうだろう、クーカイ、ガラシャ。そうだろう……ブッシャリオン!」
「だが、徳エネルギーが無いことには……」
そう口にしたクーカイの目にしたもの。それは、ガラシャのお守り。小さなマニ車。
「これだ!」
「何だ!……そうか!」
三人は各々マニ車を手に取る!
「「「うおおおおおおおお!」」」
三人は高速でマニ車を回す!マニ車で積まれた徳が徳エネルギーへと変換され……ブッシャリオンGへと力を与える!
『ナンダ ソノ チカラ ハ ドコ カラ』
「これが、俺達の!徳の力だ!」
形勢は逆転する。光の剣がダイガンジンの手に握る数珠を焦がす。
数珠に罅が入り……そして、ダイガンジン自身の肉体も崩れ始める。
『ソレハ ホロビ ノ カガヤキ ダ ……』
「……滅びるのは、てめぇらの方だよ」
ブッシャリオン・Gソードの輝きがダイガンジンを両断し、数珠の玉が弾けて散り。巨大和上の肉体は塵へと還った。
クーカイ星人達のマニ円盤が月から去っていく。
「地球を救うと、どれくらい徳が溜まるんだろうな……」
それを見送りながら、ガンジーはぽつりと呟いた。
「そういうこと言うから徳が溜まらないんだ、お前は」
「溜まってるかどうかなんてわかんねぇだろ」
「つづきは、帰ってからにしよう?」
ガラシャの声で、二人は言い争いを止めた。
「……そうだな」
「帰ろう、あの星へ」
だが、そう二人が返した、正にその時。ブッシャリオンGのレーダーが接近する物体の反応を捉えた。
「敵か!」
「クーカイ獣……いや、スペースクーカイ獣か?」
「どっちでもいいだろ!邪魔しやがって」
「いや待て……何か、違う」
「……こわい」
月に降り立つ、一体のクーカイ獣。エネルギーを消耗したとはいえ、ブッシャリオンGの敵ではない。
だが、そのクーカイ獣の頭には……クーカイ48号の肉体が埋め込まれている。
「我が友、クーカイ13号が倒れ……大和上までもが倒れた」
「お前、まさか……」
クーカイ獣の声が通信から聞こえてくる。それは、クーカイ48号の声だ。
「我等クーカイ星人の屍を踏み越えて歩む貴様らの覚悟、見せてみろ!」
クーカイ48号と融合したクーカイ獣がブッシャリオンGへと襲いかかる!
「畜生!」
ガンジーは剣を投げ捨て、迎え撃つ!
「クーカイ48号!なんということを!ナンバードクーカイならわかっているだろう!スペースクーカイ獣と合体すれば、もう元には戻れんのだぞ!」
「黙れ!ナンバーすらもらえぬ失敗作の分際で!」
「エネルギー、もう無いよ!」
「なんとかしろ!こいつを倒さねぇと、地球に帰れねぇ!」
ブッシャリオンGはクーカイ48号の攻撃を受けとめる。
「クーカイ獣とは桁が違う……!」
スペースクーカイ獣と化したクーカイ48号とブッシャリオンGは、いつしか揉みあいながら月面を離れていた。
「クーカイとガラシャはマニ車を回して少しでも徳を稼いでくれ!俺はこいつを!」
二人はマニ車を手に取り回し始めるが、焼け石に水だ。
「私を倒さねば……お前達は、永遠に宇宙を彷徨うことになるぞ!」
ガンジーは考える。ブッシャリオンGのエネルギーは既に底をつきかけている。
「……クーカイ、アイツの注意を引いて、攻撃を誘導できるか」
秘話回線でガンジーはクーカイへ話しかける。
「出来なくはないが……何をする気だ」
「アイツの攻撃で軌道を変えて、地球へ帰んだよ」
「わかった。気は進まないが……それしかあるまい」
「一発勝負だ」
「今日でもう二発目だぞ」
「別の勝負だろ!」
「何をごちゃごちゃと話している!」
「来るよ!」
「……そうだな。こっちも行くぞ」
ガンジーは思う。クーカイ48号は死に場所を探しているのだと。仲間を失い、復讐に狩られ……己の身を焼きながら戦っているのだと。
「クーカイ48号!俺もお前もクーカイ星の民だ……せめて、俺の手で!」
「黙れ!裏切り者が!」
クーカイ48号が吠える。クーカイはガンジーの指示に従い、彼を挑発したのだ。
クーカイ48号がブッシャリオンGの巨体を跳ね飛ばす。
「……軌道にのったよ!」
ガラシャが叫ぶ。
「あばよ、クーカイ48号……仲間とは、あの世で仲良くやりな」
唯一使用可能な、ブッシャリオンG頭部の小型キャノン。Gキャノンがクーカイ48号の頭部を捉える。それは奇しくも、クーカイ13号にとどめを刺したのと同じ武装であった。
「ガンジー、せめて俺が」
「……ああ」
クーカイがトリガを引く。スペースクーカイ獣の頭部。露出したクーカイ48号の上半身目掛けてGキャノンが炸裂する。
クーカイ48号を失い、彼と融合したスペースクーカイ獣は燃え尽きるように沈黙した。ブッシャリオンGは地球の引力へ引かれ、ゆっくりと、しかし確実に重力の底へと落ちていく。
「これで……終わったんだな」
「あぁ……終わったんだ」
クーカイ星人との戦いは終わった。だが……クーカイは思うのだ。
あれは、未来の地球人の姿だったのではないかと。徳エネルギーを人が使い続ける限り……いつか、自分達クーカイ星人等と同じ道を歩んでしまうのではないかと。
「なぁ……俺達は、ああはならないよな」
「あ?当たり前だろ。俺はまだ坊主になる気はねぇぞ。クーカイ星人ってハゲやすいのか?」
「……そういう意味じゃないと思う」
相棒の返事を聞き、クーカイは笑った。もしそうなるとしても、それは遥かに先のことだ。今はただ、明日を生きられることを喜ぼう。そして、二つの故郷の未来のために祈ろう。
旅立った時と寸分変わらぬ青い星が、眼下に近付いて来る。そしてこれからも、彼等とブッシャリオンの……ブッシャリオンGの戦いは続いていくだろう。
(地球の上空を仰向けにゆっくりと流れるブッシャリオンGを映し出しながら流れ始めるEDロール)
▲おわり▲
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