第22話
「占い客じゃないならいいや」と急に相好を崩した男は、執事にカーテンを開けさせ、電気をつけさせた。そして、無造作に豪華なローブを脱ぎ捨てる。
そうやって現れたのは、意外なまでに普通の男だった。
歳は連達よりも上だろうが三十を超えているという事はないだろう。意外なまでに若い。もっと厳めしい老人を想像していたから。
容姿自体もその辺に居そうな普通の男だった。大学生と言えば、通るかもしれない。そんな男だった。
ローブの下に来ていた服装も灰色のワイシャツにチノパンという当たり障りのないものだった。
「まあ、楽にしたまえ。座るのはサービスにしておこう」
そう言われて、男の前にあるふかふかのソファに二人で座る。
「私の名は、笹賀原豪翔。ようこそ、日野川連、簾藤紀里」
どうやって名前を知ったのか。
隣に居る紀里に目をやると不安そうな表情を浮かべている。
連はどうにも態度を決めかねた。とりあえず、この笹賀原という男を見極めようと考えた。
「超能力者って何のことですか」
とりあえず、惚けて様子を見てみる。
「私に、その類の駆け引きは通用しないぞ」
まるで心を見透かされた様な一言。
この男、マキナの様に心が読めるのだろうか。
ならば名前を読み取るくらいは造作もないだろう。
「どうやら、二人ともあの『白女』に会ったみたいだな」
やはり、こいつは人の心が読めるのだ。もし、そんな力があったとするなら占いをやるのは、容易いだろう。心を読んで、その人間が本当に望んでいる事を言ってやればいいのだから。
「それで、『白女』に目覚めさせられた口か」
ここまで心を読まれては、駆け引きも何もあった物ではない。単刀直入に切り出す事にする。
「俺は超能力者の情報が欲しい」
「それを知ってどうしようというのだ」
笹賀原は、執事が用意した紅茶を口に含んだ。ちなみにこの男は連達には何も出さなかった。「金を出せば茶は出す」などというので、断ったのだ。
「この力を悪用している者が居るなら止める」
「何の為に?」
男は連の言葉に被せる様に問いかける。
連は目の前に居る男を睨んで言う。
「正義の為だ……」
男は、少し面食らったようだった。手にした紅茶のカップを落としそうになり、慌てて持ち直す。「すこし零れたではないか、勿体ない」などと言いながら、それをテーブルに置き、改めて連を見た。
「本気で言っているのか?」
連の答えに、どうやら心底驚いている様だった。心が完全に読めるわけではないのだろうか。
「なんだ? 貴様はその力を悪用する者が居たら、止めたいと? 誰も傷つけさせない為に?」
連は怯まず答える。
「そうだ」
またしばらくの間、男は言葉を失っていた。そして、遠くを見る様に天井を仰いだ。何か物思いにふけっているのだろうか。
しかし、それも一瞬だった。
「では、私が力を悪用しているとしたら、私も止めようというのかな……?」
連ははっきりと力強く答える。
「もちろんだ……!」
その答えを受け、笹賀原は「なるほど、なるほど」と言って、小さくうなずいていた。
そして、
「虫唾が走る」
一言言い放った。
「正義の為だと?」
男は眉を吊り上げ、眉間に皺を寄せて、連を睨む。
「私はおまえの様に正義感の強い男が大嫌いだ」
そして、連は――――
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