おきつねさま in Space

碌星らせん

序章「おきつねさま対ブルドーザー」

 妾はおきつねさまである。名前は……昔はあったが、もう忘れてしもうた。

 一頃は人を襲ったり(色んな意味で)食べたり(色んな意味で)随分とやんちゃをしておったが、少し前からは大きな家の社に落ち着いていてな。

 放っておけばお狐さまお狐さまと敬われ、毎日二回油揚げが上げ膳据え膳。今風の言葉で言うなら、『にいと』と言うのが近いやもしれぬ。

 いや、一応は働いておった。よからぬ気配を感じれば手を尽くして伝えてやったし、穢れがあれば祓うてやった。こう、『まじかる』な感じで。

 ……まぁ、どちらかといえば妾の快適自宅生活を守るついでじゃったが、それでも信仰はあったし、妾も満足しておった。


 しかし、その暮らしも長くは続かんかった。戦争に負けて時代が変わった、とそのときのあるじはこぼしておった。すまんすまんと謝られたが、謝りたいのは妾のほうじゃったよ。人の世はままならぬものじゃ。

 とにかく家は滅びて、屋敷は人手に渡った。しばらくは住む者もおらんで、荒れ果てておった。妾はほとんど眠っておったがな。信仰が無ければ力も続かぬ。神とは、そうしたものなのじゃよ。

 まぁ、食っちゃ寝の食らう部分がのうなっただけで、大して変わらんかった。問題なのは、その後に来た地上げじゃった。

 ……ああ、空港を作るとかぬかしおっての。空を飛ぶ鉄の塊の巣なんじゃと。

 妾に断りも入れず、屋敷は壊すわ庭は荒らすわ。挙句、妾を退かそうととしおった。人の子とて、引っ越しの手間賃を弾んで移り住めと言われるのと、着の身着のまま放り出されるのとは大違いじゃろうに。

 流石に頭にきてな。ちょいとな、悪さをしてやった。まぁ、死人は確か出んかったから、安心せい。工事の会社の屋根の上で踊ったりとか、その程度よの。


 それでも、結局最後は退かねばならなくなってなぁ。神主に新しい社付きで頼まれては流石に無碍にできんよ。いや……目が血走った現場監督にブルドーザーで脅されたとか、そういうのはないんじゃよ?ほんとじゃよ?

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