第7話

 その日の帰り道、昨日と同じく遥を家まで送り届けた直後の事だった。

(やはり誰かいる……)

 昨日と同じ公園だ。辺りはもう暗い。

 昨日と今日の帰り道、遥はずっとそわそわしていた。尋ねると「なんでもない」と答えたが、きっとこの視線をずっと感じていたのだ。遥と別れた今、その視線が連の方に注がれている。

(でも、どこから……)

 やはり、あたりを見回しても隠れられそうな場所は見つからない。強いて言うなら向こうの茂みだが、そちらとは違う方向から視線を感じる。

 そして、もっと近く、すぐ目の前に誰かが居るような気がする。

 もちろん、目の前には誰の影もない。

 しかし、居る。そう思えた。

 風呂場で頭を洗っている時に、背後に誰かが居るのではないかという思いに取りつかれる事がある。実際には誰も居ないのだとしても、頭を洗っている時に、背後を確認するのは困難だから、そんな思いに取りつかれるのだ。

 今の状況はそれに似ていた。

 目で確認できない存在。そんなものが居るのではないかという思いが強くなった為に、こんな不安を抱くのだ。

 昨日の事を思い出す。

 一枚のメモが忽然と現れた。


 あのメモは何故か風で飛ばされなかった。


 あれは、あのメモを抑えていたが居たのではないだろうか。


 そう考えれば、一応辻褄は合う。


 もちろん、そんなオカルトを本気で信じていたわけではない。しかし、それ以外にこの奇妙な感覚と現象を説明する方法を連は思い付かなかった。

(だったら……)

 連は息を吸い込む。今からやろうとしている事が恥ずかしい事だという自覚くらいはある。いくら『正義の味方』でも羞恥心くらいある。

 でも、現状これしか策は思い付かない。

 何もなかったらそれで御の字だ。

 改めて、息を吸い、呼吸を整え、あくまでも自信満々に見える表情を作って、言う。

「居るんだろ? 見えてるぜ」

 もちろん、ハッタリだった。

 これで何もなかったら恥ずかしい事この上ない。何しろ、誰も居ない空間に向かって「居るんだろ」である。

 表情を崩さない様に注意しながらも、

(流石に透明人間なんて)

 と考えた次の瞬間。

「!」

 とっさに反応できたのは、僥倖という他ない。

 ゴンッ

 鈍い金属音が、ほとんど本能で飛びずさった連の足元に響いた。

 そして、その音のした場所を見れば、土の地面が少し抉れていた。

 つまり、何者かが固い金属でその場所を殴打したのだ。

 もし、咄嗟に後ろに跳びずさらなければ、殴られていたのは自分だった。

 瞬間、一気に汗が噴き出る。全身の毛穴が一斉に開いたようだった。肌が粟立ち、悪寒が全身を駆け巡る。


 居るのだ。


 目の前に。


 ――――透明人間が

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