第10話 会議室にて

「売り上げが伸びているのは喜ばしい状況ですが、人件費、および消耗品費の増大が、利益を圧迫しているわけで、現場に置かれましては、残業時間の短縮、作業の見直しを再度、お願いします」


経営企画会議の真っ最中。


上司と私が参加している、結構重要な位置づけの会議である。


その会議の途中


「上司さん、お電話です」

総務から電話が会議室に転送される。

「今、会議中だよ!後にしてくれる!」

電話で総務に怒鳴る上司。

雑音入れんな!といった口調だ。

「えっ?どこから?あっ……そう……2番ね」

(出るのか?急用か?)

「あっ、はい、お世話になっております……えっ?はい?水が!……ええ、えぇ……」


会議が中断しているわけだが、一向に電話を切る気配がない。

「桜雪クン、構わないから続けたまえ」

「はい……よって、来月以降の生産計画を営業部と納期順に見直し、作業時間の平準化を図り、各種経費を抑えることで、初めて利益の増加が見込めるわけで、コレは私が作成した案ですが、1度検討していただけませんでしょうか」


会議メンバーに背を向け、その背中を丸くして、受話器を押さえながら、小声で謝っている上司……時折、電話の向こうから漏れてくる怒号と、上司の謝る声。

正直、邪魔である。

(雑音は、お前だよ!)


「はい、申し訳ありません!すぐ謝罪に伺いますので、はい、はい」

(本当に何が起きたんだ……2番って外線だよな~)


電話を切って、上司が工場長に耳打ちしている、工場長は右手で追い払うように無言で『出ていけ』と上司に促す。

頭を下げて退室する上司。


会議が終わって、工場長が私に声を掛けた

「すまなかったな、でも会議はよかったぞ、営業は押し込むばかりだからな……」

「ありがとうございます、ところで……上司さんはどうされたんでしょうか?」

「……あぁ、アイツはアパートで風呂の水を出しっぱなしにしていたみたいで、下の階に浸水させたみたい……下の住人から文句が入った管理会社の大家が合鍵で入ったら、部屋中水浸しらしいよ」

「で、慌てて帰ったんですか……」

「はぁ~、まったくだらしがないんだよ、アイツは普段から……頭は悪くないんだがな~」


「桜雪クン、上司のヤツ、顔色変えて帰ったけど、なにがあったの?」

先輩が聞いてきた……。

「実は……ということがあって……」

「リフォーム代とか大変そうですよね……」

「下の階の人も災難だよな」

「近所にいてほしくない人ですよね」

「絶対ね……」

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