第4話「おきつねさまとマスドライバー」

「やめるんじゃ……その総統とやらは……一体何なんじ……ふがっ!?」

 随分と、長い間眠っていたような気がしとったが。なにやら悪い夢を見とったような、国を傾かせる夢だったような。そんな不思議な心持ちは、天地を返すよな揺れでたちまち吹き飛びよった。

「地揺れかや!?」

『現在、私達は3Gの加速で月周回軌道を経由し、ホーマン遷移軌道へと遷移中です。2年11ヶ月と16日ぶりですね、おはようございます』

「何事なんじゃ」

 妾の眠っとったのは、思うたよりも短い時だったようじゃった。目の前には、眠りについた時と変わらぬ冷蔵庫がおったからの。相変わらず、言うことはようわからんのが悩みの種よな。

『これから私達は一時的に惑星になります』

「確か、太陽の眷属じゃろ」

 前に、しつこく聞かされたからの。それは、よう覚えとった。

『おおむね正解です。正確には、太陽に限った話ではないのですが』

「それはもうよかろ」

 太陽といえば、天照大神の管轄。妾のような狐系との間柄は、中々複雑なんじゃが。まぁ、妾にはそういう機微はようわからん。

「一時とはいえ眷属になるのは、どうなのかのぅ」

 と言うても、わからんなりに気掛かりではあるのじゃが。

『その理屈だと、月は太陽の眷属の眷属になりますよ?』

「それはそれでややこしぃのぅ……」

『古い神話の方が、私はややこしいと思うのですが』

 そうこうしとるうちに、揺れはおさまっとった。

『加速が終了したようですね。ここから木星までは、また数年かかりますよ』

「気長な旅じゃな」

『これは序の口ですよ』

 妾がやんちゃしとった時代はまだ、旅に時間が掛かるのは当たり前のことじゃった。数年、あるいは十年以上。徒歩で国中を歩いて廻った者もおったと聞く。

 ……じゃが。空を飛び、その先に飛び出し。いつの間にやら、あのような船まで作るようになっとった人の子が、そこまで時間をかけて何処へ行こうとしとるのか。

 妾にはもう、想像もつかん。

『私も、月と違って電力が豊富ではないので休眠状態に入ります。それでは、よい旅を』

 冷蔵庫は、それだけ言うて返事をせんようになった。妾はまたしばらく、一人になった。

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