第四回 和弓を描く時の注意点。

 弓道というのはビジュアル的にそそる要素があるようで、「弓を持つ女性の絵」を結構拝見します。

 しかしながら、ここでいきなり喧嘩を売ります。


 巷に流れている和弓の絵の九割近くは、間違っています。


 以下、せめてこれだけはやってくれるな、という点だけを説明して参りますので、ご注意下さいませ。


 < 和弓の握りは中央にはない >


 最もありがちな間違いなのですが、和弓の握りは弓の中央部分にはありません。厳密には違いますが、上からだいたい三分の二の位置にあります。

 下の方が短いのは、馬上で弓を引いた騎馬民族の名残であると言われておりますが、これはかなり恥ずかしい間違いなので、是非やめて頂きたい。

 何も資料を見ずに描いたことがバレます。『艦これ』の赤城さんや加賀さんぐらいはまともに描いてあげましょう。


 < 和弓は舟底型ではない >


 これもよくある間違いです。和弓は舟底や太鼓橋のような弧ではなく、大きく分けて三つの反りを持っています。


 上部の大きな外側への反り。

 握り部分の内側への反り。

 下部分の外側への反り。


 厳密にはもっと細かく分かれており、それぞれの反りに優美な名がつけられておりますが、ここでは触れません。少なくともこの三点の反りがなければ和弓とは言えないのです。

 しかも、この三つの反りを表現している絵でも、大半が握り部分の内側への反りが大きすぎて、見事にバランスを崩しております。

 握り部分の反りが強すぎる弓は『胴が抜けている』と言われて、弓道愛好家が最も嫌う弓の形です。

 反りが大きすぎるということは、弓のその部分の力が弱くなっていて過剰に湾曲していることを表しています。

 バランスを崩した弓でも中ることはありますが、他の射手から「こいつ、弓の手入れの仕方も知らないのか」と馬鹿にされます。

 ネットで画像が手に入る時代ですから、是非この反りについてはこだわって頂きたいと思います。


 < 弦の高さがおかしい >


 これはまあ、知らなくても仕方のないレベルになりますが、大抵の絵は弦の高さ(引いていない状態での弓との距離)が低すぎるように思います。

 適切な高さですが、


 ここで皆様、いわゆるサムズアップ(親指を立てて、他の指を握り込んだ状態)をして頂けますでしょうか。


 グッドです。

 実はそれがそのまま適切な弦の高さになります。射手により微妙に違いはありますが、それぐらいの高さで表現して頂ければ間違いはございません。


 < 和弓は短いものでも二メートルを超えます >


 これも仕方のないことですが、短すぎる弓を見受けます。

 普通に使われている弓には、『並寸なみすん』と『伸寸のびすん』という二つの長さがあり、並寸は七尺三寸、伸寸は七尺五寸です。


 はい、何でしょう?

「尺とか寸とか言われても、どのくらいの長さか全然分からん」ですか?

 まあ、そうですね。

 厳密には違いますが、単純に三をかけて下さい。それでセンチメートルに換算できます。


 つまり、並寸の場合は「七尺三寸=約二百二十一センチメートル」、伸寸の場合は「七尺五寸=約二百二十七センチメートル」ですね。

 どちらを使用するかは、射手の身長と用いる矢の長さによって決まります。場合によっては四寸伸(七尺七寸、約二百三十三センチメートル)というものも使われます。


 弓とは関係ありませんが、ということは一寸法師は「身長三センチメートル」です。

 思ったよりも結構小さい。これならお椀に乗れそうです。


 ( 第四回 終り )

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