第23話
「お兄ちゃんは、正義の味方だねえ」
俺の妹。凛はそう言った。
幼稚園児の妹の手を引いて、歩いていた小学生の頃。
妹をいじめていた子供から妹を守る為に、喧嘩をした後の事だった。いじめと言っても幼稚園児。じゃれあいの延長線上のようなものだったが。
自分の妹を守るのは当然の事だと思っていたし、特別な事をしているという自覚はなかった。ただ、自分の妹をいじめる奴は許さないと、かっとなっただけと言えた。
そこには、信念や思いがあった訳ではなかった。ただ、自分がそうしたい、と思ったからそうした。それだけの事だった。
「お兄ちゃんは、正義の味方なんだねえ」
でも、俺は『正義の味方』、その言葉に酔った。
ある意味、子供らしい、当然の感情であると思う。
子供は「ヒーロー」に憧れる。
当時の俺もそんな例に漏れないただの子供だったのだ。
もちろん、凛の方だって何か深い考えがあった訳ではないだろう。
憧れの兄。それを形容する言葉として、彼女の語彙の中にあった言葉が『正義の味方』。きっとそれだけだったんだと思う。
凛の言葉をきっかけにして、俺は『正義の味方』になろうと決意した。
「決意」なんて言葉を使ったけれど、それはやはり子供の遊びの延長戦上でしかなかった。悪い事をしてる奴が居たら止めよう、くらいの思いはあったが、自分の身を犠牲にしてまで、それをしようと考えていた訳ではなかった。自分より体格の大きい中学生は当然怖かったし、大人がやっている事はきっと正しい事なんだろうなんて思っていた。
要するに当時の俺は、『正義の味方』に憧れる、ただの餓鬼に過ぎなかった。
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