終章「創世神話」

「……こうして。船は2つに割れ、人は耳のあるものと耳のないものに別れてしまいました」

 暖炉の前で寝転ぶ幼い娘に、母は語る。

「耳のあるものたちの乗る船は、やがてこの星へと辿り着きました。それが、お月さまになったということです」

「……耳のないひとは、どうなったの?」

 幼い娘が、狐耳をひくひく動かしながら母親に尋ねる。

「……それはきっと、もうすぐわかるわ」

 母親は娘の頭を優しく撫で、空を見上げる。

 夜空に浮かぶのは、半月型の船。遥か昔。見かけの通り『半月』と呼ばれる、神話の時代に『誰か』が作った遺物(オーパーツ)。

「それが、耳のない人と。最初の『おきつねさま』との約束だから」

 そして、闇夜に紛れて光る、月へ掛かる梯子(ムーンレイカー)。衛星軌道までのびる、ながいながいきつねのエレベーター。

 遠い約束なんてものは、もしかすると口実に過ぎないのかもしれない。

 ただ、この広い空の下で。自分達が独りではないと信じたい。それが、真実の動機なのかもしれない。


 人も狐も。結局のところ、なのじゃろうて。

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