第3話

 放課後、連は図書室で時間を潰した後、下駄箱のある昇降口に立っていた。私立高校だけの事はあって、それなりに綺麗な学校だ。木製の下駄箱は新品同様。足元のタイルには汚れ一つない。

 一人の女子生徒がそんな昇降口の様子をスケッチしていた。美術部員なのだろうか。その事に気付いて彼女のスケッチの邪魔にならない位置に移動する。

 その時、壁がガラス張りの渡り廊下からこちらへと向かう遥の姿を見とめる。

「お待たせー」

 遥は少し茶色がかったショートヘアの後ろ髪をゴムで縛っていた。連はそんな遥の髪型を見たのは初めてだった。

「珍しいな、その髪」

「へ?」

 連に指摘され、遥は自分の頭をまさぐる。

「うおっ、髪縛ったままだった! 焦ってたからか!」

「わざとじゃなかったのか」

「違う違う。普段練習中だけ縛ってんの。邪魔だし。うわあ、恥ず」

「別に縛っててもかまわんだろ?」

 連は純粋な疑問を呈する。

「あたしみたいなショートで縛ってもねえ。しかもめっちゃ無造作だったし」

「似合ってたけどな」

 遥は、ねっとりとした視線を連に送る。

「なんだ、その目は」

「まあ、一応褒め言葉として受け取っておきましょうかね」

「なんだそれは」

 女心は本当に解らない。

「さあ、さっさと帰りましょう」

 二人は学校を後にした。

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