第35話

 女は引き金を引いた。

 距離は詰まっている。この一発さえ防ぎきれば、女に肉薄し、斬りつける事も可能だろう。

(もう一度、逸らす……!)

 弾丸が先程と同じく飛来した、その時。

 弾丸が軌道を変えた。

(しまった……!)

 一発目を防げたことで油断が生じた。先程はあくまで直進する弾丸だった。だから、軌道を読み取るのも容易かった。

 しかし、今度は違う。それを見越して軌道を曲げてきている。軌道が曲がっている分、捉えるのは一層難しい。

 あえて、真っ直ぐではなく迂回するように弾丸は連に迫る。まるで変化球のカーブの様な軌道で斜め左の方向から弾丸が迫る。曲がってはいるが、きちんと連とぶつかる様に軌道は調整されている。

 先程、撃たれた左肩はまだ回復しきっていない。この左手で弾丸を逸らすのは無理だ。

 加速する思考の中で連は考える。

 『鎧』を使うか? しかし、あの弾丸を防ぐほどの力はない事は直感で解った。それに、真横から飛んできている事で、視界に捉え辛く、『鎧』をどこから展開させればいいのか、判断が難しい。全面に展開するほどの時間はもうない。

 弾丸が肉薄する。

 どうする、どうする、どうする。

 だったら――――

「うおおおおおおおっ!」



――――避けられた

 時川文香は驚愕する。

 こいつは――本物だ

 時川は笑いを抑えきれなかった。

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