第8話 廃材置き場にて

私が、工場で務め始めたころの話である。

私は、事務職での入社だったので、現場とは無関係であった。

主な仕事は、資材の調達やコスト管理であった。

その仕事のひとつに、廃材の換金があったのだ。

アルミや銅といった廃材を貯めておいて、一定量で買い取ってもらうのである。

相場もあるので、出来るだけ高いときに換金したいわけで、まぁ相場を眺めつつ廃材置き場に時折、様子を見に行っていたのだ。


務めて何年かすると、大体、何がどのくらい、貯まっているか解るようになる。

しかし、どうも、私が思うより溜りが悪いのだ。


当然、相場を眺めつつなので、価値の上がっているときに確認にいくのだ。

貯まっていない……。

工場長に報告にいくと、現場の担当者に確認してくれた。

どうも、定期的に廃材置き場へ移動させているとのことだ。


まぁ、感覚的なものなので、確証はないが、どうにも腑に落ちない。


そこそこのお金になるので、工場長の許可を取って、退社後、不定期に資材置き場に見回りに行くことにした。


何日か後、廃材が貯まってきたのを確認したので、集中的に張り込んでいた。


泥棒を疑っていたのだ。

当時、銅が高値で取引されている頃で、TVでも窃盗が問題になっていたころだ。


薄暗くなってきたころ、1台の車が資材置き場に停まった。

(やはり内部犯か……)


私は、あえて自分のチームメンバーに今日は定時で真っ直ぐ帰ると伝えていたのだ。

内部犯を疑っていたので、カマをかけたのである。

案の定、やってきた……自分の上司が……。

(お前かよ……)


録画して、翌日、工場長へ報告。

上司が呼ばれ、退室後、私が呼ばれた。

「内密に……」

との口止めをされた。


上司は、その後、何か月かして

「50を過ぎて、お恥ずかしいのですが、どうしても諦められない夢があります」

と言い、退職した。


(夢とは……何ぞや?)


その後、上司の姿を見かけたのだが、コンビニで店長の許可を貰い、空き缶を集めていた。


50過ぎても追いかけたい夢とは、何だったのか?

聞いてみたかったが、あの姿を見て、話しかける勇気は無かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る