第5話「おきつねさまと惑星間旅行」

 ふと、肌寒うなるような悪寒で、目を覚ましての。冷蔵庫が幾ら小突いても起きんから、妾は『船』の外に頭を出しとった。

 社から離れられんだけで、ちょっと頑張れば動き回れるんじゃよ。二~三丈くらいかの。それ以上は疲れるでな。

 耳の先っちょを外へ出すと、何も感じんかった。後で冷蔵庫に聞いたんじゃが、空気が無いんじゃな。息ができないんじゃと。それで、恐る恐る頭だけ出してな。ぐるっと見回してみたんじゃ。

 何か見つかると思ったんじゃが、どこを見ても、星しかのうてな。それで、急に怖くなった。

 長い長い、幾百年ももとせの生で。ふと、夜空を見上げたことは幾度もあったと思う。人の子らは星空に悠久を見るというが、妾の見上げた空は、いつも違うとった。

 深い森の中から見上げる空。

 田んぼの真ん中から見上げる空。

 母屋の隣で見上げる空。

 人の光で、よう見えんようになった空。

 海の向こうに見える空。

 今見えよる空は、やはりどれとも違う。何処を見ても、星しか見えん。地面も、月も見えん。陽の光さえも遠くなってしもうた。

「妾、宇宙に居るんじゃなぁ……」

 そこで、ようやく。そんなことを思ったんじゃよ。

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