第4話 近所の公園にて

小学生の頃、近所に同級生がいた。

よく公園で遊んだりしていたのだが、その子は家庭環境が複雑で、そのせいかよくウソをつく子供であった。

ウソというと少し違うかもしれない。

ホラというとしっくりくる。


「僕のお父さんはパイロット」

「ファミコンソフトは全部持っている」


こんなことなどでは驚かない。


ある日、遊んでいると突然

「伏せろ!」

と言って歩道に伏せるその子。

私が、どうしたのか尋ねると

「手裏剣だ!」

「えっ?どこにも見えないよ」

「光手裏剣だ!」

「ひかり?」

「早すぎて見えないんだ、僕といると危険だ!電柱の陰に隠れて!早く!」

彼は、電柱に身を潜めながら、あるいは道路で前転しながら進んでいく。

なんか、投げつけたようなポージングの後

「もう大丈夫だ!出てきていいよ」

「大丈夫か?」

(色んな意味で……)

「あぁ、先週から忍者学校に通っているんだ、僕はエリートでね、他の生徒から狙われているってわけさ」

「忍者学校?どこにあるの?」

「それは言えない、自分で探さなくてはいけないんだ、見つけたものだけが通える学校さ」

「そうか……」


こんな調子で奇行が多いのだ。

成績は悪くない。

運動神経は良くない。


その子は母親の再婚で転校するまで、よく遊んだ。

中学校になると、再び同じ学校に通うことになったが、クラスが一緒になることもなく遊ぶこともなくなっていた。


卒業の日、その子と交わした会話

「俺、ジャニーズにはいるんだ……」

「そうか……」

(変わってないんだな……)


それから2年

たまたま入ったコンビニで、レジを打つその子の姿。

「おう……久しぶり!」

向こうから声を掛けてきた。

(ジャニーズ……)

「お、おう……どうしてた?」

「あぁ、オーディション落ちてさ……」

(受かる前提で上京したのか……自信過剰だな)

「他の事務所も受けたんだけど……ダメでね」

(ポジティブだな、相変わらず)

「とりあえず帰ってきたんだ、先月……」

「どうするんだ?高校も行ってないんだろ?」

「うん、今は何も考えてない……」

(忍者学校、開校したらどうだろうか……)

言いかけたが、そんな雰囲気ではないくらいの悲壮感だった。


『File No4 ジョブチェンジに失敗した狼少年』

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