第2話

「知ってるか? 『白い少女』の噂」

 昼休みに入り、連のもとにやって来たのは一人の男子生徒。短い髪をワックスでカチカチに固めている。頭髪検査をされたら一発でアウトな髪型だ。

 その男子生徒の名前は友也。背が高く、がっしりとした体形で、典型的なお調子者だ。

「俺の机に腰掛けるな」

「堅い事言うなし。それより『白い少女』だ」

「知らん」

 連は菅もなく言い放った。

 連の机に腰掛けた男子生徒は気にした様子もなく、続ける。

「都市伝説『白い少女』。出会ったら、なんでも願いを一つ叶えてくれるらしいぞ」

「友也ー。何の話?」

 遥は連の机に近寄り、連に話しかける友也に尋ねる。

「『白い少女』の噂だぜ」

「ああ、聞いたことある。なんか透き通るようにまっ白い長ーい髪をした女の子って話でしょ?」

「そうそ。そんで白装束な」

「そんで目があったら死ぬって奴だ」

「え? 俺はあったら願いを叶えてくれるって聞いたぞ」

「え? あたしは会ったら死ぬって聞いたけどね」

「どっちにしても下らん噂話だ」

 連が一言で切り捨てる。

 その時、連はこちらを見ている一人の男子生徒に気がついた。連の斜め前の席。先程まで文庫本に目をやり、読書していたが、今はそっとこちらの様子を窺っていた。

「どうした、龍?」

 龍と呼ばれた生徒は名を呼ばれると、返事もせずに、こちらを見ていた目を逸らして、すぐに前に向き直った。

「おっ、龍君も『白い少女』の噂、知ってんの?」

 遥は素早い動作で龍の席の前に周り、今朝連の机にそうして居たようにしゃがんで寄りかかり、龍の目を見た。龍はすぐに目を逸らした。

「僕は知らない」

 龍は眼鏡をかけた小柄な男子生徒だ。これと言った特徴もない容姿だが、やや中性的な顔立ちをしている。男子としてはやや長めな髪型も手伝って、ともすれば女子に見えなくもない。

 連と遥と、そして龍は幼馴染だ。家同士が近く、小学校に上がる前はずっと三人でつるんでいた。小学校に入学してからも三人の交流は続いていた。その腐れ縁は中学、高校になっても続いた。

 しかし、中学の半ば頃から龍は二人とは疎遠になっていた。顔を合わせれば会話くらいはしたが、積極的に交流をしようとはしなかった。

 ここ最近は、それが一層酷くなり、クラスメイトでありながら会話する事は非常に稀になっていた。

「ねえねえ」

 遥も連もそんな現状を寂しく感じていたから、何か機会を見つける度に積極的に話しかけるようにしていた。しかし、返って来る反応はいつも冷たいものだった。

 龍は文庫本を閉じ、椅子から立ち上がると黙って教室を出ていった。

「なんだ、あいつ?」

 事情の解らない友也が純粋な疑問の声を上げる。

「はあ……なんでかねえ……」

 遥は、居なくなった龍の椅子に座って、机に顔を伏せた。

 連は、考えていた。

 龍は『白い少女』の話に反応したわけではなく、遥の方を見ていたような気がした。

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