第6話「おきつねさまと雷の星」
もう、何年か、何ヶ月か、それとも何十年何百年か。『なにもない』時間が続いとった。静かで、暗くて。時たま、冷蔵庫の小さな灯りがチカチカしよる他には、何ものうて。
……一度、狐火を焚いてみたら、大騒ぎになったんじゃが、その話は置いとこうかの。
まぁ、そんな時間が、ずいぶんと長く続いた後のことじゃった。
ピー
『対惑星速度、59000m/sアンダー。軌道確定。引力圏内です。『アルファ』
「壊れてしもうたのかのぅ?」
急にようわからんことを喋りだした冷蔵庫を、試しにぱんぱん、と叩いてみたんじゃがの。
『壊れていません。お久しぶりですが、外を見てください。まぁ、見られればの話ですけど』
「外……?なんぞあるのかのぅ?」
妾は船の外に、ひょいと顔を出してみた。その途端、『目』が合っての。ぎょっとして慌てて首を引っ込めて、船の中に戻ったんじゃよ。
「目が!でかい目が!こっちを!な、なんじゃありゃああ!」
『大赤斑ですね。あれは、木星。またの名をジュピター。この太陽系で最大の惑星です。惑星の説明はご入り用ですか?』
「要らんわ。じゃが、此処は一体……」
『ですから、木星軌道上です。地球からの距離は、約8億キロ、地球の赤道半径約2万周分です』
「にまん……」
想像を超えとった。
『ランデブーに時間がかかりますけど、あと少しで着きますよ?』
「彼処に降りるのかや?」
『そんなことしたら、ぺちゃんこですよ?』
「ぺちゃんこ……?」
『私達の目的地は、木星の衛星です。小さな星ですよ。この船の今の座標だと……私の方を向いたまま外に出て、右斜め後ろ下あたりですね』
言われた通り、外に目を凝らすと。其処には、歪な形の星が幾つもあった。
なんか、じゃがいもみたいだったんじゃが、その中の、大きなものに。なにやら人の手のようなものが覆い被さるようにくっついておった。妾は、前にそれを見たことがあった。妾達が乗るとかいう、あの船。
「……星が、食われとる……」
星から、船が生えとるようにも見える。じゃが、星を覆うように作られる有様は。食われとるようにしか思えんかった。
『最終工程では、木星の衛星アマルテアを潰して建造するんです。私達の行路の間に、それなりに進捗があったみたいですね』
こんなものは。あんなものは。神の御業ですらありはせぬ。
神は、見守るもの。神話の御代とて、
少なくとも、妾の知る限りにおいてはじゃがの。
「人の子らは、ほんに何処へ行こうとしとるんかのぅ……」
『別の恒星系です』
「いや、そういう意味ではなくての」
『……私の基礎デザインを行った人間が、言っていました。地に満ち、天へと昇る。傲慢であろうとも、それは人の性なのだと』
「妾なんかは、日のあたる静かな社とかで、ゴロゴロしてたいんじゃがのぅ……」
嘘偽りない本心じゃった。今でも、そう思うとる。
『諦めてください。此処はもう、人類の最先端なんですから』
それに対して、冷蔵庫は。生意気にもそんなことを言うとった。
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