第4話

 異変は遥を自宅まで送った直後の事だった。

(誰か居る……?)

 連は背後を振り返る。しかし、そこには誰の姿も見とめられなかった。

 遥と連と龍の家は、同じ町内にあった。今、連が居る学校のグラウンド程度の大きさの中央公園を挟んで、三つの家はある。だから、遥を家の前まで送った後は、この公園を突っ切るのが一番の近道だ。

 既に日は落ち、あたりは闇に満ちている。街灯の明かりに何かの虫が集っているのが見える。こんな時間帯に公園に居る人間は、多くはないだろう。

 その時、一陣の風が吹いた。最近はこんな突風がよく吹く。その風に思わず腕で顔を覆った瞬間の事だった。

「ぐっ!」

 連は前に向かって倒れていた。思わず腕をついて、四つん這いの姿勢になる。

(……なんだ?)

 背中に鈍い痛みを感じる。

 慌てて背後を振り返るが誰もいない。

 今、俺は背後に居た誰かに突き飛ばされなかったか?

 連は考える。

 しかし、現実的に考えてそれはありえない。なぜなら、周囲に隠れられるところなどどこにもないからだ。少し走れば木が生い茂る林がある。あそこまで行けば、確かにこの暗さだ。見失う事もあるかもしれない。しかし、今の一瞬で連に気付かれず、背後に近付き、一瞬であの木に隠れるなんて事が出来るとは到底思えなかった。

 連はゆっくりと立ち上がった。

 気味が悪い。

 嫌な予感がする。

 その時、連は足元に一枚の紙を見つける。女子がよく使うようなファンシーな柄のメモ用紙だ。デフォルメされたネコの絵がメモ用紙の背景にうっすらと見える。

 だが、そこに書かれていた内容はそのメモ用紙の可愛らしさに反したものだった。


『遥さんに近づくな』


「なんなんだよ……」

 流石にこの状況で、まったく関係ないメモが足元に落ちていたなどという事はないだろう。今、連を突き飛ばした犯人がこのメモを置いていったのだ。

 念の為、ハンカチでメモを拾い、ポケットにしまう。こんな物から指紋が取れるか解らないし、状況が状況だけに証拠になるかも微妙なところだが。

 そして、その直後に気がつく。


 このメモはどうして風に飛ばされなかったんだ?


 突風そのものは収まっていたとはいえ、今も強い風がざわざわと木々を揺らしている。何の重しもなく、こんな紙切れ一枚が地面に張り付いている筈がないのだ。


 いつの間にか誰かの気配は消えていた。

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