第16話 事務所にて

転職者が入社してきた。

もともと違う部署での採用であったのだが、上司が彼を気に入り自分の部署に転属させたのだ。

私より一回り上で礼儀正しい。

誰にでも敬語で接し、黙々と仕事に従事していた……ように見えた。


ある日……彼のミスで業務が停止する事態に陥る。


誰も怒ってはいなかった。

「まぁ、こういうこともあるよ」

というのが大半の捉え方であり、私もフォローにあたっていたのだ。

すると、先輩が転職者に

「皆が、フォローしてくれてんだから、一言くらい謝れないの?」

と若干キツイ口調で一言…。


「……私のせいですか?」

転職者の言い分としては、チェックを怠った上司の責任だと言い始めた。

そこで、先輩と口論になったのだ。


その翌日……転職者は出社しなかった…。

無断欠勤である。


そこから、2週間…無断欠勤したのだ。

「いいかげん、連絡しろよ!」

先輩が上司と口論になる。


もともとの配属先からは

「あんないい人が、こんなことをするなんて…よっぽどヒドイ扱いを受けたんじゃないの?」

他部署では1週間しかいなかったわけで、本質は見えなかったようです。


私見だが…転職者の仕事はいい加減なものであった。

もともとだらしのない人なんだな、と思っていたのだが、だらしがないのではなく、やる気がないのだ。

その手抜きぶりは、無断欠勤中に明らかになるわけだ。


(これじゃ、失敗があろうと無かろうと、いずれ出社できなくなるわ~)


その日、事務所に来客が

「息子がお世話になっております。忘れ物を届けに参りました」

転職者のお父さんである。

「あっ?はぁ…」

対応に困る事務員。

上司が呼ばれて会議室へ…。


事務所を出た、お父さん。

「申し訳ありませんでした」


なんだか自主退職になったそうです。


私物は宅急便で送れとのメールが届いたようで、上司が片づけてました。

あのあと、だいぶ皆から責められてましたから。

自分の部署からは

「だから、あの人はダメだって報告してましたよね」

他部署からは

「自分で無理やり引き抜いて、教育もできないのか」


よく溢れてる話ですが、実際に目の当りにするとは……。

本当にいるんですよ、こういう人。

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