第9話 貨物運搬にて

その車(ハイエース)は壊れていた。

ドアの開閉に難があり、私と先輩は、互いに注意しあい車検までだましだましで使っていたのだ。

今にも取れそうなドア、一応 工場長には報告したのだが、車検までなんとかもたせてほしいとのことであった。


「桜雪クン大丈夫だった?」

「あぁ、でも乗ってて怖いんですよね、後ろのドア、ずっとカタカタいってますから、荷物落とすんじゃないかって」

「そうだよな、俺がもう一度、工場長に言ってみるか」


そんな会話をしていると、私の上司が

「桜雪クン、車の鍵、貸して」

「はい」

「上司さん、気を付けてくださいね、ドア……バンッと勢いよく閉めたら外れますよ」

「解ってるよ、大丈夫、大丈夫」


上司はトラブルメーカーである。


先輩も私も言葉には出さなかったが、嫌な予感はしていたのだ。


案の定、走行中にドアを落としたのである。


幸い事故にはならなかったが、車は随分と風通しのよいフォルムに変わって帰ってきた。


上司は無言で車から降り、工場長のもとへ、部屋から怒号が洩れてくる。


「だから言ったのに……」

「みんなで注意していたのにね」

「でも、やるとしたら、上司さんだと思ってましたよ」

うんうん。


みんながそんなことを言っていた。

結果的に、廃車寸前なのにドア修理費を計上。

その数週間後に新車納車となり、修理分は予算枠オーバーである。


皮肉なのは、予算管理は上司の仕事である。

自分の壊した車の修理費の書類を自分で作成し、自分で認印を押し、工場長へ最終印を貰うのである。

自身の始末書と一緒に提出する、みっともなさは推して知るべし。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る