第13話 残業時間にて

主査さん、転勤してきてから1年が過ぎようとしていた。

ど天然が積み重なって、色々なところから文句が工場長のところへ上がっていたのだ。

「桜雪、ちょっと」

工場長に呼ばれたのである。

「主査さん、どうなんだ?」

「いい人なんですけどね~」

「お前もだいぶ、残業も休日出勤も増えているみたいだしな」

「あぁ、まぁ俺はいいんですけどね~」

「いや~主査さんの仕事、遅れてるからさ」

「夏休みに3日ほど休日出勤して、主査さんの仕事手伝いますよ」

「そうか、まぁ頼むわ、俺も出勤するからさ」

「はい」


そして夏休み。

「おはようございます」

「おう、悪いな」

「主査さん、まだですか?」

「うん」


1時間経っても来ないので工場長がイライラしだした。

「あぁ、電話してみますね」

「頼む」


「主査さん……仕事はじめてるんですけど……えっ?東京に戻ってる?昨日の夜行バスで戻ったんですか?いや、工場長から遅れてる仕事、3人でやろうって決めたじゃないですか……」

「貸せ!」

工場長が受話器を取り上げる。

「どういうつもりですか!桜雪、休日返上で手伝ってくれるって言ってくれたから……ゴメンじゃねぇよ!」


結局、工場長を雑用に使い、私がデータ整理からやり直して仕上げたのである。

夏休み5日間返上でした。


夏季休暇明け……。

「おはよう」

「じゃねぇよ!」

朝から会議室に怒号が響く。

2時間経っても、説教は終わらなかった。

断わっておくが、主査59歳 工場長47歳 私38歳 である。


「ちょっと……ちょっと待ってくれる……お水を……お水を飲んできていいでしょうか?」

主査が工場長の説教を両手で遮った。

「あぁ、どうぞ!」

会議室から退室する主査。

「俺たちも、休むか?」

「はい」

10分ほどして会議室に戻ると、主査がちょこんと座っていた。

「だから、本当にどういうつもりなの!あなたは桜雪の教育係で転勤してきたんじゃないんですか?」

主査は無言で下を向いている。

口をモゴモゴ動かしているのは解るのだが、何かブツブツ言ってるような……。

「なに?なんか言いたいの?」

主査がクビを横に振る、下を向いたまま。

「もういいです……仕事に戻ってください」

工場長がそう言うと、顔を上げて

「じゃあ」

と右手を上げてニコッと笑う。

「あんたなぁ!」

工場長が主査に詰め寄ると、ボトッと何かが落ちた。

お菓子の袋……。

主査、説教の最中にお菓子を食っていたのだ。

下を向いていたのは、お菓子を食べるためであった。

「いや、お腹空いたから……食べる?」

とお菓子を差し出した。


「ということがあってさ~」

「マジですか?」

「うん、でコレが貰ったお菓子」

「ウケる」

お菓子の袋をピリッと開ける……ボロボロッと砕けたクッキーが服にこぼれた。

「……砕けてましたね」

「うん、やっぱり俺、嫌われてるかもしれない」

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