序章2「おきつねさまと飛行機」
そんなこんなで引っ越しをすることになったわけじゃがの、新天地は実は意外と近所だったんじゃなこれが。数百めえとるくらいずれただけじゃった。
祠は新品、供え物は米と塩と水が毎日。難点はすぐ近くが滑走路なことぐらいで、耳がもげるかと思うたわ。まぁ、そこでも色々なことがあったのう。
空飛ぶ鉄の塊……ひこうきというそうじゃが。それに何か起こる度に恐れられたり避けられたり。安全祈願に毎日詣でに来る人間もおったよ。
それでも力も前ほどはなくてな。妾にできるのは、ただ見守ることだけじゃった。そうして日々をすごすうち、目の前を飛んで行く『ひこうき』に妙なものが混じりはじめたんじゃな、これが。
えーと……たしか、『えすえすてぃーおー』とか『すぺーすぷれーん』とか、そんな名前じゃったか?なんでも星の世界まで行くんじゃと。ちょっと形が狐っぽくて、なかなかいけておった。
星の世界まで行くひこうきが飛ぶ時代になっても、妾の待遇は相変わらずでの。むしろ供え物のくおりてぃがちょびっとずつ下がっていったようないないような。
妾がおきつねさまだということも忘れられはじめたのか、ちょこれーととかカレールーとかそんなものまで奉納されておる始末でな。殺す気か。死なんけど。何よりも、ちょこれーとだと思って齧ったらカレールーだったのが一番のショックじゃったな……
まぁ、ひこうきを眺める生活にもそろそろ飽きてきた頃じゃった。屋敷の時と違うて、眠ろうにも煩くて眠れんかったしの。
あの晩のことは、今でもよう覚えとる。夜中にやたらと位の高そうな神職の男が訪ねてきての。船にな、乗らんかと言われたんじゃ。
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「はて、船……?」
「実は、宇宙港の拡張計画にこの社の敷地が含まれておりまして」
「また引っ越しかや」
まぁ、こんな感じのやり取りじゃった。実際には確かもっと七面倒な言い回しじゃったが、でぃふぉるめというやつじゃ。
「それなのですが、次に社を用意できるのはこちらになっております」
「……なんじゃこれは」
引越し先は埋め立て地の先っぽじゃった。あーるぴーじーなら隠しアイテムがあるくらいの僻地じゃな。……いや、げぇむ機の供え物もあったんじゃよ、昔。
「これでは誰も来れんではないか」
「ですから、こちらにお遷り頂くか、今度新しくできる船に乗って頂くかということになっておりまして」
「船……」
妾は考えた。誰も来ない社で余生を過ごすのと、船とやらに乗るのとどっちが良いか。
昔から、大きな船には神社があると聞く。しかしそういうのは大抵は海や旅の神ばかりで、狐の出番は一向に回ってこんかった。狐だけに。
「分け御霊とか、そういうのでのうて?」
「はい、お社を丸ごと」
社丸ごとということは、条件もさほど変わらぬということ。他に頼むものの無い海の上で、人の心の支えになる。そんな狐がおっても悪くはあるまい。
「構わんよ、船のほうで」
どうせ断っても無理矢理移されるしの。
数世紀経っても、ブルドーザーの恐怖は健在じゃった。あの時ほどの信仰の力も無かったからの。
「では……そのように」
じゃから、そこで妾はうっかり、どんな船かを聞くのをわすれておったんじゃ。
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