第5話 教室にて

小学校の同級生で「かっこつけ」と嫌われている男子がいた。

別に悪いヤツではないし、苛められているわけでもない。

ただ、言動や行動が受けつけられないタイプの男子である。


成績 中の中

運動神経 上の下

といった感じだろうか。


ある日の朝会での出来事である。


「先日おこなった蟯虫ぎょうちゅう検査だが、クラスに一人引っかかった人がいました、後で保健室にいってください」

ざわつく教室。

誰だ?誰だ?

「えぇ、誰かは言いません。後でその生徒だけに伝えます」

「先生、誰か教えてください」

「教えられません」

「嫌なんですよ!そんなばい菌みたいのと授業受けたり、給食食べるの」

「そういうことを言う人がいるから教えないんです」

「勘弁してくれよ!教えろ!お~しえろ!お~しえろ!」

クラスメートを煽るのは「かっこつけ」である。

ざわつくクラス。

「移るの?ソレって……なんか嫌だ」

みんな、自分じゃないよな?半信半疑で、ちょっと泣く女子も出始めた。


その間、机に立って、教えろコールの1部生徒、その中心の「かっこつけ」。


「うるさい!」

先生が一喝する。

一瞬黙る生徒だが、「かっこつけ」だけは黙らない。

「お~しえろ!お~しえろ!」

「うるさい!その一人はお前だ!」

先生が指さしたのは……「かっこつけ」である。

教室が一気に静かになる。

机に立ったままフリーズする「かっこつけ」。


「放課後、保健室に行きなさい、授業を始めます」


1限目の休み時間で、同学年全員が知ることとなる驚愕の事実。

「かっこつけ」改め「ぎょうちゅう」にあだ名が変わったのは昼休みくらいからである。


私はあの時の「かっこつけ」の表情を生涯忘れることはないであろう。

たとえ本人が忘れてもだ。


『File No5 気遣いに気づかないナルシスト』

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